La Perte du Passage

@Pz5

立秋の破壊

 その風には夏の終わりが乗っていた。


 コンクリートの壁に鉄球が打ち付けられる。

 剥がれる壁。

 砕け、散る塗膜。


 ああ、あの辺りにはミスドやスタバがあったなぁ……


 風に舞った粉塵に混じって、残された木製カウンターの破片が見えた。


 機関銃や爆撃機に襲撃された様な轟音の中、それらの破片は夏の日差しを受けキラキラと静かに舞っていた。


 柔らかなクリームホワイトに爽やかなビビットグリーンが入り、親しみやすさを考えられた外壁に鉄球が打ち付けられる。


 打ち付けられた壁には都度ヒビが広がり、鉄筋を晒し、その中から冷たいグレーと鈍い赤褐色が溢れ、崩れ、埃が舞う。


 打ち付けられた鉄球はその瞬間に運動エネルギーと位置エネルギーを衝撃と轟音に変え、その鎖を大きく唸らせた後、再び巻き上げられ、次の一撃への力を溜める。


 淡々と。


 人々が叫び、指示を出し、再び鉄球が放たれる。


 壁から剥き出された錆避けの鉄錆色がドロリとした鮮烈さで日常の色を覆い、それすらも粉塵の白が無意味に覆っていく。


 僕の職場がーー

 僕の日常がーー

 僕の青春がーー


 皆、壊されていく。


 破片の上に積もった白い粉達もまた、細かい機械に掃き追いやられ、意味を奪われていく。


 あの子との思い出がーー


 その墓標さえも消されていく。


 風は、熱を僕に押し当て、静かに夏を追いやっていく。

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