バッチグー戦士ビューティーダー

九木十郎

プロローグ

 スマホによく分からないCMだの広告だのがメール配信されてくるのは、昨今の世間一般における常識の一つだ。

 そして溢れんばかりの同業他社をかき分け、たとい毛先一本分でも突出しようと、短い枠に素っ頓狂で珍妙なセールストークを刻むのもまた、よく見る光景であった。

 その日に着信した広告メールもまたその類い。そう確信して、ろくに読もうともせず削除しようとしたのだが、ほんの気まぐれで開いてしまったのはコピーライターの勝利と言えよう。

 曰く「きみもなろう、魅惑の美少女戦士」

 なんじゃコリャ。

 男の娘でも、もう安心。ジェンダーレスの昨今で生物学的性差を論じるのはナンセンス。美少女戦士に変身して此の世の悪を殲滅だ云々。

 ちらりと斜め読みしただけなのだが、これを書いたヤツのIQを疑った。なんて頭の悪そうな宣伝コピーなんだ。恐らくゲームかアニメのイベント配信の類いだろうが、もうちょっと別の煽り文句があるだろう、こうしてメールを開いてしまったオレが言うのもなんだけど。

 そーいや、柳田とかいうネット廃人一歩手前の同輩やつが言ってたな。仮想現実な世界では「バーチャル美少女受肉」とか云って、自分の描いた美少女のイラストを自分でプロデュースする文化があるとかなんとか。なんでもイラストの少女になりきって、描いた本人が声あてしたりチャンネルに訪れたネット民と会話を楽しんだりしているらしい。

 本人も、自身がオトコであるコトを公開しているのが、なりすましとは根本的に違うのだとかなんとか。略して「バ美肉」とか言うらしい。ついていけない世界なので「なるほどそうですか」とかしか言えないけれど。

 恐らくこのメールもその類いのコンテンツだな、そう見当を付けた。

 吃驚するくらい長い文面だった。契約だの規約だのという文字が躍っていたが、全部読むのも阿呆くさくてそのまま削除した。これでこの件は終了、実にしょうもない。そのままこのメールが来たこと自体、忘却の彼方へと蹴り飛ばした。

 そう、コレで終わりのハズだったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る