ひとくち小説詰め合わせ
火属性のおむらいす
クリームソーダ
「あ、クリームソーダ。」
行きつけの喫茶店の中。メニューの隅っこにその文字を見つけて、僕はちょっとドキッとした。
別にクリームソーダが好きな訳じゃない。そもそも僕は炭酸が飲めないのだから、むしろ嫌いな部類に入るのかもしれない。それでもあのメロンソーダの緑色はなんだか懐かしく思えた。
そういえばあの時はいつもクリームソーダを飲んでいたな、とふと思い出す。炭酸が苦手なくせに、あの味が好きだからとそれだけの理由で、意地を張ってクリームソーダを頼んでいた。けれどやっぱり途中で炭酸に負けそうになって、何か別の食べ物を食べて誤魔化すところまでがワンセットだ。一緒に食べるものはフレンチトーストだったりパンケーキだったり、パフェだったり気まぐれにころころと変えていたけれど、いつも甘いものだった。…クリームソーダも甘いのだから、口の中はかなり甘ったるいことになる。それでもやっぱり甘いものは美味しいから、つい選んでしまうのだ。
食べ終わったら、最後にさくらんぼを食べて、ちょっと果物の酸っぱさを感じて終わり。そして、ああ今日も美味しかったと言いながら夢心地で喫茶店を出るのだ。
「すみません」
僕は手を挙げて、近くの店員を呼ぶ。
「お決まりですか?」
「えっと…コーヒーを1つ。」
「かしこまりました。」
メニューをたたみながら、僕は誰も座っていない向かい側の席を見やる。
『じゃあ、クリームソーダください!』
僕の向かい側でいつも笑っていた彼女はもう居ない。
先月、彼女に突然フラれた僕は、今日もこうやって喫茶店の中で感傷に浸る。あの時と変わらず、ちょっと背伸びしてほろ苦いコーヒーを飲みながら、甘い物を食べながら幸せそうに笑う彼女の顔を思い描くのだ。
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