第2話 ルイス・ハメット

 

ぼくの通っている学校は、マーキュロっていう町にある。


マーキュロっていうのは、ずっと昔の勇敢な兵士の名前なんだけど、まるで消毒薬みたいだろう。


だから、ほかの土地の子供たちは「あかちん村」ってからかうんだ。


 


おっと、先生の話だったね。


今度の先生は、ルイス・ハメットという名前で、グレナダ島からやってきたそうなんだ。


うんと南のはなれ島で、くだものがたくさん取れるんだって。


ハメット先生はそこの小学校からやってきた。


先生はとても大きな体で、大きな声だった。


「おはよう」って、あいさつしながら、教室に入ってきたんだけど、とにかく声が大きいんだ。


ぼくは大砲が爆発したと思ったくらいだ。


おまけに大きな布のバッグをかかえていた。いったい何が入っているんだろう。


ハメット先生は、まずみんなにあいさつをした。


「ハメットといいます。このクラスの担任になりました。ええと、まずみんなの顔を覚えたいので、元気よく返事をしてほしい。いいかい、まずはセシル」


教室はしーんとした。


「セシル」


先生は大声でよんだ。 だれかが言った。


「セシルはとなりのクラスです」


先生はきょとんとしていた。


「どうしてセシルがとなりのクラスにいるんだ」


先生は真剣に考えているようすだった。


この先生、ずいぶんおっちょこちょいだぞ。


クラスをまちがえてやってきたんだ。


ぼくたちはクスクスと笑いはじめた。


「おかしいな、では、ジーン・クラフト」


だれも返事しなかった。


「ジーン、いるのなら返事をしてくれないかな」


まただれかが言った。


「ジーン・クラフトもとなりのクラスだよ」


そのとき、となりのクラスのアイダ先生が、おそろしい顔をしてぼくらのクラスへやってきた。


「ハメット先生。 どうしてウチのクラスの子の名前をよぶんです」


「えっ、アイダ先生のクラスの子なんですか」


「そうです」


「どうりで返事しないと思った」


ぼくらはわけがわからなくなった。教室をまちがえたわけではないみたいだ。


ハメット先生は、頭をボリボリかいていた。


「名簿をまちがえて覚えてしまったんですよ、アイダ先生」


ぼくらはずっこけた。


つまりこうだ。


この先生がぼくらの担任だというのは、まちがいないんだけど、先生はとなりのクラスの子の名前を覚えてきてしまったというわけ。


職員室でたまたま横にあった名簿を、自分のクラスの子たちだと思ったらしい。


熱心なんだけど、どうもドジばっかりしてる子っているよね。


ハメット先生はそんな子供が大きくなった人みたい。


でも、ぼくは好きだな、そんな先生。


 


先生がかかえてきた大きな布のバッグの中には、なんとグレナダ島のくだものがいっぱい入っていたんだ。


「みんな、これはグレナダのバナナだよ。とてもおいしいから、ぜひ食べてみてほしい。これはパパイヤ。これはマンゴー。これはパイナップル」


先生は、バッグから色とりどりのくだものを取り出して、机に並べた。


「すごい。くだものがたくさん!」


「甘いにおいがして、おいしそう!」


「カラフルでかわいい!」


みんなは目をキラキラさせて、くだものに手を伸ばした。





「ちょっと待って。まずは、このくだものについて少し勉強しよう。どれがどんな味で、どんな栄養があるか知ってるかな」


先生は、くだものに関するクイズを始めた。


「では、バナナはどんなビタミンが多く含まれてるかな?」


「ビタミンA!」


「ビタミンB!」


「ビタミンC!」


みんなは元気よく答えた。簡単、かんたん。ビタミンくらい、だれだって知ってるもんな。


「正解はビタミンBだよ。特にビタミンB6は健康な肌や髪の毛、歯を作るはたらきがあるんだ。では、青パパイヤはどんな効果があるかな」


「消化を助ける!」


「肌をツルツルにする!」


「病気にかからないようにする!」


みんなはまた答えた。なんか当てずっぽうに聞こえる。


「『消化を助ける』だよ。青パパイヤにはパパインという酵素が含まれていて、たんぱく質の分解を促進するんだ。では、マンゴーはどんな色の果肉があるかな」


「黄色!」


「オレンジ!」


「真っ赤!」


みんなはさらに答えた。


「全部正解だけど、普通は黄色だね。マンゴーは果肉が赤くなるほど、糖度が高くおいしいんだ。もちろんその分値段も高くなるけどね。では、最後にパイナップル。みんなはどうやって食べる?」


「皮をむく!」


「スパっと切る!」


「そのまま、ガリっとかじる!」


みんなは最後まで悩みながら答えた。


「正解は皮をむいて切るだよ。みんな、カットしたやつしか食べたことなんじゃないの?『そのままかじる』って、口の中が血だらけになっちゃうだろ。パインはまず、固い皮をむかなきゃ。こうやるんだ」


先生は、包丁とまな板を出して、くだものを切り分けた。


「どうぞ、お待ちかね。自由に取って食べて」


みんなは教卓に置かれた、紙のお皿とプラスチックのフォークを持って、くだものを取った。


「みずみずしくて、おいしい!」


「すっぱいけど、おいしい!」


「ジューシーでおいしい!」


みんなは笑顔でくだものを食べた。


「先生、どうもありがとう!」


「先生、なんかすごい!」


「先生、わたし、くだもの、大好き!」


みんなは先生に感謝した。本当においしかった。



「どういたしまして。となりのクラスにもおすそ分けしなきゃ」


先生は優しくほほ笑んだ。布の袋を肩にかつぎ、まな板をわきにかかえて、となりのクラスへ出かけていった。


それはやめたほうが…とクラスのだれもが思ったけど、少しおそかった。


予想どおり、となりのクラスからアイダ先生の金切り声が聞こえてきた。


 


まぁとにかく、こうして、ハメット先生とぼくらの学校生活が始まったのだった。

 

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