第6話 大量ゾンビの襲来
しばらくすると若い男が突然、泣きわめき始めた。自分の腕が斬り落とされた事がショックで混乱しているようだ。だがあのままにしていたら明日にはゾンビに変わってしまうだろうし、俺としてはああするしか方法が無かった。それとも腕を無くすよりゾンビになりたかったとでも言うのだろうか? そんな変わった信仰がある部族なのだとしたら、俺は勝手な事をしてしまったかもしれない。とりあえず声をかけてみる。
「蘇生魔法や再生魔法が使えるヤツを探そう。腕はまだ間に合う」
俺がそう言い聞かせるも言葉が通じないので、男はうずくまったまま泣いて動こうともしない。他の三人もようやく事態が飲み込めたのか、男に歩み寄りなんとか立たせようとしている。俺はなんと言っていいか分からず、その場で様子を眺めていた。すると年配の男が俺に何か叫び始める。
「%=4=*+#%$!!!」
少し怒っているような雰囲気だが、俺が腕を斬り落としてしまった事を怒っているのかもしれない。とりあえずこの人達の宗派の決まりが分からない俺は、勝手な事をしてしまった事を謝る。
「もしかしたらゾンビ化は止めちゃいけなかったのか? そうだとしたら申し訳ない事をした。そんなしきたりがあるとはつゆ知らず、俺は勝手な事をしてしまった。ゾンビ化は早く処置しなければならないから、焦ってやってしまったんだ。すまん」
それでも年配の男が何かを言い続けている。俺が何をしたらいいのか困っていると、ミオが年配の男に何か言い始めた。すると今度は年配の男とミオが口論を始めた。ミオは地面に落ちている若い男の腕を指さし、そして俺を見て何かを言っている。身振り手振りからすると、ゾンビ化を阻止したことを年配の男に伝えてくれているようだが…
ボン! それはいきなりだった。燃えている巨大な鉄の馬車が突然爆発した。その爆発で俺の前に居た年配の男とミオが吹き飛ばされる。俺はあれしきの爆発など、どうということは無いが前の二人は飛ばされて火傷と血を流していた。
「トラップか? これはお前達が仕掛けた物だろう?」
俺が残った女に声をかけるも、女は真っ青な顔ですとんと腰を落としてしまった。
こいつらはいったい何をやっているんだ? 何かの冗談か?
俺は急いで年配の男とミオに駆け寄り治癒魔法をかけた。このくらいの怪我と火傷であれば俺の魔法でも十分直せる。年輩の男とミオに刺さっていた破片は全て抜け落ち、光に包まれて火傷と傷口は塞がっていった。
「欠損部分はないようだ」
俺が言うと、不思議そうな顔をして年配の男とミオは自分の体を見ていた。
「キャー!」
もう一人の女が叫び声をあげるのでそちらを見ると、女が見ている方向からゾンビがぞろぞろとやって来た。恐らく今の爆発音につられてやって来たのだろう。アイツらは音に反応しやすいからな。
「%$=~$=*+@!!」
年配の男が何やら叫んだ。すると反対側からもぞろぞろとゾンビがやって来る。慌てたミオと年配の男が若い男に肩を貸して立たせ、もう一人の女と先ほどの宝物庫の中へと歩いて行った。
「おい! せっかく採取した宝を置いて行くのか!」
地面には籠が置いてあり、そこにはせっかく採取したお宝が置きっぱなしだった。爆発で飛ばされて散らばっている物もある。
まあ宝物庫の中にはまだお宝があったし、アイツらはゾンビをさばけないようだ。一旦非難と言ったところか…。それにしても随分弱い冒険者パーティーだ。年配の奴は見た感じからすると、マジックキャスターのようだったが違うみたいだ。前世で、あんな年齢の駆け出しパーティーなんて見た事無いから、俺が勘違いをしてしまったらしい…
一人残った俺は地面に背負子と鞄を置いた。そして鞄の中から長めの包丁を二つ取り出す。
ゾンビなんて…レベル十くらいの奴らが狩るモンスターだろ…。推定レベル千を超えている俺がいくら狩っても、これ以上レベルが上がらないんだが。そしてあのゾンビ…魔石が無いときたもんだ。とにかくゾンビを処理できない奴らが宝物庫にいるしなあ。ぱっと見は百数十体のゾンビがいるから、俺が討ち漏らしたらアイツらが襲われる。パラディンのレインラードなら、聖魔法一発一瞬で終わる仕事なのに。兎にも角にも面倒な仕事は早急にかたずけてしまおう。
「あーあ」
俺は数百体のゾンビを見てうんざりしながらも、二本の包丁を持ってゾンビの方に歩いて行く。するとその時、宝物庫の入り口から叫ぶ声が聞こえた。
「%$$~#**+!!」
ミオだった。ミオが慌てて俺においでおいでをしている。他の奴らは来ないようで、たった一人で俺を迎えに来たらしい。俺はミオに中に入るように身振り手振りで指示をする。だが彼女は俺の言う事を聞かずにそこにいるのだった。
一体何をしてるんだ?
距離測定。ミオまでの距離で到達時間が早いのは後ろから来ているゾンビだ。先にそっちから行くか。ミオがやられてしまっては戦う意味も無いしな。
「シッ!」
俺は後方から来るゾンビに縮地で迫り、軽くスキルを発動させながら首を飛ばしていく。残念ながら一秒で十体ほどしか倒せないのは、この武器のせいだ。武器と言っても包丁なのだから、これが精一杯。こちら側のゾンビを全て殲滅するまで十数秒、そして俺が振り向くと反対側のゾンビがミオの所まであと十メートル。ミオが真っ青な顔で俺に叫び続けているが、どうやら俺がどこにいるかを見失っているらしい。見当違いの方向に叫び続けている。
「あれ…冒険者じゃないな。もしかしたら魔力無しか?」
とにかくミオに迫るゾンビを何とかしなければならない。俺は縮地ですぐさま反対側のゾンビの前に現れる。さっきより数が多いが、この数なら討ち漏らす事は絶対にない。ゾンビの中に突入し、次々とゾンビの首を刎ね飛ばし始める。だが包丁の切れ味が悪くなってきて、討伐速度が少し鈍って来た。俺を素通りしたゾンビがミオの方に向かっている。仕方ないので、達人級のスキルを発動し倍の速度で討伐する。ミオの方に向かったゾンビが、後五メートルの所に差し掛かったところで最後の一体の首を刎ねた。
倒れたゾンビの向こう側にミオの顔がある。ストン! とミオが尻餅をついてしまったので、俺は手を差し伸べた。何やら鼻をつく臭いがするが、その原因はすぐにわかった。よく見るとミオは失禁してしまっていたのだ。
そんなに怖かったなら、他のやつらみたいに宝物庫に入っていればいいのに…この子は最後まで俺の事を心配してくれていた。そのミオの表情に、俺はふとエリスの面影を見るのだった。
「大丈夫か?」
俺がミオに手を差し伸べると、ミオが俺の手を取って立ち上がる。手は震えているが、落ち着いてはいるらしい。ゾンビごときでこんなに恐れるとなると、間違いなく魔力無しなのかもしれない。それならそれで武術か剣技で戦えばいいと思うのだが、何も出来ないところをみると、もしかしたら彼らは商人なのかも…
とにかく俺はミオを連れてふたたび宝物庫に入るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます