終末ゾンビと最強勇者の青春 ~レベル1000超えの異世界最強勇者が、能力そのままで終末ゾンビ日本に転生したのでそのまま青春します~
緑豆空
プロローグ 魔王討伐のち異世界東京
魔王。
いやあ…流石に強敵だった。死ぬかと思った。いや…何回も死んで蘇生魔法と貴重な神級復活アイテムで生き返らせてもらい、やっと倒した。史上最強と言われた勇者パーティの俺達でもギリギリだった。運が味方しただけで、むしろ倒せたのは奇跡に近いだろう。
まずはこのダンジョンについて話さなければならない。この魔王ダンジョンは入り口から入ってすぐの一階層から、A級モンスターで溢れかえっていた。小さいダンジョンなら最下層にいてもおかしくないような奴らが、一階層からゴロゴロいたのだ。まさか一階層で通常ダンジョンのボス級である、キマイラやミノタウロスにエンカウントするなんて思ってもみなかった。そしてそいつらが雑魚モンスター扱いなんて、聞いたこともみた事もない。
普通ダンジョンの一階層なんて、せいぜいゾンビかスケルトンだろ。
まず俺達は地下三階層で一度退却を余儀なくされた。何故ならば、リッチやゴーレムがウヨウヨいたからだ。強力な魔法攻撃をしてくる大量のリッチを、物理も魔法にも耐性があるゴーレムが守っていたのだ。俺達は手も足も出ずに一度逃げ帰って来た。それも面倒なことに、逃げ帰る時も階層毎にモンスターを倒しながらだ。
魔王ダンジョンを出た俺達は、世界各地を回って神器や伝説の魔道具をしこたま補充してきた。そのおかげで俺達は格段にレベルアップする事が出来た。俺などは既に勇者史上最強と呼ばれるようになってしまう。
ともかく苦労の甲斐もあり三階層を突破して、地下四階層にたどり着いた。だが俺達はまたも信じられない現実を突きつけられる。なんと地下四階層には伝説級の獄炎ドラゴンがいた。こいつがラスボスの魔王かと思ったくらいだ。このままでは絶対死ぬと思った俺たちは、やっと手に入れた神器のポータルを使い準備の為にアジトへ戻った。
そこで俺達はポータルの凄さを思い知る。なんと一度座標を決めると、ポータルに入れる大きさなら、なんでも持ち込める事がわかったからだ。そこで俺達は考えた。まず獄炎ドラゴンは一定距離近づかないと動かない。恐らくは縄張りのようなものがあるのだろう。だからしっかりと準備をする事ができた。大砲を並べて爆裂魔法陣を描き、あちこちに予備の魔剣や神器を隠した。ポータルがあるからこそ出来る芸当である。
作戦はまんまと上手くいった。かなり苦戦はしたものの、ポータルのおかげで死ぬ事なく獄炎ドラゴンを攻略出来たのだった。流石に普通にぶつかっては勝てなかったかもしれない。
この魔王ダンジョンは、誰も足を踏み入れてない為に情報が全くなかった。だから何階層まであるかも分からず、俺達は今までのダンジョンのように最高でも十階層くらいだと思っていた。ところがだ。獄炎ドラゴンを討伐した後、数年かかって踏破した階層はなんと三十七階層…。一体どこまで続くのだろう? しかもモンスターは階層を追うごとに強力になっていき、よく三十七階層までたどり着いたと我ながら思ったものだ。既に神級とかS級とか呼ばれるモンスターしか出て来ない。それはそれは死ぬほど辛い思いをしながら、俺達は下層下層へと進んで来た。
そのおかげで既にパーティー全員が史上最強の名をほしいままにする、一騎当千の強者となっていた。例えば慈愛に満ちた聖母と呼ばれた回復術士の大聖女エリスは、世界最強の誉れ高き近衛騎士団長の剣鬼シュバルツ以上の剣の腕前だ。本業の回復術などは神業と言っても差し支えなく、俺達は彼女から何度も蘇生させられている。そして大賢者と呼ばれたマジックキャスターのエルヴィンは、剣技のみならず弓術でも恐ろしい技を持っていた。弓の速射などは雨あられのように矢が降り注ぎ、本業の魔法に至っては一撃で王国を消滅せしめるほどの威力となった。神の使いと呼ばれるパラディンのレインラードに至っては、剣技と体術にかけてはS級モンスターを瞬殺する域に達している。人間ならば十万人でかかっても倒せはしないだろうモンスターを瞬殺だ。それにも関わらず神級の超回復魔法とバフとデバフが使える。彼からの身体強化によって、俺などは獄炎ドラゴンが百匹いたとしても一秒もかからず瞬殺できるようになった。
そしてもう一つ、そんな辛いダンジョン攻略作業に一つだけ良い事があった。ポータルでこの魔王ダンジョンのモンスターの素材を持ち帰るたびに、恐ろしく高額で取引されたのだ。俺達の活動資金は必要以上に膨れていった。とにかく珍しい素材のオンパレードで、もしかすると世界の王族より金持ちなんじゃないかと思えるほどだ。だからと言って魔王討伐の使命を終わらせる事は出来ない。魔王に世界を滅ぼされれば、いくら富を手にしたところで何の意味も無いからだ。
そしてある時、俺はポツリとつぶやいた。
「しかしさあ。もうこのダンジョン以外では、レベルアップ出来なくなったな」
するとパラディンのレインラードが答えた。
「仕方ねえだろ。このダンジョン以外のモンスターなんて紙屑みたいなもんだ。俺達はこの魔王ダンジョンに留まって鍛えるしか方法がねえんだよ」
するとマジックキャスターのエルヴィンが手を左右に広げて、ひらひらさせながら言う。
「むしろ一番効率が良いのが、この魔王ダンジョンだね。普通の冒険者は一階層すら突破できないんだし、ここでひたすら修練するしかないと思うね」
すると聖女エリスが言った。
「大丈夫。何度死んでも私が生き返らせるから! 自分の身は自分で守るし、みんなはひたすらモンスターを狩ってくれればいいわよ」
とにかく頼もしい奴らだ。エリスがいるといつも体力が満タンで戦える。レインラードには背中を預けられるし、エルヴィンのおかげで雑魚には一切かまう必要が無い。こいつらとなら必ず魔王を倒せるだろう。しかし俺達がこのダンジョンに潜り込んでから、もう何年たった事だろう? 今が三十七階層でどのくらい続くのか、皆目見当がつかなかった。
「なあ、レイン。このダンジョンはあとどのくらいあるんだろうな?」
「さあてな、まさか無限に続くって事もあるまい」
そう答えたレインラードの脇から、エルヴィンが言った。
「これほどに強いモンスターは、世界のどこを探しても見当たらないしね。僕はそろそろ終わりに近づいているんじゃないかと思うがね」
するとエリスが言った。
「そうよね、まだあどけなさの残っていたあなた達が、こんな立派な青年になるくらいここに潜っているのだものね」
「そう言うエリスも、随分と色気が出て来たみたいだけどな」
「あらぁ? 私も色っぽくなったのかしらね? あなた達は私に興味ないみたいだし、王都に戻ったら王子にでも求婚してもらおうかしらね」
するとレインラードが笑いながら言う。
「あっはっはっはっ! こんな強くておっかねえ女房なんて、あの若い王子が必要とするかね?」
それにエルヴィンが返した。
「エリスを嫁に貰いたいのは、ケインだろ?」
「あらぁ、ケインー! そうなのぉ?」
俺は正直な事を言うとエリスに好意を持っている。もし可能ならば、魔王を倒したら俺が娶ってやりたいと思っている。まあ、エリスが良ければだが。
「まあ縁起でもない。こういう約束事は、戦いが終わってからにしたいな」
「ちげえねえ」
そう。冒険者がこういうところで、将来を語るのはあまり良くない。ジンクスのような物だが、俺達はいま魔王ダンジョンにいるのだから。とにかくゲン担ぎは大事だ。
「とにかく、最下層はもうすぐかな?」
俺がもう一度聞くとレインが答える。
「俺の勘では四十階層ってところじゃねえか?」
「あと三階層ってところか?」
すると今度はエルヴィンが答えた。
「二十八階層辺りに居た時は三十階層で終わりだとか言ってたぞ。たぶん、予想では五十階層って所だと思うけどね」
それじゃあ…あと二、三年くらいかかるんじゃないか?
それを想像して四人はげんなりとした表情をした。
「ともかくコツコツやりぬくしかない」
「だな」
「そうだね」
「ええ」
そうして俺達は三十八階層へと降りていくのだった。
それから……、結局のところ…。
恐ろしい事に最下層まで来るのに十年かかった。なんと最下層までは百階層もあったのだ。魔王の座は地下百階層にあり、そこにたどり着くまでに俺達四人は神と呼ばれる存在に近い人間になっていた。更に百階層に到着してから魔王を倒すまで、俺達は恐らく一週間はぶっ続けで戦っていたと思う。睡眠もとらず、死にそうになったら回復して死んだら蘇生してを繰り返した。既にエリスとレインとエルヴィンの三人が蘇生魔法を使えるようになっていたので、無限に死ぬことは無いように思えた。俺はといえば神級回復魔法を使えるが流石に蘇生は出来ず、他の三人が即死したら終わりな状況が続いた。だが攻撃特化して来たのが功を奏し、魔王に大きいダメージを与えられるのは俺だけ。後はひたすら三人が補い合って俺を生き返らせ、身体強化をし続けて戦ったのだった。そのおかげで俺は魔王と戦っている間に、七百位レベルアップしたと思う。過去の人類最高レベルが八十四なので、俺はその十倍近く強くなっていた。魔王の階に入る直前まではレベル三百ほどだったので、恐らくレベルは千を超えている可能性がある。
そして俺達の前には、化物に変化した魔王の骸が静かに横たわっていた。とにかく強くて、いくら削り続けても倒れる要素が無かった。しかも最強の回復魔法を連発し、半分も削るとあっという間に回復しやがった。俺達が魔王を倒せたのは奇跡に近く、神級の蘇生薬も回復薬も全て使い果たした。御伽噺で聞く魔王はこんなに強くはなかったと思ったが、本当に魔王なのか?と思った。死ぬ前にこの魔王は自分が世界の中心だとかなんとか言っていた。俺にはそれが気になった。
「やったな…」
レインが言う。
「ああ…」
俺達はもう魔王が復活してこないのを確認して、ようやく腰を下ろして体を休めていた。十何年もこの魔王ダンジョンに人生を費やして来た。それが今やっと終わりを迎えようとしている。
「これ以上の敵はもういないだろう」
「ああ」
するとエリスがへとへとになりながらも、俺に話しかけて来る。
「ケインさん? ケインターク・ルヒカル! もうジンクスなんて関係ないわよね?」
こんな時に…、いや…こんな時だからこそか…
「そうだな…。レインもエルヴィンもいいかな?」
レインとエルヴィンが俺を見て笑いながら言う。
「俺達がどれだけサポートして来たと思ってんだ。言って良いぞ」
「そうだ。お前ならエリスを任せられる」
そして俺はボロボロの体を起こして、エリスの前に跪いた。
「エリス。戻ったら俺と一緒になってくれ」
「随分真っすぐに来たわね?」
「ダメか?」
「ダメじゃないわ! よろしくお願いします」
「そうか。よろしく…」
俺がプロポーズをし終えたとたんの出来事だった。突如地鳴りがして、地面が大きく揺れ出した。一体何が起きたというのだろう?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
すると、魔王の骸から突如光の球が浮かび上がって来たのだった。
「まさか! 復活したのか!」
「冗談だろ…、もう魔力も尽きてポーションもゼロだぞ」
「僕もレインと同じだ。もう魔力が無い」
「私も、復活なんて無理だわ…」
俺達にはもう抗う術はなかった。とにかく地響きが凄くて、恐らく立ち上がる事も出来ない。すると光の球から突如声が聞こえて来たのだった。
「我は滅びた。だが我の魂核が消えればこの世界は消滅する」
「えっ!」
「マジ!」
「なんだって?」
「うそ!」
声が洞窟内に反響するように響き渡る。
「我はこの星そのものなり、我を魔王と呼んだそなたらは過ちを犯したのだ」
「そんな…、王家から討伐依頼を受けてこれまでやって来たんだ。魔王を滅ぼさねば、世界が滅びると陛下は言っていたはずだ…」
「迷い事を…。まあよい、我の魂核が砕け散ると同時にこの世界は消滅する」
嘘だろ…。今まで稼いだ金も、エリスとの未来も何もかも水の泡かよ…。十数年もこんなに辛い思いをして、俺達が討伐したのはこの世界そのものだと?
たまらず俺は叫んだ。
「待ってくれ! お前を!!! あなたを復活させればこの世界は滅びなくて済むのか?」
「そういう訳にはいかん。我の魂はもうじき尽きるのだ…」
「そんな…」
俺達四人はいきなり絶望の淵に立たされることになった。俺達は必死に、この世界を壊すために戦って来たと言う事になる。あんまりな出来事に、正気でいる事が出来なくなりそうだった。
「一つだけ方法がある…」
この星の魂が呟いた。
「なんだ!? 教えてくれ! どうにかできるのか?」
「出来るとも」
「本当か?」
するとすこしの沈黙があって、その光の球が俺に語り掛けて来た。
「人にして人にあらず、ケインターク・ルヒカルよ。お前の魂をもってすれば、我の崩壊を防ぐ事が出来るであろう。お前がこの星をも飲み込むほどの力を身に着けた事が、不幸中の幸いであったかもしれぬな」
…えっ? って事はどういう事?
「あの、俺の魂を捧げろと言う事ですか?」
「その通りだ。さすればこの世界の崩壊を食い止められるであろう」
俺はレインとエルヴィンとエリスを見る。三人は首を振って俺を止めようとした。そしてレインが言う。
「俺の! 俺の魂じゃダメか?」
「無理だ。まだその域に達しておらん」
「では僕の!」
「おぬしでもダメだ」
「私は! 私なら!」
「残念ならがその資格を有しておるのは、ケインターク・ルヒカルのみ」
「「「そんな…」」」
いや…、俺が犠牲になってどうにかなるのなら仲間を差し出さなくて済む。
「その時間はあとどれくらいだ」
「悠長に話をしていたからな。あと五分も無い」
マジか…
「エリス…。すまん…やっぱりダンジョンで約束なんかするもんじゃないな」
「えっ! まって! ケイン! 私嫌よ! 私はケインと一緒に幸せな家族を作る予定なんだから!」
「いや、世界が無くなっちまえばそんな事も言っていられないだろ」
「うそ! 嘘よ! 嫌よ! 」
「レイン! エルヴィン! エリスを!エリスを頼む!」
「ケイン…待てよ」
「待ってくれ…」
レインもエルヴィンもエリスも号泣して俺にすがりつこうとした時だった。魔王から浮かび上がった球が眩しく輝き始める。そして球は振り絞るようにつぶやいた。
「時間だ…」
まったく別れの時間も無いのかよ…
「分かった! 俺を連れて行け!」
「了承した」
近くにいたエリスが俺に抱きつこうとしたが、光り輝く光景を最後にその姿は見えなくなった。
エリスが抱きしめた場所には既に誰もおらず、俺は光の屑となって飛び散ってしまうのだった。魔王だった者から浮かび上がる球体に、その光が全て吸い込まれていく。
「これで約束は成った。世界は元の通りに救われるであろう」
いつしか魔王の骸も光の屑と化し、その光の球は玉座の上に浮かび上がる。そして少しずつ玉座に降りて行き、そして沈み消えてしまった。
地鳴りが止まったダンジョンの最下層にエリスの悲しい声が響き渡るのだった。
....................
「ぷっはぁぁぁぁぁ!」
あれ?
俺は滅びゆく世界の根幹を救うためにこの身を捧げたはずだ。だが俺は消滅することなく、ここに居る…。というかいつの間にか地上に出て来たみたいだ。俺はスッとその場に立つ。
「何だ…、一体何処なんだここは…」
四角い塔ような建物が沢山建っている場所に出た。だがどう見ても荒廃しているように見える。周辺を見渡しても見た事が無いものばかりだ。恐らくあの四角い建物は何かの塔だと思うが…
「これは…。小屋?」
俺の周りには様々な色の鉄の塊が置いてある 俺はそばにあった鉄の塊にはめ込まれているガラスを叩く。コンコン。随分と堅そうなガラスだった。そしてこれは恐らく小屋ではなく、何らかの乗り物かもしれない。よく見れば馬車のような形状をしており、車輪が四つ付いているようだ。こんな重そうな鉄の馬車を馬が引けるのだろうかと思う。
「しかし、あの塔はなんだ?」
高くそびえた岩を切り出したような塔。そしてところどころに透明なガラス窓がはめ込まれている。しかもそのガラスは王宮で見るようなものよりもはるかに大きい。だが、ところどころ割れているようだった。よく見ればあちこちで煙が昇り、そこら中に人間の死体が転がっているようだ。
死体があるってことは地獄…だよな。
「はあ…。数十年もダンジョンに籠って頑張ったってのに、まさか地獄に来るなんてな。これは間違いなく地獄だろ…。まあ無理も無いか…俺は世界を滅ぼしかけたんだからな。だけど鬼も何もいないようだが…案外地獄とはこういうもんなのかね?」
わけも分からず、俺は目の前にある鉄の馬車の開いたところから中に入ってみる。
やはり中には座席があるようだし、恐らくこれは馬車なのだろう。しかし、どうだろう…。この座席は馬車のそれよりふかふかで座り心地が良いな。そして何やら円盤のような輪がついているようだ、これを回せば動くのかもしれないな。だがその輪を軽くひねると、ボキン!と音を立ててクルクル回り始めた。なんとなくだが、壊れてしまったように思う。俺は輪を戻そうと思い、その中心を押した。
プ――――――――!
いきなり大きな音を立てたので、俺はさっと外に出て剣を構え…。
腰回りに手を回すが…。
あれ? 剣が無い…。てか、俺は裸じゃないか…
俺は見知らぬ地獄に丸裸で立ち尽くしているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます