キラ × キラ転生ランデヴー

紙月三角

第1話

【第198戦目】

世界線Y(ユーカ・ストレイニコフ 17歳)

   VS

世界線R(リリー・ニシマツ 18歳)

※お互いに、99勝99敗

――――――――――――――――――――




 そこは、全寮制のミッションスクール。とっくに門限の時間は過ぎているため、生徒たちはもう寮の自室に戻っている。

 だから、いつもならその夜の校舎の中を動く物なんてなく、そこは宗教施設特有のおごそかさと静謐せいひつのヴェールに包まれているはずだった。



「まさか、アンタだったなんてな!」

「あら? 不足だったかしら?」

 他に邪魔者がいない校舎の廊下を、追いかけっこするように二人の少女が走っている。

「いいや、むしろ光栄だってことさ! 学園の優等生で、みんなのアイドルのリリー・ニシマツ生徒会長様に、お相手してもらえるなんてな!」

 そのうちの一人、後ろを走っていたユーカが、手元のスイッチを押す。すると、前を走っていたリリーの足元の床が突然爆発した。

 しかし、リリーはそれを、ダンスでもするように華麗にジャンプしてよけた。


「ふふふ……」

 余裕のある様子で笑うリリー。輝くようなツヤのある黒髪ロングヘアーと、それによく似合っている清楚なワンピースの制服をはためかせながら、さっきの爆発でもスピードを変えずに走り続ける。

「私たちの記憶が戻った・・・・・・のは、今日のお昼ごろだったわよね? そのときからこれまでの間に、校舎の色んな所に今みたいな爆弾を仕掛けたってこと? みんなの目もあったはずなのに、よくやるわね」

「……っ⁉ それはお互い様だろ!」

 なにかに気づいたユーカが、自分の腕で口と鼻をふさぐ。それと同時に、近くの教室の木製ドアが勢いよく開き、そこから紫色の毒ガスが溢れ出してきた。

 あっという間に、ユーカの体はその毒ガスに包み込まれる。


「くっそっ!」

 ユーカはすぐさまさっきとは別の爆弾の起爆スイッチを入れ、その毒ガスを爆風で吹き飛ばす。それによって毒の効果からは逃れることに成功するが……それだけ近くで爆発があれば、当然自分にも影響がある。自分自身もその爆弾の爆風によって吹き飛ばされてしまい、廊下の壁に叩きつけられた。

 しかし、運動神経に優れたユーカはその程度のダメージはものともしない。体をバネのように柔軟に回転させ、すぐに起き上がる。そして、爆発でボロボロになってしまった制服を大胆に破いてしまって、ワイルドで動きやすい格好になって、またリリーを追いかけた。



「うふふ。現世・・では私が学園のアイドルなんて言われているけど……覚えている? 確か、あなたが地下アイドルグループのメンバーだった前世・・もあったわよね?」

 前を走りながら、今度はリリーが何かのスイッチを入れる。するとユーカの頭上の天井から危険な毒液がたれてくる。

「あのときは確か私、あなたに憧れているファンの女の子の一人で……それで、ライブのあとの特典会で毒針を隠し持った手で握手をして、あなたを殺してあげたんじゃなかったかしら?」

「はんっ!」

 ユーカは頭上の毒液に向けて、小さな爆竹のようなものを投げる。それが小さく爆発することで毒液を拡散、蒸発させる。

「その次の転生・・じゃあ、アタシとアンタは母娘おやこだったよな⁉ そんでアンタ、まだハイハイもできねーようなアタシがおもちゃを改造して作ったプラスチック爆弾で、あっさりおっちんじまったんだよな!」

 さらに、ユーカの投げた爆竹は周囲の壁や天井に仕込んであった導火線にも引火して、リリーにむかって連続した爆発の波が向かっていく。

「くっ!」




 彼女たちは、何の変哲もない同じ学校のクラスメイトでありながら……しかし同時に、お互いを殺害することを宿命づけられた、殺し屋キラーでもある。

 そんな今の彼女たちの状況を正しく説明するには、少なくとも二つの概念を持ち出す必要があるだろう。すなわち……『パラレルワールド』と『輪廻転生』だ。


 彼女たちは、異なる世界線……いわゆる、パラレルワールドの住人だった。


 無限に分岐したパラレルワールドが消費する形而上の情報量エントロピーを節約するため、定期的に行われる最適化デフラグ。平行世界全体を対象にした省エネ、断捨離。

 不要となった世界線パラレルワールドを消去し、その分のリソースを、より有用な別の世界線に分配する。その有用、無用を決定するための催し……それが、今二人が行っている殺し合いだった。


 それぞれの世界線から選出された代表者が、輪廻転生を繰り返しながら殺し合う。そして、先に100勝した方を勝者として、その人物が所属する世界を残し、敗者の世界を消去するのだ。

 公平さを担保するために、二人が転生するのはお互いの世界とは無関係の別の世界線、しかもそのタイミングや場所も、毎回完全にランダムに決定される。

 地球の反対側のまったくの無関係な二人として生まれることもあれば、ほとんど同じ時代のほとんど同じ場所に生まれることもある――実際に、第109戦目での二人は血のつながった母娘に転生した――。

 新しい命に転生した直後は何も覚えていない二人だが、ある日突然同時に――やはりこれも、完全にランダムなタイミング――それまでの前世の記憶が蘇る。そして、「対戦相手を殺す」という、自分たちの目的を思い出すのだ。



 自分が記憶を取り戻している時点で、相手もそうだということはわかっている。だから、余計な確認や探り合いなどは必要ない。

 今日の昼頃に記憶を取り戻した二人は、まるで約束をして待ち合わせていた・・・・・・・・かのように、静まり返った夜の学校に集合し、殺し合いを始めたのだった。

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