かしまし幽姫と都市伝説 其ノ二

「アタシ、最近気付いたんだがよォ?」と、ブラックコーヒーすすりに切り出すお岩ちゃん。

「うん、そうよ? ガサツよ?」

「そうね。ポイ捨て離婚されて当然ね」

「オマエらも戸板といたはりつけにしてやろうかぁぁぁーーーーッ!」

 一〇万歳生きた悪魔閣下みたいなキレ方したわ、この人。

「そうじゃなくてよォ? 何か最近、影薄くねぇか?」

「「幽霊だもん」」

「……ぢゃねーよ」

 じゃあ、何よ?

 え?

 うん、そうよ?

 わたし達、正真正銘の〈幽霊〉よ?

 でも、実体はあるの。

 ちょっとした事情があってね?

 そこで〈閻魔大王〉から実体を授けてもらって、現世に留まっているワケ。

 で、普段は〝人間〟を名乗って生活しているのでした★

 日常エンジョイなのでした★

「このところ〈幽霊〉の代名詞は〈貞●〉とか〈伽●子〉になってるじゃんか? 夏の風物詩って言ったら、アタシ達だったじゃん?」

「……王さん?」

「伏せ字に『はる』を入れんな? 一本脚打法じゃねぇぞ、お菊? それから小首コクンするな? 他作品のヒロインと被るから」

わたくし、正直うとかったのですが……朝ドラから知りましたわ」

「は? アイツら・・・・、朝ドラになったっけ?」

「あっちで〝クローバー〟やって、こっちでも〝クローバー〟絡みで……フフフ……ウケる♪ 」

「〝も●クロ〟リーダーの話ぢゃねーよ! アタシが言ってんのは『呪●』の〈伽●子〉だ! 〝夏●子〟の事ぢゃねーよ!」

「せーの……も●クロChaーーn♪ 」

 お露ちゃん、実はモノノフ?

 もしかして観てるの?

「アタシが言ってんのは〈幽霊・・〉の話だ! 〈幽霊・・〉の!」

「「ユーレー♪ 」」

 わたしとお露ちゃんは、ユニゾンで右手を頭頂にピョコン★

「そりゃ『UFO』だ! 〝ピ●クレディー〟往年のヒット曲だ! ついでに言えば、アタシらとは真逆のオカルトだ!」

 さすがに『昭和ネタ』には食い付き早いわね、お岩ちゃん。

 まあ、わたし達全員そうだけど。

「ってか、要らねぇ脱線で文字数喰うな! 進まねぇ!」

 逆よ?

 少しでも文字数埋めたいのよ? この作者。

「思い起こせば〈口裂くちさけ女〉だ! アイツが社会現象になったせいで、アタシらは〝もう古い〟みたいな扱いになったんだ!」

「〈口裂くちさけ女〉って〈妖怪〉だよ?」

「見事な逆怨みに着地しましたわね……怨霊だけに」

「……うし! シメんぞ!」

「は?」「え?」

「だから、アタシらで〈口裂くちさけ女〉シメんぞ!」

 また突飛な発想に行き着いた。

 お岩ちゃんって、いつもこう・・なのよね。

「シメる……って〈口裂くちさけ女〉悪い事何もしてないよぉ! お岩ちゃん!」

「悪い事しかしてないですけれどね」

 紅茶をすすって他人事ひとごとテンションなお露ちゃん。

くちいてんだろうが! アイツ!」

「そのアイデンティティー奪ったら、ただの〝猟奇変質者〟ですけれどね……彼女」

 紅茶ズズズ……。

「被害実例無いよぉ!」

「それでも〈口裂くちさけ〉の悪名は轟いているから謎ですわよね……」

 紅茶ズズズ……。

「うっせーな! 被害実例なんざ、後から付いて来りゃいいだろ! 何だったら作らせる!」

「それ、本末転倒……」

 紅茶ズズズ……。

「オマエら、このままナメられていいのか! アタシら、真面目に……誠実に〈幽霊〉してきたんだぞ!」

「誠実に亭主を祟り殺してますわね、貴女あなた……」

 紅茶ズズズ……。

「そんな言い掛かり、可哀想だよぉ! 泣いちゃうよ? くちけちゃん、毎晩泣いちゃうよ? お皿数えながら!」

「その珍妙な奇行、お菊ちゃんだけ……」

 紅茶ズズズ……。

「と・も・か・く! わたしは大反対! 絶対やらないから!」

「……どうしても、やらないってんだな? お菊?」

「そうだもん! やらないもん!」

 わたしはホッペ膨らましてプイッ!

 お岩ちゃんの慧眼けいがんが、凄味を秘めてスゥと細まった。

「だったら──」

「な……何よ? 脅したってダメなんだから!」

「──コ・レ・カ・ラ・毎・日・通・イ・詰・メ・ル」

「えへへ♪  一緒に頑張ろうね? お岩ちゃん!」

 明朗笑顔で小脇を締めたわ。

 だって「コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ」みたいに言われたんだもん!

 怖いもん!

 ましてや、お岩ちゃんだし!

 だけど、お皿を守るためなら〈妖怪〉の一匹や二匹どうでもいいよね?

 うん、そうよ?

 世界は〝お皿〟を中心に回っているのよ?

「ちょっと失礼……」

 おもむろに、お露ちゃんがスッと席を立った。

「お露、トイレか?」

「下品ですわね……花摘み・・・ですわ」

「おー、そうか……わりィ」

「では、ちょっとスイスまで」

「気を付けろよー?」

「マイル貯めといてねー?」

 静々と立ち去る後ろ姿を、日常的な弛緩しかんに見送る。

 珈琲ズズズ……。

 クリームソーダ、ズズズ……。

「「・・・」」

 慌てて後を追ったわ!

 お岩ちゃんと連携で!

 ギリ裏口うらぐち潜る直前で確保!

 容疑者確保!

「逃がさねぇぞ! お露!」

一人ひとりだけズルいよ! お露ちゃん!」

「放して! 御放しになって! 御帰りはコチラで~す!」

「アタシらは一蓮托生いちれんたくしょうだ!」

「毒食わば皿まで……だよ!」

「イヤ! 放して! 婆やぁぁぁ~~~~……!」

 お岩ちゃんに右腕を、わたしに左腕を拘束され、そのままズルズルと店内へ引き摺り戻される。

 傍目はために〈捕獲された宇宙人〉みたいだわ。

 古典怪談から『Xファ●ル』に推移したわ。

 くして、裏切り行為は未然に阻止されたのでした★


 だって、わたし達は腐れ縁──誰が呼んだか〈かしまし幽姫ゆうき〉だもの。



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