第14話 奥義炸裂

青桜竜巻せいおうのたつまき!」

極暑炎弾ごくしょえんだん!」

飛刃白秋ひじんはくしゅう!」

時雨氷柱しぐれつらら!」


 幼き総監たちが懸命に結界作用に尽力していた時、社殿主の四兄妹も四凶と死闘を繰り広げていた。

 融体によって飛躍的に霊術の威力が増した彼らに、流石の四凶も少し焦りを見せ始めているようだった。


「流石のアイツらも疲れてきたか?」

「それはこっちもだけど」


 息を切らしながら要梅がそう言うと、同じく疲労を露にしている槐斗が相槌を打つ。


「ここからは体力勝負ですね……」

「ああ。融体は激しく体力を消耗するからな。今すぐにでも決着をつけたい」


 柳義の言葉に、桐玻は顔を縦に振った。


「それに、こんなに汗だくかつ服もボロボロになったのは久しぶりだ。美しくない自分に嫌気が差すから、とっとと終わらせたい」

「一生そのままでいいだろ。汗も滴るイイ男ってな」


 軽口を叩く要梅に柳義が睨みを利かすと、四凶が怒涛の連撃を食らわせる。

 四兄妹はそれを防ぐなり躱したりして反撃に出るが、四凶の迎撃で相殺されてしまう。


 ――奴らの手強さは想像以上だ。この調子だと、本当にこっちが競り負けてしまう……。


 柳義は桐玻と槐斗の方を見る。

 どちらも疲労困憊で、四凶の近接技による負傷も目立っていた。


「桐玻、槐斗! まだ持ちこたえられるか⁉」


 桐玻は発砲しながら、槐斗は矢を番えながら苦悶の面持ちで返答する。


「な、何とかっ……」

「HPレッドバー状態!」


 そこで、桐玻を案じるがあまり、要梅が声高に言う。


「姉ちゃんはもう下がってろ! これ以上姉ちゃんが傷つくのは見てらんねえ!」

「何言ってるんですか! 私一人だけ引き下がることなんて出来ません。最後まで一緒に戦います!」

「ちょっと、僕の心配はしてくれないの⁉」

「うるせえ、お前は男だろうが!」


 こんな時であっても口論し合う妹弟に呆れつつも、まだそれだけの体力が残っていることに安堵しながら、柳義は思案する。


 ―― 一か八か……。


「四人で力を合わせて一斉に倒すぞ!」


 柳義の声に、三人はそれぞれ愕然とした。

 何を今更と言いたげな表情で、要梅は苛立ち混じりに返す。


「既に力合わせて倒そうとしてんじゃねえか!」

「それは分担して、だろ? そうじゃなくて、それを奴らにぶつけるんだ!」

「……はぁ⁉」

梧桐壁林ごとうへきりん!」


 柳義は刃を勢いよく地に突き刺す。

 すると、四兄妹と四凶を隔てるように梧桐が林立し、巨壁を築く。


「一旦退け!」


 柳義の命令に、三人は困惑を隠せないまま彼の後を追って後退した。

 四凶は体当たりしたり、技を放つなどして壁を壊そうと躍起になる。

 四兄妹は互いの顔を見合わせながら作戦会議する。


「おい、四人で一つの技を創るってどういうことだ!」

「四人それぞれの霊力を一つにまとめて、その塊を一気にあいつらに向けて放出する。四神を従える俺たちだからこそできる奥義――〈四季天しきてん〉。もうこれしか奴らを倒す方法が無い」

「ですが、それは昔の文献でしか見たことがないものですよね。今まで私たちがその技を使ったことは……」

「ああ。無いな」


 要梅は舌打ちして、柳義の胸倉を掴む。


「テメエ本気で言ってんのか⁉」

「要梅ちゃん!」


 桐玻が諫めるも、彼女はその制止が聞こえていないかのように怒声をぶつける。


「出来たこともっ、ましてや練習すらしたこともねえ霊術を今この場でやってのける⁉ それがどれだけリスクが大きいか分かってんのか! しかも、アタシらが万全じゃない最悪な状態で!」

「お前の言うことはもっともだ。仮に成功したとしても、奥義自体が奴らに通用するのかどうかも分からない。これは賭けだ」

「誰がそんな賭けに乗るかよっ‼」

「じゃあ、お前は今のままで本当に奴らを倒せると思ってるのか?」


 虚を衝かれ、要梅は言葉を詰まらせる。

 桐玻と槐斗もやるせず目を伏せた。


「融体ですら四凶を倒しきれないようなら、それを上回る何かをしなければ事態は一向に進まない。いずれ俺たちが競り負けて、奴らが日本中で暴乱するのを許してしまう最悪な結果が待ち受けているだけだ」

「……だからって、アタシらが奥義に失敗して自滅しちまったら元も子もねえだろ」

「まだ自滅すると決まったわけじゃない。自滅しないよう……最悪な結果にならないように、俺たちの絆と力を一つにするんだ」

「結局、精神論じゃない」


 疲れを滲ませた弱々しい笑みを湛える槐斗に、柳義も苦笑して続ける。


「そうだな。でも、現に俺たちがこうして霊獣と一つになっている。だから、兄妹で一つになれない筈がないんだ」


 三人は閉口して逡巡し、刹那の沈黙が流れる。


「時間が無い。もうすぐ梧桐壁林も打ち破られるだろう。どうする? 俺の賭けに乗るか、乗らないか」


 妹弟は互いに見やってから、各々の答えを出す。


「乗ります!」

「まあ、この流れだと乗る以外に選択肢は無さそうだしね」


 賭けに乗った桐玻と槐斗に頷き、柳義はあとはお前だけだと要梅に視線を送る。

 要梅は頭をガシガシと乱雑に掻いて、半ば投げやりな形で答えた。

 

「ああもう、しゃあねえな! 乗ってやるよ!」

「決まりだな」


 柳義は頬を緩め、四凶のいる方角を振り返る。

 あれだけ密集して林立していた梧桐はもう何本か折れており、今にも四凶たちが飛び出してきそうな状態になっている。


「そろそろ奴らがこっちに来る。早速やるぞ!」


 先陣切って、柳義は右手を虚空にかざして霊力を放出する。

 三人も彼に続いて、今ある全ての霊力を注ぎ込んだ。


 青、赤、白、黒紫の四色が融合し、溶け合う。

 瞬く間に霊力の塊は金色に輝き、龍麒と同等の強大な力へと変化する。


「ちょっ、これ維持するのキッツ!」

「少しでも油断したら自分が弾き飛ばされてしまいそうな……!」


 要梅と桐玻が苦悶の声をあげると同時に、柳義と槐斗も何とか歯を食いしばって霊力維持に努める。

 とうとう壁林も突破され、四凶が四兄妹に迫る。


「やっト視界ガ晴れタ……っテ、うン⁉」

「あれハ、まさかっ…」

「……っ!」

「四季天、ダトっ⁉」


 窮奇、渾沌、饕餮、檮杌は一様に驚愕し、焦燥する。


「いヤ、奴ラは大分疲弊してイル。まともにアレをこちらニ撃てルワケが……」

「そうデすナ」

「……ソウだ」

「とっとト蹴散らしてヤル‼」


 四凶がとどめを刺しに、四兄妹の方へ猛進する。より濃密な邪気を全身に纏って。


「行くぞ!」


 柳義の号令に、三人は力強く頷いた。


 



「あとちょっとや桃也!」

「うん!」


 ちょうどその頃、李と桃也も最後の仕上げに取りかかっていた。

 霊力の放出に追い込みをかけると、遂に結界晶が霊力でいっぱいになった。


「満タンになった!」

「桃也!」


 李の呼びかけに、桃也は顔を縦に振る。




 偶然か必然か、時を同じくして社殿主と総監の号叫が響いた。





『四季天‼』『封印結界、発動‼』





 黄金の巨大な光線が放たれ、四凶を丸ごと呑み込む。それと同時に大鬼門の表面を覆うように、金色の五つ星とそれを囲う金環の呪印が出現した。

 無事に結界が作動し、大鬼門の大穴が次第に小さくなっていく。邪気も大幅に減衰し、四凶ももはや灰燼すら残らず消滅した。


 四季天の光輝はそのまま天高く昇り、花火のように弾けて光の粒子が辺りに降り注いだ。

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