第9話 冷熱の叱咤激励
玄武も消火が終わり、焦土となった霊苑から白煙が立ち昇っている。
槐斗たちの救援と洗練された霊術に、鎮守官たちは驚嘆と歓喜の声をあげた。
そんな中、天雷が鎮守官たちを掻き分けて槐斗に歩み寄る。
「槐斗様!」
「天雷。ごめん、一羽だけこっちの方に逃がしちゃってさ。怪我人はいない?」
「お陰様で全員無事です。助けていただきありがとうございました」
「別に。当たり前のことをしただけだし」
冷淡に答えつつも、鎮守官としての責務を全うしようとする強堅な姿勢を貫く槐斗に、天雷は頬を緩める。
「柳義様も大鬼門の対処に来られたと伺っていますが」
「うん。あっちの方で今異形とバトってる」
「そうでしたか。要梅様と桐玻様も、央殿に出現した異形討伐にご尽力くださっていると聞き及んでおります。四天王の皆様には何と御礼を申し上げたらいいか……」
――四天王全員が京都に⁉
「もしかして、姉ちゃんが……」
桃也の震えた声音に、槐斗が彼の存在に気づく。
「李の予想は的中したみたいだね」
「はい。無事に見つかって本当に良かったです」
「あんた達も大変だね、子供二人のお守りは。まあ、姉の方はマシかもしれないけど」
天雷は苦笑しながら答える。
「そんなことはありませんよ。桃也様や李様が背負う重責や役目は、誰にも肩代わり出来ません。我々して差し上げられることは、御二人をしっかりお支えすることだけですから」
「……そう」
槐斗が神妙に相槌を打つと、桃也がずかずかと二人の元にやってきた。
「天雷、これどういうこと⁉ 四天王が京都に来てるって……一体何が起こってるん⁉」
「あーもう。相変わらずわーわーうるさいね」
両耳を押さえて辟易する槐斗の一方で、天雷は桃也を宥める。
「落ち着いてください桃也様。今は詳しく説明している暇は無いので、ひとまず私と一緒に央殿へ帰りましょう」
「だから、おれはもうあそこには――」
「ハァ……」
桃也が面伏せて帰殿を拒否しようとしたところを、槐斗の溜息が制止する。
「あのさ、うだうだ言ってないで今はとにかく自分に出来ることをしなよ」
桃也は恐る恐る顔を持ち上げ、槐斗を見る。
「総監っていう立場とか、求められる実力が無いとか、悩みが人より多くて全部嫌になるのは分かる。でも、全部投げ捨ててそれを他人に任せようとするのは、ちょっと自分勝手が過ぎるんじゃない? 言い換えれば無責任だよ」
「っ……!」
図星を指され、桃也は唇を引き結ぶ。
「悩んで、何もかも嫌になって、勝手に落ち込んだり嘆いたりする分にはいい。それは自分だけで済まされることだから。でも、他人を巻き添えにして自暴自棄になるのは迷惑極まりないからやめてくれない」
「槐斗様、いくら貴方でもそこまで仰るのは……」
「時には厳しく言い聞かせてあげるのも『支え』の一つなんじゃないの? あんたたちが気を遣って遠慮ばかりしてるから、この子が暴走して身勝手な行動に走ったんじゃない」
厳しい指摘に、天雷も言い返すことが出来ず目を伏せた。
槐斗は桃也に向き直って続ける。
「とにかく。今は非常事態だから君を放っておくわけにはいかない。何せ封印結界が解けて大鬼門が開いちゃったんだから」
衝撃的な真実が槐斗の口から発せられ、桃也の顔がみるみると青ざめていく。
「そ、そんなことあるわけ……」
「そんなことがあるからこうして僕たちが駆け付けたの。さ、早く央殿に帰った帰った」
槐斗が桃也の背中を押す。
桃也はたたらを踏んで、槐斗を振り返った。
「今、李が結界を再構築しようと頑張ってる。でも、一人だけじゃ絶対に無理。央殿の守護結界も消えかかってるうえに、そもそも結界を構築するには龍麒二つの力がいるからね」
「龍麒二つの力……」
「そ。だから早く
「おれにしか出来ひんこと……?」
槐斗は首肯すると、桃也は拳を握りしめて天雷を見る。
「天雷、心配かけてごめん。央殿に帰るよ」
「はい……!」
喜色を浮かべる天雷に桃也も頬を緩め、後方にいる鎮守官たちにも謝罪した。
「皆も迷惑かけてごめん。それと、槐斗」
呼ばれて、槐斗は目を瞬く。
「ありがとう」
「分かってくれたようで何より」
はにかみながら謝意を伝えられ、槐斗は軽く息をつきながら言う。
「……散々当たり散らしてごめんな。黄龍」
桃也が黄龍の頬を撫でると、嬉しそうに黄龍は目を細めた。
「それでは槐斗様。大鬼門のこと、よろしくお願い致します」
「ん」
槐斗がグッドポーズをすると、天雷は後方に控えている鎮守官たちを見回す。
「皆さんも槐斗様と柳義様の援護に。私も桃也様を送り届けた後すぐに戻ります」
『はっ‼』
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