第2話 長の失踪
この世は三つの世界で成り立っている。
人間が住まう
人間は死後、生前の行いによって霊獣か異形のどちらかに生まれ変わり、三界を輪廻転生すると考えられていた。
天界と鬼界が一体何処に存在するのかを知る者はいない。しかし、それらの存在は確かだと人々は信じている。
何故なら、実際に異形は時空の
鬼門発生の原因も不明だが、一つだけ分かっているのは、異形が顕界において悪事ばかり働いているということ。
約千年前、異形が齎す災厄によって、日本は一度滅びかけた。そこで、数多の骸と
何の因果か、霊獣たちは双子にのみ力を分け与え付き従うようになった。
力を賜った双子たちは、後に〈
柳義たち四兄妹は、高位霊獣である四神をそれぞれ従える腕利きの鎮守官。〈社殿〉と呼ばれる拠点の長――〈
そして彼らは今、とある事件の知らせを受けて京都の社殿〈
*****
柳義も桐玻の右隣に座り、兄妹水入らずでしばらく閑談に
「皆様、お待たせいたしました。
荷風の言葉に四兄妹はすぐに閉口し、居住まいを正す。そして、一斉に首を垂れた。
荷風も入口の襖の傍で叩頭するなか、
柳義たちから見て右側の座布団に腰を下ろす所作も、
「お久しぶりです、四天王の皆さん」
つぶらな瞳から放たれる気迫と可憐な声に宿る威厳は、まさに鎮守官を統べる絶対的権威の象徴。
かの少女こそ、鎮守官の長——
「急な召集にも関わらず遠路はるばる央殿に参じてくれたこと、心より感謝申し上げます。どうぞ、皆さんお顔を上げてください」
京の都特有の雅やかな
年上の部下たちの注目を一斉に浴びる中、李は
「事前にお伝えさせてもらった通り、もう一人の総監にして愚弟の
四凶は、四神と同等の強大な力を有する四匹の最高位異形を指す。
歴代の鎮守総監と彼らが使役する
故に、通常の鬼門に対して約五倍の大きさを誇る大鬼門が今にも開きそうになっている。
四凶は、その大鬼門から出現すると古代の文献に記されていた。
鎮守官の統帥にして要でもある総監の一人が欠けることなど、前代未聞。それが世界にどれほどの影響を
李は苦渋の面持ちで、その小さな尊顔を垂れた。
「身勝手なお願いやとは重々承知してます。せやけどどうか、御力をお貸し頂けないでしょうか」
まさか、総監たる者が己より地位の低い者に頭を下げるとは……。
異例の行為を伴った李の嘆願に、四兄妹は動揺する。
「頭をお下げにならないでください、李様」
最初に開口したのは桐玻だった。
「総監でいらっしゃる貴女様が、私たちのような下位の者に対して叩頭するなんて……」
「面目丸潰れだな」
「要梅ちゃん」
「っと、ごめんよ姉ちゃん」
許して、と茶目っ気たっぷりに片目をウインクする要梅。
掌を返したような柔らかい態度に、柳義は辟易する。
要梅は重度のシスコンであり、淑やかかつ聖母の如き優愛を持つ姉にだけは温和かつ子供じみた振る舞いを見せる。
桐玻の言葉に、李は顔を上げて言った。
「今回の騒動は、こちらの監督不行き届きが原因で起きた事です。本来なら龍麒一門(央殿に所属する鎮守官の総称)だけで対処すべきなんですけど、大鬼門が関係してくるとなると、どうしても
「本当に情けなくて、お恥ずかしい限りです」
「責任感じてる暇があるなら、世話が焼けるもう一人の総監を早く探しに行った方が良いと思うけど」
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