あくまで恋の話

高央みくり

あくまで恋の話

 私立萌手照学園。この学園には、超絶目立つ男女がいた。

 一人は恋野しほ、高校一年生。容姿端麗、頭脳明晰な彼女は、学年のマドンナ的存在である。学園内外から告白された回数は数知れず。学園一のモテ女としても知られている。

 そしてもう一人、同じく高校一年生の阿熊一也。学園一のイケメンとして、超有名な男である。こちらも告白された回数は数知れず。女子の間では密かにファンクラブも結成されていたりと、超絶モテ男として青春を謳歌している。

「おはようございます」

「おう、おはよ」

 廊下ですれ違った時に挨拶を交わすだけで、周囲ではヒソヒソ話が始まる。

「いいなあ。私も一也くんと挨拶しあいたい…」

「ず、ずるい…!あいついつのまに、しほちゃんと挨拶しあう仲に?!」

「美男美女、お似合いだなあ…」

 これが二人の日常だった。ところがこの二人、誰にも言えない秘密があった。それは…。

「「なぜこいつだけは私、俺に惚れない…?!」」

 実は恋野しほは、異星からやってきた宇宙人である。しほの使命は、「自分の星をより強靭な星にするため、宇宙一のモテ男を連れて帰ってくること」。

 彼女は異性を虜にするという特別な能力を持っていて、この能力を使って、あらゆる星の権力者を落とすことで征服してきたのである。ただし、しほのモテ力は異性にしか効かず、同性には効かない。そのため、星の権力者が同性の場合、しほはその星を征服することができないのだった。

 だからこそ、しほは考えた。

「自分と同等、もしくはそれ以上のモテ力を持つ男を自分の星に連れて帰れば、どんな星でも征服できるようになるのではないか?!」

 そしてやっと地球という星で見つけたのが、自分並みのモテ力を持っている男、阿熊一也だった。

「阿熊は確かに顔が良いし、女性にめちゃくちゃモテている。今までいくつもの星を渡ってきたが、こいつほどのモテ力がある男はいなかった。欲しい。絶対にこいつの力を持ち帰りたい…!」

 しほはこの星で一也を見つけた日、「こいつを絶対に惚れさせて、自分の星に連れて帰る」と決意を固めた。ところが一つだけ問題があった。この男、全くしほになびかないのだった。

(な、なぜこいつは私に惚れない?!メロメロフェロモンは出てるはずなのに…!)

 そう。異性に効くはずのしほの能力も、一也には全く効果無し。一度はしほも、「こいつ、実は異性じゃない…?」と、彼が男性ではないことを疑ったこともある。でもそこは安心してほしい。阿熊一也はれっきとした男性なのだから。


 それでもなぜ一也はしほに惚れないのか?そう思った人もいることだろう。それにはちゃんと理由がある。

 実はこの男、魔界からやってきた悪魔なのである。一也が人間界にやってきた目的は、「この世界の女性をみーんな虜にすること」。

 彼には自分と目があった異性を、惚れさせる能力がある。この能力を使って、ありとあらゆる女性を虜にしてきた。ところがここ最近、一也にとって困ったことが起きている。

(この女、恋野しほだけは、何度目を合わせても俺に惚れない…?!)

 一也の目的の対象は、人間界にいる女性の"全員"。しほを惚れさせない限り、女性全員にはならない。

「絶対にこいつも俺のものにしてみせる…!俺に惚れない女なんて、いるわけがない…!」

 一也はすでに意地になっていた。お互いの能力がぶつかり合って中和されることで、自分の能力が無効化されてしまっていることも知らずに。


ーーーーー


 惚れさせバトルも三ヶ月も続いた頃には、しほと一也のどちらもが痺れを切らし始めていた。

 だが、そんな二人の関係にも、少しずつ変化はあった。二人はどうにか相手を自分に惚れさせようと、互いに干渉し合うことが増えたのだった。

 その結果、会っても挨拶を交わすくらいだったのが、休み時間に二人で過ごすようになり、昼休みは一緒にご飯を食べるようになり、ついに放課後も毎日一緒に帰るようになった。

 その頃には、しほと一也は美男美女カップルとして学園でも有名に。もちろん、その噂は本人たちの耳にも入っていた。

「「よしよし、良い調子だ…。これなら相手もさすがに意識するだろう」」

 そう、たかを括っていたのも束の間だった。二人は今度はこんな悩みを抱えてしまったのだ。それは…。

「「どうしよう!本当にこいつのことを好きになってしまったが、そろそろ国に帰らねばならない!」」

 しほは宇宙船の燃料切れ、一也は魔界に帰らねばならない日が迫っていた。なのにも関わらず、しほも一也もお互いのことを好きになってしまったのだった。

 しほの能力も、一也の能力も、互いに作用しないだけ。自分たちの心そのものが、相手のことを好きにならないわけではない。

 ところがしほは宇宙人で、一也は悪魔。自分の正体と気持ちを明かすかどうか、そして自分たちの国に相手を連れて行くかが、二人にとって一番の問題になっていた。

 自分の能力によって惚れている相手は、盲目な状態になっているため、自分に対してイエスマンになる。それはしほの能力も一也の能力も同じ。だが、虜にする能力が効いていない以上、たとえ相手が自分を好きだったとしても、答えがイエスかどうかはわからない…。

(もう時間がない。こいつが私と同等のモテ力を持つ男だからではなくて、ずっと一緒にいたい相手だからこそ、私と共に来てほしい!)

(こいつが俺に惚れているかどうかはもうどうでもいい!俺がこいつに惚れているんだ!だからこそ、お前の気持ちが知りたい!もしもお前が俺と同じ気持ちなら、正体をバラしてでも…!)

「阿熊くん!私…!」

「恋野!実は俺…!」

 正体を知った2人が互いに顔を見合わせ、「まさか!」と言うような結果になるなんて、2人は今はまだ知る由もない。

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