侵入者と底辺騎士
侵入者と底辺騎士①
手荷物は体に結びつけられる風呂敷一つで済ませた。中身は、着替え一式と奉仕活動で得た賃金のみ。一番高価な皇太后の札が一枚、続く皇帝陛下の札が五枚、皇后陛下の札が三枚。いずれの札も十枚集めれば次の札に交換できるのだが、おばば様が換金してくれた札はこれだけだった。三歳から十六歳の今まで頑張った奉仕活動の対価は、意外と安いらしいことを、わたしは改めて知った。
荷馬車の主に皇后陛下の札を一枚渡し、清涼園の水を汲んだ樽と共に荷台に乗る。三日間の旅の友は、同じく水を入れた竹筒の水筒だけだ。
暗い、怖い、いやだ。幼い自分が長姉に泣きついたことを思いだす。一緒の毛布に
(お姉様。早くお会いしたいです)
遠くに浮かんでいる清涼園の明かりを確認し、わたしは荷台の端でボロボロの
***
帝都は真っ暗で沈黙に満ちていた。途中休憩で寄った村のほうが、よほど活気に溢れていたと思う。
わたしは胸元の布袋から片手の掌に乗るサイズの刀剣を取りだし、髪に生き生きと生えている白い花を一本引き抜く。ぽんぽんと白い花で刀剣を何度も擦っていると、次第に金色の明かりが強まってくる。白い花が消え去るまで続け、わたしは輝く剣を片手に隠した。
一際大きな音を立て、荷馬車が止まる。馬主が馬から降りると同時に、わたしは被っていた麻布を放り投げる。なるべく音を立てずに馬側から荷馬車を降り、側面で様子を伺う。
馬主に近づいてきた足音は一人分。
「清涼園の水だ」
「ありがてぇ。こいつを一度飲んだら、帝都の水なんぞ臭くて飲めやしねぇよ」
二人目が近づいてくる気配はない。わたしは下腹部に力を入れ、ふっと短く息を吐き、荷馬車の側面から飛び出す。目指すは松明が灯り、無人と化した城門の扉だ。
後方から飛んできた怒号より一歩早く、扉の中に入る。ぽかんとした顔で立っていた兵士と目があう。わたしは金の刀剣を強く握り、彼の視界に様々な花の渦巻きを描く。技の発動と同時に剣は消滅し、片手が空く。逃げようともがく彼の松明を奪い取り、わたしは暗闇を駆けだした。
お姉様、どこ。どこにいらっしゃるの。侵入者を告げる鐘の音がうるさい。お姉様、カンカンカン、どこにいらっしゃるの、カンカンカンカン。
わたしは手近な欄干を乗り越え、薄暗い廊下を駆ける。思っていたよりも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます