第11話 ひとり

 私の片思いは叶いそうもなくて、先輩達の喧嘩も益々エキサイトしてたけど、私にはすごく仲良くしてるように見えた。家の父さんと母さんも一見すごく違って見えるけどそれでも本とは仲が良いって私は知っている。

 先輩達もお互いの心をぶつけ合って何かを探してるんだろうな。

「私、今日はこれで帰ります」

 そう言って席を立った。二人の会話を止める気は無かったけど止めたみたいになって高良先輩が、

「じゃあ僕も帰ろう」

 と鞄を持った。

「ごめんね。いつもガタガタしてて気を悪くした?」

 私が思ってもみないことを先輩が言ったので驚いた。

「私……、先輩達のこといつも仲が良いなって思って見てます。気を悪くするなんてことないです」

「仲が良いって僕と幸乃?」

「はい」

「驚いたな。そんなふうに見える?」

「だって先輩、幸乃先輩には遠慮とかしないしどう見たって先輩のことは特別って思ってるとしか思えない……」

「するどいな……実は、僕と幸乃、前につき合ってたことがあるんだ」

「え?」

「僕が憧れててね……

 向こうはいまだにどんな気持ちでいるのかつかめないんだけど、お互い文章書くの好きだったし、話しも合うって思ってたんだ。でもつき合いだしたらうまくいかなくて、なんかちぐはぐなんだよね~そしたら幸乃から、今まで通り友達でいようって言われてしまったんだ」

「先輩……」

「うまくいかないもんだよね。片思いはつらい。忘れられないだろう、やっぱり好きだなって思いながら、ああやって毎日言い合いしてる訳だ」

「……」

「あいつチャラチャラしてもだめだし優しくしたって乗ってこないし扱いにくい女なんだよ。でも僕はそれでも幸乃を見ていたいんだよな」

「先輩の気持ち幸乃先輩知ってるんですね」

「ああ、それはね。間違いなくバレてる」

 両思いになれない人に心を打ち明けるってすごく勇気のいることだと思った。なのに先輩はあっけらかんと幸乃先輩が好きだって、私にはそんな勇気ないな……

みんな片思い…うまくいかないもんなんだな~

 バス停でバスを待っていると浅見さつきが学校から走ってきた。私の横で自転車を止めると、

「あの、遠野君今日は?」

「ああ、熱出しちゃって、朝方だいぶ下がったんだけど……」

「これ、前から頼まれてた曲、譜面に起こしてピアノで弾いてみたんだけど遠野君に渡してもらえますか?彼急いでたから」

「あ、はい」

「遠野君ずっと好きな人がいて、その人に捧げる歌だって。良いなあこんな歌作ってもらえる人。羨ましいなって思いながら曲、聞かせてもらいました」

 間近に見るさつきの巻き毛。可愛さにドギマギしながら譜面をもらった。

「あ、多分明日は学校これると思うから。これ、確かに渡すね」

 さつきはそれだけ言うと自転車を走らせて行ってしまった。

 譜面……カセットも入ってる。

「遠野君、ずっと好きな人がいて……」

 あの子剣士と両思いじゃなかったの?

 剣士の作った歌。開けてみたいけど開けられない。どんな歌なんだろう?あの子も剣士に片思いなんだ……私はまた悲しくなった。

「うまくいかないもんだよな……」

 って高良先輩のせりふ。私は剣士の思いの詰まったこの譜面をのぞいて見るなんて出来なかった。そんなの失礼過ぎる…

「剣士どう?」

「ああ、なんとかね。この分なら明日は大丈夫だ」

「そう良かったね。あ、これ浅見さんから預かってきた。譜面だって、剣士に渡してって、心配してたよ」

「ん?」

「どうかしたの?」

 なんだか不安そうな顔して。

「俺の作った曲見た?」

「ううん、見ないよ!剣士の大事な作品でしょ。ちゃんと渡そうと思って受け取ったまま、そのままちゃんと持って帰ってきたわよ」

「そうか、サンキュー。あ、そのうちコンサートやるから、俺ビックになるから。きっと、きっと見に来いよ」

「わかった、わかった。楽しみにしてるよ」

「あ、これ。これが私のうばってしまった剣士の飛行機かなあ」

 私は、今更必要とも思えない剣士の飛行機を申し訳無さそうに見せた。

「いいよ、お前がもってろよ。それ欲しいって大泣きして俺からせしめたんだから」

「あ、そう。それから私…高良先輩のことあきらめようと思う。先輩好きな人いるんだ」

「豊の兄貴に言ったのか?」

「ううん、先輩から告白されたの。ずっと好きな人がいるって。良い人よ私も好きな先輩なの。お似合いだって思うしそれほど重症でもなかったし」

「忘れられるのか?」

「好きってまだよくわからないし、憧れてただけで……優しくして欲しいとか顔が見たいとかそんなんだから。先輩達もっと違うの真剣なの、私にはあんな気持ち無いよ。まだまだ恋ってとこまでいって無いな」

 話しているうち涙が出てきた。なんの涙なのかわからない。

「じゃあね」

 剣士に見られたくなくて部屋を出た。そしてそのまま書庫で泣いた。


「剣士、ひみこ来てない?」

「え?」

「ご飯出来たから呼びにいったんだけど部屋にいないのよね」

「ひみこいないの!」

「あ、剣士どこにいくのよ。あんたまだ……」

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