第59話 強力な助っ人

 ”とりあえず、仲間たちが捕らえられている北の尖塔の様子を見てくる。この際だから、奴らの救出作戦を王女と二人でたててくる”


 サライ村の宿営地には、クーデター軍、ゴットフリー、タルク、ラピスが勢ぞろいしていたが、タルクはスカーの言葉を思い出し、

「あのお姫さんと、クーデターの首謀者のスカーを一緒に王宮へ向かわすなんて、やっちまって良かったのか」

 困惑した顔つきでそう言った。


 クーデター軍のメンバーたちは、とりあえず待機せよという、スカーの指示で、それぞれのテントへ戻っていった。

 残されたタルク、ラピス、そしてゴットフリーの3人は、今の状況について話し合う……とはいっても、話しているのはほとんどがタルクとラピスで、ゴットフリーは海岸付近の岩場に腰掛け、二人の会話にはさほど興味がないように、ぼんやりと海を見つめていた。


 タルクがラピスに言う。


「スカーの仲間たちが、掛けられる水磔すいたくの刑って、いつなんだ?」

「2日後の建国記念祭の午前。ちょうど、引き潮から満ち潮に変わる時間帯に行われる。だから、明日中にはどうしても彼らを救出したいんだ」


「でも、王女をクーデター軍に引き込むなんて、やっぱり無謀じゃなかったのか。いくら、ソード・リリーの決意が固いといっても、自分の国が倒れてゆく手助けを最後までやり遂げれるのか。もし、心変わりでもされたら、それこそ俺たちは根こそぎ近衛兵にやられちまうぞ」


 すると、ゴットフリーがやっと重い口を開いた。


「闇にまぎれて、霧花きりかが2人に付いていった。王女の護衛のつもりだろうが、王女が裏切るようなことをしたら、あれは、夜扇の刃で迷うことなくソード・リリーの首をはねるだろうよ」

 すると、タルクが首を傾げて言った。

「霧花って、レインボーヘブンの欠片“夜風”のことか。あのサライ村のレストランでウェイトレスをやってた美人だろ? お前は知らなかったかも知れないが、BWブルーウォーターとも噂があったし、まあ、同じレインボーヘブンの欠片同士だったと知った今では、その理由はわかるんだが……警護隊には何人も、彼女の信奉者がいたんだぞ。あんな儚げな人がそんな思いきったことをやるのか?」

 だが、ゴットフリーは、その問いに淡々とした声で答えた。

「王女が我々に害をなすと思えば、容赦はしない。なんだかんだといっても、あれは“闇の住民”だからな」

 

 そんな二人の会話にラピスは苦笑する。


 ふぅん、霧花ってやっぱり美人なんだ。

 でも、容赦しないのは、我々にというより、ゴットフリーに害がありそうな場合にだろ?


 にしても、“闇の住民”か……伐折羅ばさらといい、ここにきて闇が光より存在感を強めているのは確かなんだ。マズいな。BWのことも気になるし……何とかゴットフリーの気持ちを光の方向に向けたいんだが……やっぱり、お日様の申し子みたいなジャンがいないのは、かなり辛いぞ。


 すると突然、タルクが大声をあげた。

「まあ、スカーが帰ってくるまで、我々には打つ手もないし、ここらでどうだ。酒でも飲んで待っていようや!」


 ばんっと、どこからか持ってきた樽酒をみんなの前に引き出してくる。


「酒って? 冗談じゃないよ。お前、怪我に響くぞ! それにゴットフリーだって体調万全ってわけじゃないんだろ」


 迷うこともなく、タルクは元気な側の手でむずと酒樽をもちあげると、どくどくと杯に酒をそそぐ。そして、にやりと笑ってゴットフリーとラピスに、それを突き出した。


「酒でも飲んでいないと、こんなもやもやした気持ちは晴れないぜ。大丈夫だ。俺たち、ガルフ島警護隊にとっては酒なんて水と同じだ!」


 なっ! と嬉しげにゴットフリーの顔を見るタルク。


「お前、この酒樽どこから持ってきた?」

「スカーのテントから拝借してきた。ほら、飲め飲め! 酒なんて随分飲んでないような気がするぜ」


 タルクの勢いにゴットフリーは、苦笑いしながらも、すすめられるままに酒杯を口にする。もともと、嫌いな方ではないので、強く拒む理由が何もなかったのだ。


「ほら、ラピスも!」


 ラピスは慌てふためいて言う。


「俺はまだ17歳だぞ。未成年に酒をすすめていいのかよ! それに医者がいざという時に酔っ払ってちゃ話にならないだろ」


「堅いこと言うなよ。ゴットフリーだって、まだ19だ。それでも、もうザルだ」


 大声でまくしたてて、タルクが笑う。


 何? ゴットフリーって、まだ19歳だったのか? 海千山千を通り抜けてきた感じなのに、俺と2つしか違わないのか


「そうだよ。ラピス、私なんか10歳の時から飲んでるのに」


 そばで聞こえた少女の声。さすがにこれだけは、許せない。


「ココっ、お前まで飲むな!」


 ゴットフリーの横にちょこんと座って、酒杯に手を伸ばそうとするココ。一体、いつからそこにいたのか、すっかり場に溶け込んでしまっている。血相変えて、ココから杯を取り上げたラピスを、タルクが笑う。


「お前、いける口か? さすが、サライ村の泥棒娘。でも、子供は寝てる時間だろ。おまけに酒まで飲んでちゃお巡りさんにしょっぴかれるぞ」

「みんなが、うるさすぎて、目なんか覚めちゃったよ。そうだ……今、急に思い出した」


 ココはゴットフリーをぎらりと睨みつけてこう言った。


「よくも私を騙してくれたわね」

「何のことだ?」


 一瞬、間をあけたから、ゴットフリーは人の悪い笑みを浮かべた。


「しらばっくれないで! 喉が渇いたなんて、私を騙して外へ出て行ったじゃないの」


 少しの畏れも感じないのか、悪態をつきながらゴットフリーにまくしたてるココの態度にラピスは、かなり驚かされた。

 

 もう一人、助っ人を見つけた。いや、容赦がない分、ココはジャンより強いかも……特に、対ゴットフリーに関しては。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る