第27話 銀のロケット
水晶の棺に駆け寄ると、ゴットフリーは自分がずらした棺の蓋に手をかけた。相当な重量がある蓋は、簡単には動かない。後ろにまわり、力まかせに元の位置に押し戻した。すると、
尖塔の最上階の部屋を覆い尽くしていたランカの群れが、急速にしぼみ出したのだ。
― そう、それでよいのです。賢明な王よ。水晶の棺を開いてはならない ―
ゴットフリーが棺に目をやった時、その中の人は再び瞼を閉じようとしていた。
「待てっ、俺の質問に答えろっ! お前はレインボーヘブンの欠片なのか。そして、なぜ、こんな場所に閉じ込められた?」
― 私はレインボーヘブンの欠片……”
「呪われた? 誰がそんなことをした!
レインボーヘブンの守護神、アイアリスか……
だが、棺の中の人はかたく目を閉じてしまった。
尖塔の最上階の部屋は、再び光の部屋に姿を戻した。だた、以前と違っているのはおびただしいランカの枯れ枝が、辺りに散乱していることだった。
深くため息をつきながら、ゴットフリーは尖塔の部屋の窓辺へ歩いていった。外を見渡すとココの元へ戻って来る。
「腕はどうなんだ? まだ、痺れはとれないのか」
「うん、しびれてる。でも、それだけであとはどうってことないよ」
「そうか……」
その時、窓から一匹の白い鳥が舞いこんできた。くるりと一度、部屋の中を旋回するとココの肩にふわりととまる。
「あれっ? 白い鳥?……でも、これって?」
先ほど、ココたちを乗せた超デカ鳥とはサイズが違う。普通のかわいい鳥。ほっとした気分で、ココは笑顔をみせた。
ココと白い鳥を見比べてから、ゴットフリーは言った。
「お前は、このままラピスの所へ飛んで行け」
「えっ! 飛ぶって? 私にそんな芸当できないよ」
「……相変わらず空っぽな頭だな。その鳥 ―
「この鳥が?」
ココが不思議そうに肩に目をやった。その瞬間、白い鳥は尖塔の窓から外へ飛び出ていった。そして、突然、
うわっ、巨大化したっ!
ココの目の先で怪鳥と化して、白い翼を大きく羽ばたかせたのだ。
“来い”というゴットフリーの命令に、逆らえるまでもなく、ココは窓の傍まで歩いていった。まさか、これに乗って一人で行くのか。死んだ、死んだ、もう死んだ。
ゴットフリーは言った。
「ラピスの医院まで行って、腕を見てもらえ。その毒はエターナルポイズンだ。きちんと解毒しておかないと後々面倒なことになる」
「ラピスの医院? でも、あいつ、今、スカーの所……」
と、言いかけて、ココははっと口を閉ざした。
マズい。ゴットフリーたちには秘密だってスカーに言われてたのに。
微妙に眉をひそめたが、ゴットフリーは言葉を続けた。
「適当に指示を出せば、この鳥はお前の言った場所へ行ってくれる。でも、しっかりつかまっていないと、下に落ちれば一貫の終わりだぞ」
「ええっ、腕がしびれて、しがみつくなんて無理!」
「なら、それを着ろっ」
ココの頭に投げ捨てられたゴットフリーの上着。片腕を通してみたが、痺れた側の腕はどうやってみても上手く袖に手が入らない。
まったく面倒な娘だ! 口の中でつぶやくと、激しく嫌な顔つきでゴットフリーはココの腕をとり、入らなかった上着の袖をその腕に通してやった。それから、無造作にココを抱き上げると、外にいる天喜の白い鳥の背中に彼女を乗せた。
「この上着、ぶかぶか~。大き過ぎるよ」
そんなココには目もくれず、ゴットフリーは、彼女の両手から出た袖の先を白い鳥の首に回し、強く括りつける。
その時、ココの胸元で小さくきらめいた光。ゴットフリーは、はっとそれに視線を移した。
銀のロケット?
そういえば、サライ村のレストランでも、こいつはこれを身につけていた。ゴキブリ娘には上等すぎると、あの時は思った。しかし、これは……
似ている……黒馬島でザールが持っていた
「ちょっと、それに触らないでよ。大事な物なんだからっ」
「ゴキブリ娘……そのロケットはどこで手に入れたんだ」
「……知るもんか。どうせ、どこかで盗んだって思ってるんでしょ。それより、これじゃ、身動きがとれないじゃないの~」
白い鳥の上に、ゴットフリーの上着で縛り付けられた状態のココは、頬を膨らませて抗議する。
「これでも、下に落ちたなら、お前は相当な間抜けだ!」
「でも、私が白い鳥で行っちゃったら、あんたはどうするの。帰る道がなくなっちゃう。それに水晶の棺の中の人は?」
「俺は尖塔の外側にある螺旋階段を下りて行く。あの棺のことは……また、後日だ。今はどうすることもできない」
ココが持っていた銀のロケットのことも気になったが、ゴットフリーはその気持ちをあえて無視した。
「俺は、まだこの城に用があるんだ……だから、お前はさっさと行ってしまえ!」
その声に従って、白い鳥が大きく翼を羽ばたかせた。そして、天喜の白い鳥は、心残りな表情のココを乗せて、エターナル城から飛び去っていった。
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