第2話
「――あの女は止めときなよ」
と、新山葉月は言った。
凹んだイチゴ牛乳パックのストローを噛んでいる。それが彼女の癖なのだ。
「菅原さんのことか」
「……」
「止めるもなにも昨日付き合ったばかりだぜ」
悪い噂でもあるのか?と加える。
「ないけど」
「お前こそ、彼氏とはどうなんだよ」
「ラブラブですよ」
「さいですか」
沈黙が走る。しかし、沈黙に恐怖するほど我々は未熟ではない。
夏の空を意味も無く眺めて、昼休みを潰す。
○
放課後、文芸部の部室。
「先輩、今日は元気そうですね」
2年生の椎名結は図書に目を向けたまま言う。
「いつも通りだろ」
「いやいや、最近は死んだナマコみたいな顔してましたよ」
死んだナマコってなんだよ。
「どういう感性してんだ」
「ほら」
椎名は鞄からスマートフォンを取り出す。
そこには死んだナマコみたいな男がいた。昨日の僕だった。
「死んだナマコ……」
彼女はしたり顔で図書に視線を戻す。
「でっ、なんで落ち込んでたんです?」
「振られたんだよ。いや、告白した訳ではないから失恋したが正しいか」
「新山先輩にですか」
椎名は図書を勢いよく閉じ、僕の方を向く。
「なんでわかったんだよ」
「毎日のろけ話聞かされるこっちの身にもなってください」
そんなのろけしてたのか?
「うぐっ」
「……じゃあ、失恋したってことは……枠が空いてるってことですよね?」
「いや、昨日彼女ができた」
「はっ?」
「今日は早めに帰らせてもらう。彼女との待ち合わせがあるんだ」
「はあ?」
菅原さんとの待ち合わせまで椎名とおしゃべりをすることにした。
彼女が熱心に読んでいた本は手相占いの本らしく、その成果を披露してくれた。
どうやら僕は死ぬらしい。カナブンを蜂と間違え、逃げ回った末に側溝に落ち、パニックに陥り、深さ4cmの下水で窒息するのだとか。ラッキーアイテムは可愛い後輩だとか。
「――ちなみに恋人は宇宙人で人間のサンプルを取りにきたそうです」
椎名は虫眼鏡で僕の掌を覗いている。こいつは何を見てるんだ。
「ここはオカ研か」
「あっ、これ!ここに書いてる手相ありますよ!」
「マジ!うお!!!!!!!! ホントだ! どんな手相なんだ?」
「なんかレアなやつらしいです」
「ふんわりしてるな」
さっきまでの具体性はなんだったんだよ。
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