私との婚約を破棄したら、この王国は滅びますよ? ~そんな事務的なプロポーズは、紳士としてどうなんですか~

甘い秋空

一話完結 お前との婚約を破棄する!



「何かしら?」


 王宮の廊下を歩いていると、ふいに、私の眉間に意識が集中し、くすぐったい感じになりました。これは、なにかの前触れですね。


 ストレートの銀髪を結い上げ、パーティードレスに身を包んだ私は、これから何かが起こると感じとります。


「私に何が起きても、対応できるよう、会場近くで控えていてね」

 侍女に待機を指示します。


「分かりました、ギンチヨお嬢様」


    ◇


 パーティー会場に入ると、私を迎える舞台は、すでに出来上がっていました。


「お前との婚約を破棄する!」

 王太子が私を指差し、大声で宣言します。


 何事かと、お客様たちがこちらを向きます。



「王太子様、今は、友好国の王子様を歓迎するパーティー中です。ご冗談はおやめ下さい」


 王太子は、栗毛のイケメンですが、周りが見えなくなる性格が玉にキズです。


「冗談ではない。国王の許可もとってある」



「……なぜですか?」

 国王が許可するわけがありません。何かおかしいです。


「お前が、お子ちゃまだからさ」


 王太子が自分の前髪をかきあげました。彼が自分に酔っているときの癖です。



「おっしゃっている意味が分かりませんが」


「この大人の魅力をまとった侯爵令嬢を見ろ。お腹に俺の子供を授かっている」


 横に立っていた令嬢が、王太子に寄り添いました。

 彼女は、妄想が激しいと噂の令嬢です。



「王太子様は、私という婚約者がいる身で、他の令嬢と不貞行為に走ったのですか」


「そうだとも。ギンチヨは認めるべきだな。自分自身に魅力が無いゆえの過ちを」


 自分の不貞行為を、私のせいにするなんて、意味が分かりません。


 また、王太子が自分の前髪をかきあげました。



「貞操を守る女性を嫌いな男性っているのかしら?」

 ため息がでます。


「恋愛とは、いつも多くの令嬢と付き合いながら行うものだ」

 王太子の頭の中は、お花畑のようです。


「そういう考え方、嫌いです」



「誰?」

 ふいに、私の眉間に意識が集中し、くすぐったい感じになり、声が聞こえた気がしました。


 振り向くと、一人の令息と目が合いました。

 令息が、私に落ち着けと言っている気がします。



「王太子、今宵は私を歓迎して下さるパーティーと聞いています」


 令息が、口を開きました。


「そちらの銀髪の令嬢と婚約破棄し、横の侯爵令嬢と結婚されるということで、よろしいですね」


 黒髪、黒い瞳のイケメンです。どうやら今宵の主賓、友好国の王子のようです。


 とっさにカーテシーで挨拶します。



「そうだな、クロガネ王子。こんなギンチヨ嬢のことは忘れて、今宵は楽しもう」


「ギンチヨ嬢とおっしゃるのですか」

 黒い瞳が、私を値踏みしています。


「バーナ大公の長女、ギンチヨ・タァチ・バーナと申します」


「なるほど、貴女が王弟陛下のご令嬢でしたか。では、会場の外に私の従者がいますので、彼から話を聞いて下さい」


 このパーティー会場から出て行けと言うのですか? 

 まるで恋愛小説の悪役令嬢のようです。


「これが悪役令嬢の運命だなんて……ひどすぎる」


 ぶつぶつとグチを言いながら、出口へ向かいます。


    ◇


 会場を出ると「ギンチヨお嬢様!」侍女が駆け寄って来ました。



 もう一人、制服の男性が近寄ってきます。


「初めまして、私はクロガネ王子様の従者です。お二人ともどうぞこちらへ」


 この従者は、計画どおりといった感じで、私たちを案内します。


「こちらは、クロガネ王子様の控室になります。少しの時間くつろいでいて下さい」


 ここは、王宮の貴賓室です。


    ◇


「彼が来ます!」


 ふいに、私の眉間に意識が集中し、彼が触れたような感じになりました。


 貴賓室のドアがノックされ、私の侍女が開けます



 先ほどの従者に続き、クロガネ王子が入って来ました。


「お待たせしました、ギンチヨ嬢」


 私は立ち上がり、カーテシーをとります。


「楽にして下さい。座って話をしましょう」



「国王陛下に話をしてきました。不貞をする王子がいる王国は信用に値しないと」


「そして、王弟陛下にも、貴女を預かることを認めて頂きました」



「お父様が? それは少し不自然ですね」


 私のスキルを知っているお父様が、たかが友好国に、私を渡すわけがありません。



「クロガネ様は、友好国の王子ではありませんね?」


「王族にしか明かしていない事だが、いいだろう」

「私は、帝国の第二王子だ」


「帝国!」


 帝国は、この王国をはじめ、周辺7か国の上に立つ軍事国家です。


 この王国では、その帝国を倒すため、密かに画策しているところです。



「急で申し訳ないが、お二人には、私と一緒に帝国に来てもらう」


「私たちは人質ですね」


 この王国が、帝国に反乱を起こさないよう、人質をとるということです。


「それは考え過ぎだ。貴女たちも、この王国を、より良い国にしたいでしょ?」


 帝国の第二王子は笑いますが、信じられません。



「クロガネ王子様、国王が折れました」

 彼の従者が、扉の向こう側から伝言を受けとり、報告します。


「予定よりもずいぶんと早いな……」

 彼は、不思議がっています。


「このギンチヨ様がカギだったようです」


「まさか、この女性がカギか!」

 驚く顔で、私を見つめてきます。



「王子様、どうされますか?」


「チャンスは、最大限に活かそう」


「承知しました。クロガネ王子様が、この国の王となることを伝えます」


 従者があわただしく貴賓室を出ていきました。



「ギンチヨ嬢、状況が早まった」

「急で申し訳ないが、貴女には私の婚約者になって頂く」


 人質ではなく、婚約者?


「訳が分かりませんが、そんな事務的なプロポーズのセリフは、紳士としてどうなんですか」


 帝国の第二王子を、薄目でにらみます。



「この王国が戦争の準備をしていることは、薄々知っていただろ」


「それが帝国の怒りに触れた」


「国王に、帝国と戦争するか、全面降伏するか、選ばせただけだ」


 さすが軍事国家の第二王子、上から言ってきます。



「国王は、貴女を失ったことで、全面降伏を選んだと報告があった」


「貴女は、何者だ?」


 貴方は、私のことを知らないで、プロポーズしたのですか?



「それは、私が王妃になった時、話ますよ」


 私は、女神様から祝福を授かり、王都など一瞬で消滅させる強大なスキル、ソーラレイを持つ、最終兵器です。



「私は、ギンチヨ嬢を愛しても良いのか?」


「愛? それは私よりも強い力ですか?」


 私の受けた教育には、愛という単語は、ありませんでした。



「それは、今夜、教えてあげよう」

 彼が笑い、私の侍女が怒っています。




━━ fin ━━



あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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私との婚約を破棄したら、この王国は滅びますよ? ~そんな事務的なプロポーズは、紳士としてどうなんですか~ 甘い秋空 @Amai-Akisora

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