狐憑きの嫁さま

碧絃(aoi)

プロローグ

 愛知県の山間部にある町には、古くから伝わる狐憑きつねつきの話がある。


 商売繁盛の神様で有名な、豊川稲荷には、祈願成就きがんじょうじゅの御礼として奉納ほうのうされたお狐さまが、数えきれないほど並んでいる場所がある。その中に、生まれたばかりの赤ん坊が捨てられていたのだという。


 赤ん坊は女の子で、たくさん並んだお狐さまの中に捨てられていたことから『狐憑きの娘』と呼ばれ、近くの霊山にある神社が引き取ったのだそうだ。


 そして、神社から出ることを禁じられた娘は、20歳になる年に、霊山のふもとにある町から婿むこを取った。狐憑きと呼ばれた娘の子孫は、不思議と女の子しか生まれず、20歳になる年には同じように、麓の町から婿を取るらしい。


 その話はもちろん、町の若者たちも知っていた。

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