同棲解消と別れにまつわるいざこざ~後編~
3月〇日。朝起きてまず会社に休みの連絡を入れた。とても仕事に行ける精神状態ではなかったので。とりあえず荷物をまとめいつでも運び出せるようにして、掃除もした。日中、元奥さんが来て今後の話をしてくれた。入院期間は1週間以上になりそうだからもうしばらくこの家にいてもいいよ、と言われ、私はすぐにでもホテル暮らししようとしていたところだったが、その言葉に甘えさせてもらった。夕方母親が来てとりあえず飲むか!と居酒屋で食べ飲みしゃべり、2軒目にバーまで行って飲みしゃべった。母がホテルも2人分取ってくれていたので一緒に泊まった。受付にいたワンチャンがかわいかった。
4月〇日。母より先にホテルを出た。「いってらっしゃい」の一言が嬉しくてちょっと泣きそうになった。会社につくと上司(60代女性)がめちゃくちゃ心配してくれて、あぁこんだけ心配されるくらいのことだったんだな、とこの時ようやく事の重大さに気づいた。首のあざも隠そうにも隠し切れなかったし、それで余計に心配されたんだと思う。会社の倉庫に私の荷物を置かせてもらって社用車を使わせてもらうことにして、引っ越しの算段をつけた。
4月〇日。予約していたアパートの内見に行った。対応してくれた不動産屋の方がサバサバした感じの人で、勧めてくれた物件が彼の家と近くそのことを伝えると、じゃあやめときましょう!とすぐに他の物件を探してくれたりした。2時間ほど検討し物件を決め、2週間後に入居となった。午後からはセフレと会って一緒に花見に行った。彼氏と別れてその彼氏が入院している間にセフレと会うのって割と正気じゃないよなあ…と思いつつ、けどこの数日のことを一番話せていたのがこの人だったので(内容が内容なだけに友人とかにはあんまり話しづらかった)、大変だったねと労ってもらって少し心が晴れた。ホテルに行きやることやってゴロゴロとしていたら、元奥さんから連絡があった。彼の退院が早まった、というか無理やり出てきたという。しばらく入院するって言うてたやんけ…。とにかく今日は帰れないなと思い、その時点でそのままホテルに泊まることを決意。事情を話してご飯やら買ってきてもらい、翌日からアパート入居までのホテルも予約した。明日彼と顔を合わせなきゃいけない、という不安の中一人でラブホで寝た。
4月〇日。会社に行って車を借り、荷物を運び出した。車を返して家に戻ると、彼が話したいと言ってきたので話を聞いた。やっぱり別れたくない、ここにいてくれ、と。私は無理だ出ていくの一点張りで、延々とその押し問答。泣いて縋られて、多少可哀そうに思う気持ちもあったが、それ以上に私は自分を守らなきゃという気持ちの方が強かった。一旦離れてみて、1か月後また会いに来るということで決着がついた。結局彼にホテルまで送ってもらったし、LINEも消さずにおいた。
2週間ホテル暮らしをしていたが、想像以上に快適だった。もともと少ない物で生きてたし、街中のホテルだったからコンビニも近くにあるし、この生活私向いてるなと思った。毎日コンビニ飯だと太る気しかしなかったので、晴れてる日は会社まで40分かけて歩くようにしてたら3キロ痩せた。彼からぽつぽつとLINEが来たが、私は返したり返さなかったり。この間もセフレたちと会っていた、初めてカーセックスをしたり、3Pをしたり。
いろんな人に心配されたけど自分でも驚くほどダメージがなくて、この時はとにかく彼から離れなきゃと必死で自分のことを顧みる余裕がなく、その自覚もあった。だから後からどっと疲れたり悲しくなったりするんだろうなとも想定していた。
4月〇日。入居の日、彼の家に少し残っていた荷物を取りに行った。思ったより彼はあっさりしていたが、今思うとあえて素っ気なくしていたのかもしれない。帰り際、お前他の男と寝たやろ、と言われ、今更隠す気もなかったので肯定したら、俺も浮気したからいいんやけど、と彼は続けた。また彼の友人と息子の彼女の連絡先を残しておいたことを咎められたので、今度こそ本当に消した。
入居後は家具をそろえたり住所変更の手続きをしたりで、慌ただしく時間が過ぎていった。ただ自分の城、というか、自分だけの場所があるという安心感が強く、結局私に必要だったのは一人で心を落ち着かせる時間だったんだと気づいた。
5月〇日。約束の日、彼の店に行った。1か月ぶりに会った彼は、あれ以来酒を断っているのもあるのか、げっそりしていてまるで魂をどこかに置いてきたかのようだった。仲良くしてくれていた店の常連さんたちは、私のことを幽霊でも見るような目で見ていたが、気を遣いながらも話しかけてくれた。結局彼とはあまり話せず、翌日私も彼も仕事が休みなのでまた会うことになった。
5月〇日。彼と買い物に行きご飯を食べた。付き合っていた頃と同じように。違うのは妙な緊張感と、異様に無口な彼。私がもう帰るねと切り出すと引き止められ、あれから全然眠れない、一緒に寝てくれ(文字通り昼寝)と言われた。私は断ったが彼が駄々をこねるので諦めて彼の家に上がった。ベッドで彼は横になり私は座っていた。彼はひたすら弱音を垂れ流すのを聞いていたが、さすがに反論したくなりそこでようやく私は本音を吐き出した。あれが辛かった、これが苦しかった、でも一番辛かったのは私の苦しみをお前がいつも否定してきたことだ。私はお前の前で弱音一つ吐けなかったんだ。そう言った。彼から「ごめん」を聞いたのはこの時を含めても数えるほどしかない。二人してひとしきり泣いて落ち着くと、少し彼の顔色がよくなっていた。
5月〇日。新居にも慣れてきたので、気持ちをリセットしようと思い帰省した。母が一日付き合ってくれて、食べたいものを食べ行きたいところに行き、祖父母にも会った。帰ってこられる場所があるって有難いことなんだなと実感した。大学時代の友人の父親と母がたまたま知り合いなのを知ったり、フィンランド人と英語で話したり、てんやわんやあったがいい気分転換になった。
5月〇日。買ってきたお土産を渡そうと彼の店に行った。彼は以前よりも心身ともに回復しているように見えた。私も仲の良かった常連さんと久しぶり~なんて言ったりする余裕があった。閉店後彼と二人で話していると、次の休みも一緒にどこか行かないかと誘われた。彼の中ではもう仲直りしたつもりらしかった。私はまだ許しちゃいないぞという気持ちだったのと、消防士と約束があったので、もにゃもにゃと誤魔化そうとしたら、お前まだ他の男と続いてるんか、と言われた。めんどくさかったのでそうだよ、何か問題でも?と開き直った。彼は憮然とした表情で、お前それだけは辞めろって言ったやろ、と私を責めた。その顔を見て悟る、あぁもう本当に終わりだな。別れ際、彼は自分の浮気相手が誰だったか告白した。私も知っている人だった。もうどうでもいいけど。
以来彼とは会っていない。
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