第16話 5日目 - 2
秀郎はマウンテンゴリラの握力を警戒しながら、スピードを駆使して攻撃をする……が、思っていた以上に反応が早いため、蓮華の時のように致命傷を与えることが出来なかった。
一方の甲斐も防戦する状況に苛立ち、両手を振り回す。
お互いに自分の思う展開にならないことに焦り始めていた。
(早く倒して蓮華を追いたいのに、このくそゴリラめ)
(早いだけの能無しが、男なら力勝負だろうが!)
捕まりたくない秀郎と、捕まえたい甲斐の思惑が戦闘を長引かせていた。
この戦況を一変させたのは突如、目の前に現れた蓮華だった。
秀郎と甲斐は、お互いに夢中で第三者の存在を警戒することまで気が回っておらず、蓮華が現れると同時に、視線を蓮華に向ける。
一瞬の隙をついて秀郎の左足と、甲斐の右足に【
「!」
左足に違和感を感じるとすぐに、痛みとともに膝から下が地面に転がっている。
すぐに蓮華の仕業だと気付いた秀郎だったが、今度はその一瞬を見逃さなかった甲斐が秀郎との距離を詰める。
「しまった!」
回避が遅れた秀郎の右腕を掴むと同時に、骨の砕ける音が脳に響く。
「やっと捕まえたぜ」
甲斐は右足に巻きつけられた【
攻撃を当てることが出来なかった鬱憤をぶつけるかのように強く握る。
握る強さに比例して、秀郎の悲鳴が大きくなる。
「悪いけど、そいつは私の獲物なの」
背後から近付き、秀郎の右腕を切断する。
その反動で秀郎の体が後方に飛ぶと、左足がないためバランスを崩し倒れこむ。
(切断できない?)
蓮華は先程から甲斐の右足に巻き付けた【
すぐに火力を上げて、燃焼へと切り替える。
しかし、延焼速度が明らかに遅い。
「お前は、こいつを始末した後だ。たっぷりと楽しんでやるから待っていろ」
欲望の目を向けられていることに気付いた蓮華は、不快感から甲斐を睨むつける。
好色……異性から何度も向けられた嫌な目だ。
その目は先ほど、秀郎から向けられていたものと同じ……下心のある目だ。
蓮華を明らかに格下だと思っているのか、相手にずることなく、動けずうずくまっている秀郎にトドメを刺そうとしている。
「待ちなさい」
相手にされていないことを感じ取り、【
このままでは秀郎を殺されてしまう! と、感じた蓮華は即座に【
その瞬間、目の前の景色が変わる。
一瞬の出来事で何が起きたのか混乱する。
「なんだ~‼」
甲斐が叫ぶ。
振り返ると町の風景が変わっていることから、自分たちが飛ばされたことを知る。
しかし、そこに秀郎の姿はない。
秀郎を殺せなかった怒りがこみ上げる蓮華と甲斐。
自然とお互いの視線がぶつかる。
怒りをぶつける相手として……だ。
「うぉぉぉぉーーー‼」
「ふぅ~」
怒りを爆発させる甲斐とは対照的に、冷静になろうと呼吸を整える蓮華。
「順番は逆になったが、先に可愛がってやるぜ」
隠す必要がなくなったのか、甲斐の体の周りが輝き始める。
少しずつ距離を縮めると、空気中の塵が凍って輝いていた。
「氷属性!」
またも相性の悪い氷属性持ちと出会ったことに、蓮華は顔を歪ませる。
先程の【
「俺の【
体から放出される冷気で、周囲の空気が凍っている。
攻撃はマウンテンゴリラの力、防御は【
甲斐の攻撃は近距離だと絞ったからだが、甲斐を倒す算段が浮かばない。
【
【
反撃の糸口を見つけようと、攻撃を続ける。
「無駄だ! お前の炎では俺の【
完全に蓮華を下に見ているのか、避ける素振りさえみせずに蓮華との距離を詰めるように歩いてくる。
二種類のスキルは、自分よりも強い。
それだけ能力を強化している……つまり、その分だけ参加者を殺してポイントを習得したことになる。
ボーナスをもらった自分よりも多い……という考えが思い浮かぶ。
(もしかして、十人目と二十人目のボーナス取得者‼)
そうであれば、自分よりも強いことにも理解が出来た。
そして、格上との戦闘になるのだと気を引き締める。
(……勝ち筋が見えない)
唯一の武器が使えない事実を突きつけられた蓮華の心は激しく揺れていた。
相撲にプロレスラーと歴戦の猛者相手に活躍してきた甲斐にとって、蓮華の心が手に取るように分かった。
今、蓮華の表情は怯えているからだ。
威嚇するように右足を出せば、引き離されるかのように何歩も下がる。
そのまま左足を激しく音を立てるように地面に叩きつければ、先程以上に後退する。
(あとは、どう殺すかだな……生きたまま犯すことは出来ないし、殺せば灰になるから、死姦も無理だな。無駄に興奮だけさせやがって)
蓮華の体に興奮していた甲斐だったが、それは蓮華のせいではなかった。
「瑠璃様‼ いました」
大声で叫ぶ参加者。
(瑠璃‼)
リゼは参加者が叫んだ名前が気になったが、甲斐の気が自分から逸れたことが千載一遇のチャンスだと思い、
後ろを振り返らずに土煙の中を一気に走る……が、暫くすると追ってくる甲斐の気配がない。
(助かった――)
あのまま戦えば、完全に自分が負けていた。
この短時間で二度も逃走したという事実――やりきれない悔しさが蓮華を襲う。
物に当たりたい気持ちを押さえながら、呼吸を殺して静かに身を隠す――。
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