第12話 4日目 - 3

 戦う音が徐々に聞こえなくなっていった。

 ポイント二倍デーに釣られて、戦闘をしていた参加者たちが減ってきたのだ。

 しかし、蓮華のように戦いを望んでいる参加者がいることも事実だ。

 身を隠して逃げようとしても、いつかは戦わなければならないことは参加者であれば知っている。

 スカウトされた参加者たちは、覚悟が決まっている……いいや、頭の螺子が何本も外れているからこそ、強いのではないかと蓮華は考えていた。


「そこのお姉さーん」


 背後から甘ったるい声が聞こえて来た。

 蓮華は振り返ると、声の主を見て口角があがった。

 小走りしていた声の主も、振り返った蓮華を見て足を止めた。


「紅林‼」


 服装が変わっていても一目で蓮華だと見抜いたのは、蓮華の殺すリストに入っていた”高羽 愛莉沙たかば ありさ”だった。


「元気そうね」


 馬鹿にした口調で笑う蓮華に対して、愛莉沙の目つきが鋭くなる。


「まぁね」


 感情を抑えているのか、蓮華を睨みつけながら答えた。


「あんたも元気そうね」

「えぇ、元気よ。一度は死んだけどね」


 愛莉沙の挑発に乗らず、挑発を返す蓮華。


「そうだったわね」


 しかし、愛莉沙も冷静に返すと、睨んでいた目を糸のように目を細めて笑顔になる。


「生前はゴメンね。私も反省しているからさ」


 愛莉沙は無防備だと言わんばかりに両手を広げて掌を蓮華に見せて近付く。


「まぁ、あんたも死んで私も……って、死んだ後のことは知らないわね」

「知っているわよ。相馬が死にたくないって、私が死んだ後のことを丁寧に教えてくれたから」

「あんた、希来里を殺したの‼」

「もちろんよ。それが、この世界ディストピアのルールでしょう」

「そ、そうね」


 蓮華が希来里を殺した知った一瞬、愛莉沙の目が鋭くなったが、すぐに目を細めて引きつったように作り笑顔に戻る。


「とりあえず、話でもしない」


 徐々に距離を詰める愛莉沙だったが、五メートル程近付くと表情が一変する。


「死にな‼」


 蓮華に見せていた掌を返すと、十本の爪が一気に伸びて、蓮華に襲い掛かってきた。


「なに、この攻撃」


 驚くこともなく蓮華は【バーニングウィップ炎鞭】で愛莉沙の両手を拘束する。


「あっ、熱い‼」


 叫ぶ愛莉沙を、そのまま横に飛ばすと伸びた詰めの何本かが建物に突き刺さった。

 建物には爪で切られた後も出来ていたので、爪の硬度も高いのだと蓮華は見抜く。

 そのまま近付こうとする蓮華だったが、なにかを感じて足を止める。

 叫び続ける愛莉沙だったが爪は元に戻り、その目は死んでいない。

 蓮華が一歩踏み出そうとすると、狙っていたのか愛莉沙の足の爪が手の爪同様に伸びて蓮華に迫る。


「単純な攻撃ね」


 陳腐な考えの幼稚な攻撃に呆れながら、愛理沙の手を縛っていた【バーニングウィップ炎鞭】の炎を大きく鋭くして、両手を切断する。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 両手を斬り落とされた愛莉沙は叫ぶ。

 それは足を斬られた時の希来里の叫び声と同じだった。

 先の霧島との戦いで、蓮華は【バーニングウィップ炎鞭】の熟練度が増したのか、【バーニングウィップ炎鞭】を扱い方が理解出来ていた。


「弱いね」


 寝転がる愛莉沙を見ながら、自分の相手にならないと蓮華は吐き捨てる。


「ふざけるな‼」


 吠える愛莉沙に蓮華は油断せずに戦闘態勢のままだった。


「どうせ、さっきみたいに甘い声で近付いて、奇襲攻撃するくらいしかないんでしょう」

「うるさい‼」


 何も仕掛けて来ない愛莉沙を不気味に感じながら、全身を【バーニングウィップ炎鞭】で拘束すると、全身に火が回り叫び声が大きくなる。

 なにかを言っているようにも聞こえるが、燃え盛る愛莉沙を拘束している【バーニングウィップ炎鞭】を強める。


「瑠璃の情報を教えるから‼」


 愛莉沙の口から出た「瑠璃」という名に反応して一瞬だけ【バーニングウィップ炎鞭】の拘束が緩む。

 その瞬間、愛莉沙の足の爪が伸びて蓮華の目の前まで迫る。

 だが、愛莉沙の爪が蓮華に当たることは無かった。


「助かるための嘘か……本当に救いようがないクズね」


 こんなクズに虐められて自殺までした自分の愚かさに腹を立てる。

 最後の攻撃に一縷の望みをかけていたのだろうが、その願いが潰えると愛莉沙は抵抗を止めた。

 そして愛莉沙の体は、そのまま灰へと化した。

 思っていた以上に呆気なく終わったことに、蓮華は物足りなさを感じていた。

 もし、この世界ディストピアで瑠璃や愛莉沙に会ったら、いたぶり殺そうと決めていた。

 だが実際は、自分より非力な存在だった愛莉沙に対して、怒りを通り越して呆れていた。

 憶測だが、爪の強化だけで生き残れるという甘さ。

 所詮は瑠璃の意見に同意して、あたかも自分の力かのように振舞うだけしかなかったのだ。

 噂で中学受験に失敗したから、自分たちが通う中学に来たと聞いていたが、その憂さ晴らしに自分が利用されただけなのだと、改めて感じていた。


 表示された画面を見て愛莉沙がどうしても、あと一人殺したかった理由を理解した。

 『駆逐数:十一(ポイント:七)』。

 つまり、愛理沙はポイントが四だったので、あと一人倒して『スキル強化』か『新スキル習得』をしたかったに違いない。

 ほくそ笑みながら呟く。


「有難く使わさせてもらおうわ」


 蓮華は迷わずに『スキル強化』の表示を押す。

 結局、愛莉沙のスキルが不明だったが、爪の硬度をあげたり、伸縮自在が可能なことから【身体強化系】なのは間違いない。

 『スキル強化』にも、いろいろあるのだと知れたことだけは愛莉沙に感謝していた。

 結局、【自然操作系】や【肉体変化系】も基礎身体能力が低ければ、宝の持ち腐れだと蓮華は気付いていた。

 自分が取得した【動体視力】や【筋力強化(敏捷性)】は敵の攻撃回避や、自分の攻撃の幅を広げるには最適なスキルなので、この二つの能力強化こそが、自分が生き残るための鍵だと考える。

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