第3話 1日目 - 1
「ここはどこ?」
目を覚ますと大きなビルが目に入ってきた。
周囲を見渡すが、人の気配は感じない。
蓮華は記憶を呼び起こそうと、必死で思い出す。
(たしか……)
飛び降りる寸前に、ゴスロリ少女に話し掛けられたことを思い出した。
(一体、あれは……)
夢なのか幻なのかを考えている蓮華だったが突如、静かな街に大きな声が響き渡った。
「参加者の皆さん。お目覚めですか!」
蓮華は反射的に周囲を見渡すが、声の主はいない。
設置されている幾つかのスピーカーから流れていることに気付く。
「ようこそ、ディストピアへ。このディストピアに集まった参加者は全員で百八人います。最後の一人になるまで戦ってもらい、最後の一人がオファー組の人だったら死なない世界かつ、死ぬ原因を取り払われた世界に戻ります。スカウト組の人には約束通り、どんな願いでも一つだけ叶えます。尚、戦う期限は七日間ですので、七日間の間に決着しないと判断した場合は、ルール変更して強制的に戦ってもらいますので御了承ください」
蓮華は自分がスカウト組だと理解するが、人殺しを行うことを聞いても、どこか他人ごとのようで、自分の身に起きていることのようには思えなかった。
「それでは”スキル”を決めるルーレットを行います」
目の前に突然、ルーレットのような画面が表示されて回り始める。
その下にボタンがあるので、これを押すのだと思い、蓮華はボタンを押す。
ルーレットは”炎”の場所で止まると右手に紋章が浮かび、刺青のように皮膚に張り付いた。
「スキルの説明はしないから、自分で考えてね。あっ、因みに同じ系統のスキルもあるからね。大事なことだけ一つ教えますよ。日付が変わると体への損傷は回復します。ですが、切り落とされたりして、体から離れた部位については回復しませんので気を付けて下さいね」
数秒間だけ放送が止まったが、すぐに続きの説明が始まった。
「ちょっと中断したけど、説明の続きです。毒物や毒ガスによる攻撃は無効になるようにしていますので、毒攻撃は無意味ですからね。でも、スキルに関連した毒は効きますから、そのスキルを習得した参加者は思う存分に使用して下さい。それと武器なども用意していますから、好きに使って下さい。では、頑張って殺し合いをしてね!」
声が途絶えると、先程までの静寂な空間に戻った。
殺し合いをしろと言われて、殺人をするような奴がいるのか? と蓮華は考えながら、百八人もいれば暴力に酔いしれる輩がいてもおかしくない。
最後の一人になるまで戦うのであれば、仲間を作っても最後には戦うことになる。
それよりも――まずは人目のつかない場所へと移動するべきだと、早々に今いる場所から離れる。
自分のスキルを確認しながら歩いていると、目の前に反社のような風貌の男が現れた。
蓮華を見つけるなり、下衆な表情で襲い掛かってきた。
襲い掛かってきた男が叫ぶ。
すると、叫び声に反応したかのように、徐々に男の体が熊へと変わっていく。
完全に熊の姿に変貌すると、胸に三日月型 の白斑が目に入ってきた。
ツキノワグマの特徴と一致していたので、ツキノワグマに変身したのだと蓮華は気付く。
しかし、蓮華も一度は死んだ身なので、自分がどうなろうと関係なかった。
「奪われる奴は、どこに行っても……世界が変わろうが、奪われることには変わりない。惨めだな」
襲ってきた男の一言が、蓮華の琴線に触れた。
「うるさい‼」
蓮華は叫ぶと、頭に浮かんだ言葉を口にする。
「【
右手から数メートルの炎の鞭が突然現れる。
生まれて鞭など使ったことのない蓮華だったが、自分の思い通りに鞭を振り回す。
突然のことに驚いた男は炎の鞭に体を縛られて身動きが出来なくなった。
「離しやがれ!」
男は叫び続けるが動けば動くほど、炎の鞭は男の体にめり込み、体を焼いていた。
「わ、悪かった。だから、これを解いてくれ」
このままでは死ぬと感じた男は、必死で蓮華に許しを請う。
「奪われる側の人間が何を言っているの」
命乞いする男をあざ笑う蓮華。
数分前までの無気力だった面影は既に無かった。
「そうよ。私も奪う側になればいいのよ。そして、最後の一人まで生き残って、現実世界に戻ったら、あいつ等に復讐してやる」
男を無視して、蓮華の視線は遠くの空を見ていた。
数分後、男が灰になり崩れ落ちた。
同時に目の前に青い画面が表示される。
そこには『駆逐数:1(ポイント:1)』と表示されていた。
蓮華は『駆逐数:1』の表示に興奮していた。
討伐でなく、駆逐。
つまり、自分の邪魔になる奴は殺しても良いという免罪符。
蓮華は狂ったように【
鞭など使ったことのない蓮華だったが、【
気付くと蓮華の周りは瓦礫と化し、火の海となっていた。
「ははははは」
高らかな笑いをすると、物陰で動く者がいることに気付く。
蓮華は【
崩れた建物の陰に中年の女性が縮こまって座っていた。
「助けて下さい」
怯える目で蓮華を見る女だったが、その怯える目が以前の自分と重なり苛立つ。
「可哀そうに、あなたは奪う側にはなれないのね」
非情な目で女を見下ろすと、情けをかけて見過ごそうと素通りした瞬間、蓮華に襲い掛かって来た。
右手には氷の剣を持っているので、スキルで具現化したのだろうと思いながら女の首に【
「た、助けて」
苦しそうにもがく女は必死で首から鞭を外そうとして、手に火傷を負っていた。
数分後、女性の腕は力なく垂れ下がり、首から上は髪も皮膚も燃えて灰となる。
「これで二人目ね」
目の前に表示された『駆逐数:2(ポイント:2)』の画面を見ながら、満足そうな蓮華だった。
駆逐数の後に表示されているが気になっていた。
倒した相手だけで良いのであれば、ポイントという表示をする必要がない。
なにか別の意味があるのだと蓮華は思いながら表示されている青い画面を見続けていた。
表示を見ていると、ガラスに映った自分の姿に目がいく。
「この服装は……着替えた方がいいかも」
死んだときの服装。
つまり中学校の制服を見ながら、蓮華は不快感に包まれる。
今の自分は自殺する前の”紅林 蓮華”ではないからだ。
次の獲物を探しながら街を徘徊していると、ブティックのショーウィンドウ飾られているマネキンに目が行く。
革ジャンなどの革製品を全身に着飾っているマネキンに引き寄せられるかのように、気付くとガラスを破壊してマネキンから服を奪っていた。
生前? の自分なら一生着ることがない服と、非現実的な今の状況が蓮華の心境に影響を与えていた。
蓮華は上機嫌で店の奥に行き服を着替えて、二つ縛りされていた髪を解き、店のあったアクセサリーを身に着ける。
「ピアスか……」
都市伝説で聞いたことがある「ピアスを開けると運命が変わる」が、頭に浮かんだ。
ピアスの隣にあるピアッサーを手に取る。
サイズが幾つかあることに気付くが、良く分からないので数字の一番大きな18Gを選んで、鏡を見ながら位置を決めて自分の耳にピアスを着ける。
多少の痛みは感じたが虐めを受けていた時や、先の戦闘に比べれば大したこと無い。
「案外、似合っているじゃない」
鏡に映った自分を見て満足する蓮華。
今の蓮華を見て、彼女が”紅林 蓮華”だと言われても信じる人間は少ないかもしれない。
奪うと聞いて、真っ先に頭に浮かぶと言えば”泥棒”だ。
泥棒で有名な女性キャラクターが身に着けている衣装と似ていたので、蓮華も気に入っていた。
蓮華は中学生としては体の発達が良く、男性が好むプロポーションはしていた。
蓮華が虐めのターゲットにされた理由の一つだ。
「さてと……」
蓮華は獲物を探すため再び、街へと歩き出す。
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