グリード・ガール

地蔵

第1話 プロローグ - 1

「死ぬのですか?」


 学校の屋上に立つ”紅林 蓮華くればやし れんか”は背後からの声に驚いて振り返る。

 視線の先にはゴスロリの衣装で雨も降っていない夜にも関わらず、傘をさしている少女が立っていた。


「引き止めても無駄ですよ」


 明らかに場違いな格好の少女に違和感を感じていたが、飛び降りて命を断とうとしていた蓮華にとっては些細なことでしか無かった。

 仮に両親の話を出されて自殺を止めようとしていたら、面白可笑しく言葉を掛けるつもりだった。

 借金だけ残して失踪した無責任な父親。

 その借金のため心労が重なり、先日亡くなった母親。

 そう悲しむ親などいないのだ。


 何日も前から屋上に侵入するために策を講じてきた。

 別の部屋の鍵を借りるふりをして、キーボックスから屋上の鍵の型を粘土で取り、それに溶剤を流し込んだ。

 そして、何度も何度も屋上の鍵があくまで試した結果、今ここに立っている。

 先程の言葉から、このゴスロリ少女が自分の自殺を止めようとしているのだと感じていたのだ。


「別に自殺は止めませんよ。ただ、死んだ後にもう一度、人生をやり直してみないかと提案させてもらっているだけです。……いいえ、違いますね」


 ゴスロリ少女は自分の言葉に矛盾を感じたのか、少し考え始めていた。


「そう、スカウトですね」


 適切な言葉を口に出来たと思ったゴスロリ少女は、自慢気に人差し指を立てる。

 蓮華は不機嫌な表情をゴスロリ少女に向けた。


「何を言っているんですか?」

「そのままの意味ですよ。死んでもいいですが、私の提案に乗ってくれたら、どんな願いでも一つだけ叶えてあげますよ」

「はいはい、その提案とやらに乗ってあげるわ」


 面倒くさそうに了承したことを伝える。


「もう、いいかしら? 用が済んだのなら帰ってくれるかしら」

「は~い、言質とりました。これで私の仕事終了。じゃあ、後ほど」


 蓮華は適当にあしらうつもりで答えると、ゴスロリ少女は笑顔だった。

 その口調も、いままでの堅い業務口調から変わっていた。

 笑顔のゴスロリ少女に怪訝な表情になると突然、学校の屋上に突風が吹き、咄嗟に目を瞑る。

 そして再び目を開けると、蓮華の視界からゴスロリ少女は消えていた。


「夢?」


 蓮華は摩訶不思議な体験も、死ぬ前の異常な精神状態が原因だと思う。


「邪魔が入ったけど、そろそろ――」


 蓮華は柵に背を向けたまま、まだ見ぬ世界へダイブする。

 花壇の花を押しつぶすような情熱的なキスをして、この世界に別れを告げた。


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 ・


「毎度~」


 花壇に倒れ込む蓮華を屋上から見下ろしながら、ゴスロリ少女が笑顔で呟く。


「次は……彼女を虐めていた、こいつらね」


 取り出したメモ帳を見ながらゴスロリ少女が不敵な笑いを浮かべた。

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