第53話 領主 シュナイゼル

§シュナイゼル視点§

 スタンピードが起こったと報告が入った。


「なに!? すぐに救援要請の伝書鳩を送れ!弓士を城塞に配置せよ。重要人物はこの領主邸へ連れ次第、門を固く閉じて領兵に守らせるのだ」

「「かしこまりました」」


 積極的にハンター達を緑門へ送り込んでるのに、20年も経たずにスタンピードだと。100年に1回も起こらないのが普通なのに、この地は呪われているのか?


 領主になってから5年でスタンピードが起こった。あの時は街が壊滅状態になったが、国の援助もあり復興を成し遂げた。ただの田舎街から市にまで発展させたのだ、今回も凌いでみせる。


 当時の領主だったフォード.レーカーを、殺めるリスクを冒して手に入れた地位だ。簡単に諦めることはできない。


 最悪、領主邸さえ残れば復興することができる。このシュナイゼル.ヤンカーは男爵程度で終わらない。王国の中枢こそが私に相応しい。


§ラミュル視点§

 領主邸へ強制的に連れて行かれて、今は与えられた一室でスタンピードが終わるのを待つだけ。


 食事の時に領主を目かけたので、今回の件について意図を確認することにした。


「領主様、お久しぶりです」

「やぁ、ラミュル嬢。相変わらず美しいね」

「あの、今回の領主邸へ集められた件ですが、私がこの場に居るのは相応しくありません。スタンピードで怪我を負った人々の治療ができません」


 私は国から任命された治療の担い手、こんな所で悠々としている訳にはいかないの。お兄ちゃんが門の外で魔物の群れと戦っているんだから、前回はお母さんを救う為に、今回はアナ達を救う為に身を挺している。


「君の力は必要な時に使わせてもらうよ」

「今がその時だと思うのですが?」


 今この時こそが、私の力が必要な時なはずなのに、領主はなにを言ってるのだろう? そのことを問うと衝撃の言葉を聞くことになった。


「ここに居る有力者さえ生き延びれば、ヤンカー市は滅びることはない。応援が駆けつけるまでは、有力者を最優先に治療してもらう」

「そんな……」

「それまではここから離れることを禁ずるよ。下々の者の治療は、スタンピードが収まってから行ってもらうからね」


 私達の周りにも人は居たけど、領主の言葉に頷く自分勝手な者ばかりだ。強引に出て行くだけの力がない私は、彼等に従うことしかできない。


(私はなんの為に白魔法の使い手になったんだろう……)


 領主シュナイゼル、この人は人間の姿をした悪魔だ……。こんな人を助けないとダメなの?


 人の悪意に絶望した瞬間だった。


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