猫の首輪の鈴の音は。

洞貝 渉

1

 帰り道が終わらなければいいのに。

 うすぼんやりと、そんなことを思う。


 夕暮れに染まった空は郷愁を誘うが、記憶のどこをひっくり返しても、赤く染まった空を懐かしむような素敵な思い出などありはしない。幼いころは空を見上げることもなければ、見上げた空を眺めるほどの余裕もありはしなかった。

 それでも夕暮れに胸が締め付けられるように感じるのは、きっと人間というものが空を眺めればそんなふうに感じるように出来ているからなんだろう。


 はやく帰って休みたい。

 しかし、同時に帰りたくないとも思う。

 帰ればまた、あっという間に時間が過ぎ、明日がくる。

 はやく帰りたいけれど、もう帰りたくない。

 いっそ、この帰り道が終わらなければいいのに。


 駄々っ子のような思考に気を取られていると、ふいにどこからか惹きつけられる音がした。

 笛、だろうか。小太鼓の軽いリズム感のある音もしてくる。

 よくよく耳をすませば、人々のざわめきも聞こえてきて、私は音の出所を探し視線をさ迷わせた。

 寂れた小さな神社が目につく。

 しかし、人の気配はあるものの、鳥居から覗く神社に人の姿は無い。

 どこかで祭りの動画でも流している、のか? でも誰が? 何のために?

 つらつらと上滑りする考えをめぐらせながら私は無意識に境内へと足を運んでいる。

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