吸血鬼世に憚る

Uzin

序章 蝙蝠からの進化

第1話 我が輩は劣った小さな蝙蝠である

 我が輩は蝙蝠である。

 気がつけば洞窟の天井にぶら下がる一匹の蝙蝠として生きていた。

 こうやって自我を獲得したのがいつ頃だったのか定かではないが、我が輩は自らを蝙蝠と認識し日々を過ごしている。

 では、何故我が輩が自分の種族の事を明白に把握できているのかと問われれば、それはこの世界の理のお陰であると言えよう。

 この世界には自らの能力を確認することが出来る理が存在するのだ。


レッサー・スモール・バット

吸血

超音波

飛行


 非常に簡素な物であるがこの理のお陰で我が輩は我が輩を蝙蝠だと認識出来ている訳だ。

 それと同時に我が輩は劣り小さな蝙蝠という、蝙蝠の中でも非常に矮小な存在であることが窺い知れることが出来る。

 なんとか成長して劣りとか小さいとかを取り除き普通の蝙蝠になりたいものである。

 成長…吸血行為を行い肉体を育て上げることが必要なのだが、レッサーでスモールな私ではそう簡単に吸血行為を成功させることは難しい。

 夜闇に紛れ睡眠している動物の元に赴き小さな傷をつけてチロチロと血を啜る日々を過ごしている。それが今の我が輩である。

 そんな日々を過ごしている時、とある小さなネズミの血を啜った。そしてそのネズミの体躯が小さかった為殺すことになったのだが、この時我が輩の身体に何かが注ぎ込まれる感覚を感じることが出来たのだ。

 我が輩はその力を直感的に成長する為に必要な行為として認識出来た。

 詰り、ただ吸血行為をするだけでは腹を満たすだけで、レッサーもスモールも取れずに生涯を終えてしまうと言うことに気付いたのだ。

 であるならばやることは一つであろう。

 このまま矮小な存在で在り続けるよりも、他者を害してでも成長し生存率を高めていくのだ。

 それからの日々は今までとは違った、世闇に紛れることは一緒だが、吸血する対象を殺せる対象へと切り替えたのだ。

 幸い小さなネズミはそこら中に居り食べ放題。私は自らの内に貯められていく力を確かに感じながら毎日腹が膨れるまでネズミを吸血し殺していった。

 そんな日々を過ごしているある日のこと、身体の中に力が貯まり限界値を超えそうな時にネズミを殺した時それは起こった。

 身体からメキメキと音が鳴り始めたのだ。

 全身を駆け巡る痛みと共に脳内に響く無感情な声が響き渡った。

 (スモール・バットへと進化致します)

 強烈な痛みと共に行われた進化によって我が輩は劣った小さな蝙蝠から、小さな蝙蝠へと進化することに成功したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る