【エッセイ】小説家のSF世界生活

マネーコイコイ

一日目 衣服をかけるハンガーゲームについて話す

 西暦2050年。世界は環境破壊や戦争、飢餓などにより荒廃していた。さらに地球は沸騰化現象で砂漠化が起き、人々の住める場所もオアシス付近に地下シェルターを形成して、住む場所も限られていた。


 私はクリーニング屋で働きながら小説を書く、しがない労働者だ。一応、小説家でもあるがまだ名はない。


「あえて名乗ろう。我が名はピーター・D・カットニスこれはハンドルネームであり、本名は三浦 行過義(みうら いきすぎ)でもあるけど、気にするな。


 私の仕事はシェルター内の労働者たちの服を洗濯して、クリーニングをかける仕事だ。労働者たちの多くは脳のバックアップを中央コンピューターに送ってから、外へと向かう。外では人々の代わりに世界の支配者となったアンドロイドたちが今も死んだ大富豪達のために働き続けている。バックアップをとる理由は、外へ向かうときにここでの記憶を消し去って向かうためだ。これは警備ロボにつかまった場合、深層解析によって、記憶を読み取られて、オアシスの位置を把握されるのを防ぐためだ。そして、帰ってきた労働者達は記憶を中央コンピューターからもらって、日常生活に戻る。


「記憶がないのにどうやってオアシスに戻るかって? そんなの決まってるだろう。三人に暗号化したメモを渡して、それぞれが帰るときにみっつの暗号を合わせると地図になって、ここへ帰ることができる。この方法を突破したアンドロイドはいまだかつていない」


 クリーニングについて話を戻そう。洗濯した服は濡れているが、旧時代の乾燥機をつかって衣服を乾かす。世界の支配者がアンドロイドたちになってから、人々の生活するためのものは、2033年から何も変わっていない。近未来的な洗濯機も乾燥機もアンドロイドたちにとって不要なものなので、新しいものが作られていないのだ。だから、家電機器もそうだが、ここではかなり貴重なものだったりする。だが、大抵外から持ち帰った家電機器は壊れている。だからエンジニアに頼んで直す。エンジニアの中でも戦闘員はアーティファクトと呼ばれていて、アンドロイドの技術を使うらしいが、詳しい話はまた今度聞いてみるとしよう。


「ハンガーゲームについて話したかったんだ。これは私が考案したものだ」


 聞いてくれ。ハンガーゲームというのはクリーニング作業があまりにも暇すぎるために、私が考案したものだ。乾かした服は棚にかけて、乾燥機を使って、乾かすが待つのも暇だし。顧客がとりにくるまで、店でまつのも暇すぎる。だから、私は労働者の家に服を届けるということを思いついた。私には後輩もいて彼とどちらが先に仕事終わらせれるかを競い合う。それがハンガーゲームだ。


「それで話たいことはもう終わりかな? 三浦くん」


「我が名はピーター」


「日本人だろ? バカも大概にしてくれ。さて、そろそろビジネスの話に戻ろうか」


 私は現在、捕まっている。拘束はされてないが、オアシスの支配者が運転する黒塗りのバンに後輩がぶつかったのをかばったら、なぜか事務所でお茶とお菓子をだされてよくわからない。


「小説を書いてほしい。これから起こる、我々の大規模な遠征によって、アンドロイドの支配から、人間が世界をとり王とる。その物語を君に書いてほしい」


 彼は長い黒髪に青い瞳を持ち、背中には龍の刺青がある。なぜか、事務所に入ったときに上半身を裸にしてみせてくれた。顔立ちは整っており、笑顔が魅力的だ。服装は黒いコートに赤いスカーフを巻き、革のブーツを履いていて、左耳には金のピアスをつけている。


「怒ってないんですか?」


「当然だ。我々は同じ日本人の仲間だ。これから世界すべての人間を救うのに、三浦くんを殺しては本末転倒だろう?」


「ありがたい。てっきりオアシスを追い出されるものだと思っていた」


「君はクリーニング屋としての腕も俺も評価している。それにハンガーゲームについてはいろいろな面白い話を聞いている」


 そういうと目の前の男は豪快に笑って見せた。


「俺の名は夜明 黎銘(よあけ れいめい)。これからもよろしく頼むよ」

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