恋の病
晶の華
恋の病
あなたは、現れて僕の心を奪っていたが、責任を取らずに去っていった。僕は、バックパッカーになった。最初は、旅するあなたを探せたらと思っていたが、今はあなたのことを忘れるために旅をしている。あなたが、ふらっと現れてくれたらどんなに素敵だろう。僕は、あれこれ1000年近く生きてきた。とても綺麗なものも見たし、たくさん感動するようなことにも出会った。(近頃は、だんだん感度が下がってきたのだが。きっと耐性がついたのだろう。)が、それと同じぐらい人との別れ、友人の死を見たし、聞いた。未だに、人の死に関することには、全く慣れない。出会いと別れを繰り返した。自分は人生をループしていて、だから1000年生きているような気分になっているのではないかと、それなら覚めてほしいと何度思ったことか。最近、全国の人口減少が深刻化していて、誰かと笑い合うことが少ない。僕は、飢えているのだと思う。人の温かみに。
今日は、昔日本と呼ばれていた場所へ行ってきた。僕が、歩いたところは東京だった。ビルがたくさん建っていて、でもそのビルは崩れていたり、草に囲まれていたりした。前にも来た事がある。きらきらしているビルが建ち並んでいて、人がスクランブル交差点をずらずらと流れていた。都会ってこんなに素敵な場所なんだとものすごく思ったのを覚えている。今は、どうだろう。あの人を忘れられたらと思っているはずなのに、気づけばあの人のことばかりで美しいものを全然見れてないじゃないか。世界は、まだ美で満ち溢れているはずなのに。
あの人は、言っていた。
「あなたが好きで堪らない。でも、私には時間がない。だから、私は色々な所へ向かわなければならない。」
僕は言った。
「そんなの、僕と行けばいいじゃないか。僕は、どこへでもあなたについていく!!!」
必死に言ったが、僕の訴えは全然効かなかった。あなたは、僕に背を向け大股で歩き出す。僕は、ナイフを取り出し、最終手段に出た。追いかけ、手を掴む。
「僕、実は1000年近く生きているんだ!!!僕の血を飲めば永遠に生きることが出来る!」
腕から血が流れる。彼女は、一瞬目を見開き、また元の顔に戻り、黙った。その間が、異様に長く感じられた。
「私、あなたのそういうとこ嫌いよ。」
彼女は、冷たくそう言い放った。今にも泣きそうな顔をして。僕は、それ以上彼女を追いかけるほど精神が図太く出来ていなかった。それに、まず体が動かなかった。音が、色が、光が、何もかも身体に届かなかった。血は、僕の指を這い、しばらくして砂に吸い取られた。
彼女は、僕に呪いをかけたのだと思う。一生忘れないでという言葉の呪い。最後まで彼女らしい。彼女は、自分には時間がないと言った。頭の中ではわかっているつもりだ。だが、やはり彼女に会いたいと思う。僕は、これからも旅を続ける。
****
言ってしまった。
「私、あなたのそういうとこ嫌いよ。」
と。それを言わないとあなたは、私から離れないと思ったから言ってしまった。。私は、あなたのそういうとこも好きなのに。すべて好き。でも、私は病気にかかってしまった。残りの時間、どう過ごそうかと考えながらあなたの隣に居たら、どんどん時間が過ぎていった。病気と言っても他の人に移るものではないし、発症するのは20代後半。私にも遺伝してるのだろうと思っていたから、覚悟はできていたが、かかってからの余命は半年だと実際に言われると胸が締め付けられた。言われてから、私が死んだとき、あなたの気持ちを考えた。そして、そばにいない方がお互いのためだと思った。あのあと、残りの時間を有意義に過ごすために、親や友達に感謝を伝えて回った。もうこの人たちにも会えないのだと思った。でも、何よりもあなたに会えないことがやっぱり苦しかった。そんな時、村の近所のあるおじいさんが言ってきた。
「病気を治したいか?治したいなら、俺の部屋に来い。治し方を教えてやる。」
もちろん部屋に行った。床、テーブルなどいたるところに本があった。
それから私は、その部屋でおじいさんの隣に座って、頁をめくるようになった。治して、あなたに会えますように。
そして、あなたに飛びきりの愛を伝えたい。もう、逃げなくてすむように。
―私は、探し続ける。自分の病を。
――あとがき――
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでもいいなと思ったらフォローと★でのご評価お願いします。
恋の病 晶の華 @yakan20
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます