五話 急襲
「空飛ぶ物体?」
その目撃は本当なのか、と思いつつ聞き返した。しかし職員は真面目な顔を向けて、一度手元の書類に視線を落としてさらに続ける。
「本当に空を飛んでいたそうですよ。バンバンと音をたてながら、人の姿も見えたとか」
「人が?」
ロリイの声は一段と大きくなり周りにいるダルーナや職員の視線が集まる。
ここ、ダルーナ院は地域ダルーナが所属する支部である。事務所、宿泊施設、訓練所を備えた施設で地域ダルーナと職員はここに常駐している。また周回ダルーナが宿を頼んだり、情報を貰ったり、本部からの指示を受け取ったりする場所でもある。ロリイはクリーニ館から真っすぐここへ来て宿泊を頼んでいた。
地域の出来事はダルーナ院へ持ち込まれると所属のダルーナへ指令がいく。まれにロリイのように別件で来訪したダルーナに依頼される事もある。
今回入って来た不審情報は不測の事態も考えられ、特別にロリイに回って来たのだ。
パテロ-ネロの港でロリイは腕輪型の情報端末を見てから空を見上げる。最初の目撃情報はここだった。飛んでいるのならとっくに移動しているだろう。ここで空飛ぶ物体を見た人が他にいるか聞き込んでみたが、港という場所ゆえ人は移動しており見た人はいなかった。大きな、聞いた事のない音を聞いた人は何人かいた。その音が問題の物体のものかは分からないが。
次に港で大型貨物の記録を確認する。ダルーナには調査権限が与えられているので簡単に見せてもらえる。書類上は問題なかったが、実際に持ち込まれたものを見ている訳ではないので何とも言えない。
ロリイはもう一度空を見上げる。
空は簡単ではない。少ないながらも重力が存在しているから人は空へ向かって飛び上がっても間もなく地面へ戻る。長時間浮いている事は出来ない。鳥も、唯一空を自由に飛べる鳥さえも人工的に作られた鳥しかいない。どこかの学校で開発、実証実験後にどこかの会社が独占して飼育、販売しているとか。そんな事を聞いた事がある。
ダルーナでさえ一時的に高く飛び上がる事はよくある事だが、長時間の浮遊と浮きながらの移動は大量の<ルーシ>を使う為あまり行わない。浮遊術は<ルーシ>を使って足下のピグマを凝縮して固定する繊細な技だ。さらに移動となると使えるダルーナは少数で飛びながらそれらを同時に行うと難しさは倍増となる。自分も出来るが空飛ぶ物体ってどういう物なのだろうと頭の中で色々考えていた。
港に背を向け、次はどこへ向かうべきか考えていると、水煙と共に大きな爆発のような音がおきた。
クリーニ館。
アキアがソレルを抱えるようにして部屋へ連れて行き、寝台に横たわらせそのまま付き添っている。眠くないと言っていたソレルだがいつの間にか瞼は閉じていた。
リグ-メディーテの護衛達は割り当てられている部屋でそれぞれ休み、重症の彼だけは医療設備のある部屋へ。
護衛隊長が一人ひとり話を聞き、報告書をまとめる。大失態をしてしまった訳だが、彼らを責めるつもりはない。今回の護衛任務は始めから常と違うと感じていたからだ。同行は急に決まり、人員の確保も急だった。計画を練る時間もわずかなうえ、随行員もいつもより多い。可笑しな事だらけだが自分が責任をとれば良いだけだな、と報告書を読み返して最後に署名をする。その脳裏には命令を出したある人が浮かんでいた。
シャトウィルドとエギールは向かい合って座り、パルナで起こった出来事をもう一度話していた。
「パルナでなく、狙われたのはソレルで間違いないんだな?」
再び問うとエギールは頷いて
「間違いない。不明な部分が多いんだけど。あと検査結果は分かり次第僕のところにくるから、シャルにすぐ教えるよ」
「何の検査? それより俺の事シャルって呼ぶなよ。子供っぽいから」
非常に不快な顔でシャトウィルドは目の前の男を睨めつける。
「子供じゃないか、僕から見ればね。可愛い顔して怒らない」
エギールは面白そうに笑いながら言ったがすぐ真顔に戻る。
「検査は念の為。賊の一人は最後まで顔を隠したままだったし、爺さんは嫌な感じがしたってさ。そうそう、あいつらハルスト帰りだよ。爺さんがハルストから取り寄せたビシレーに乗ってたから。うまく乗りこなしててびっくりしたよ」
シャトウィルドは初めて聞く言葉に首を傾げた。ビシレーって何だ。
「ああビシレーってのはさ、ハルストで開発された乗り物で、前後に二つずつ浮遊の円盤がついてて、浮いて前進するんだよ。出力をいっぱいにすれば空にも舞い上がれるよ。空を飛んで移動だよ、凄いよね。凄い発明だよね」
エギールは大袈裟すぎるほどの興奮状態になって、自分が作ったのではないのに自慢げに話している。興味を持ったシャトウィルドは身を乗り出して、もっと聞こうと口を開きかけた瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。
扉を開けたのはアキア。普段の彼女では決して行わない不作法さで部屋へ入って来た。そして青ざめた顔をシャトウィルドへ向けて叫ぶ。
「大変です。ソレル様がいません」
「いないって、どういう事」
シャトウィルドは冷静に尋ねる。
「お休みになったので、起きたら何か召し上がりたいと思い厨房へ頼みに行って戻ったら、いないのです」
一気に話すアキアは平静を装おうとしている様だがどう見ても狼狽えている。こんな彼女を見るのは初めてだと思いながらシャトウィルドは入り口にある紐の一つを引く。
近くで控えていた護衛がすぐやって来る。シャトウィルドは護衛に館と庭にソレルがいないか探すように言った。シャトウィルドは館か庭にいるだろうと思っていた。人が来てもおかしくない噴水庭園へは行っていないだろうと。
思いがけず連れ去られそうになった事で昔の事を思い出して、落ち込んでの行動だろうと。一人になりたくなったのだろうと、そう思っていた。
いつもならそうだっただろう。
エギールの懐から小さな音が鳴り出した。
彼は慌てて手を突っ込んで中から四角い物を取り出した。蓋を開けると丸い透明なものが迫り出しそこから光が四方に伸びて一回りしてからゆっくりと戻る。彼は耳の後ろに付けている小さな受話装置を起動する。パルナ本邸からの追加報告だった。
シャトウィルドはその様子をじっとみていたが、アキアへ向くと安心するように言いながら一緒に探そうと促した。
二人が部屋を出ようとした時、噴水庭園の方から大きな音が響いた。
ソレルは誰かに呼ばれたような感じを受けて目覚めた。誰かは声でなく音で彼女を呼んでいるようで、耳から頭の中へ入り込み満たしていく。しだいに耳の周りが何かで覆われていくような感覚が起きて音ははっきりせず、他の生活音も聞こえなくなってきた。
誘われるように寝室から居間へ、さらに庭へ出た。そこは屋敷の庭で、ソレルは観光名所になっている噴水庭園へ下りていく。今日は観光客の受け入れを中止している為水音だけが響いている。
静かな中に不快な雑音が混じった音だけが頭の中に響いていた。
音に導かれてどこかへ歩いている、そこに彼女の意志はなかった。
クリーニ館の観光の目玉である大きな噴水まで来ると知らない人がいた。影のように見える衣を纏ったその人物は手に蓋の付いた筒を持ち、それをソレルへ向け小声で何か喋っている。向けられている筒には小さな光が一列に並び、順に点滅から点灯へ変わっていく。
「音から声へ・・・・声は深淵へ導き、沈黙へ・・・・・導く先は忘却の彼方・・・・・」
筒の光が全て点灯へ変わると声も止んだ。すると周りが明るくなり、目の前は鮮やかに色を帯びる。
ソレルはいつの間にか外へ出ている自分に驚き、辺りを見回した。寝間着の姿で裸足。何かが起きた、と瞬時に思う。そして目の前にいる謎の人物は衣の奥から自分を見つめている。唇の鮮やかな
「どなたですか?」
声をかけてみたが目の前の人は黙したまま。
女の人が
今や噴き出す水によって辺りは視界がぼやけている。
ソレルは連続して起こった出来事を前に理解が追いつかず、はじめ茫然としていたが次には慌てて声を張り上げた。
「誰か! 来て、水を止めて、早く! 誰か!」
ソレルを探す為に外へ出ていた護衛がいち早く異変に気づき駆けて来る。その間ソレルは水を止めようと生垣や噴水の周りで水栓を探す。
ソレルがうろうろと探している間に水が止められる。ほっとしたソレルは誰が止めてくれたのだろうと辺りを見回し、若い護衛が微笑んで彼女を見たので微笑み返した。
そこでこんな事をしでかした黒幕であろう女を睨んだ。
「あなたは誰? 不法侵入で捕らえますよ。申し開きがあれ───」
「お黙り」
被せるように言った言葉にソレルは口をつぐむ。急に言葉が出なくなってソレル自身が驚く。きっぱりと言うつもりだったのに何故か、声が出なかった。
まもなくシャトウィルドが護衛達を伴ってやって来てソレルを守るように広がった。
深く被った
庭園を壊して水浸しにした不審者に向かってシャトウィルドはソレルと同じ事を発している。すぐに捕らえろと命じてもおかしくない勢いだ。ソレルは護衛の一人に促されて館へ戻ろうと背を向けて歩き出したその時、
「お待ち」
と女が命じた。
ソレルは言われるがまま立ち止まる。それを見たシャトウィルドは早く行けと小声で促すがソレルの足は動かない。凍ったように立ちすくみ、彼女自身は足を動かそうと努力していた。
「こちらへ来なさい」
女が再び言うとソレルはそれに従いくるりと向いて声の方へ歩き出す。肩から外套が滑り落ちた。
「何やってる」
シャトウィルドの厳しいい問にもソレルは止まらず女の前へ。女は足下へ小振りの刃物を落とすと「取れ」と命じた。再びソレルが従うと。シャトウィルドはじめ護衛達はただ目の前で起こっている事を呆然と見つめるだけ。
女はさらに恐ろしい事を口にした。
「首へ当てなさい」
言われてソレルは刃物を拾って自分の首へ。自分でもどうしてこんな事をしているのか、何故女の言う事を素直に聞いているのか分からない。シャトウィルドが止めるように言いながら近づいて来る。しかしソレルが刃物を首に当てながら振り向くと立ち止まる。今にもその切っ先が押し込められそうで近づく事が憚られた。それよりもソレル自身がどうしてこんな事をしているのか不思議でならないという顔をしている。強張り、得体の知れぬ恐怖に包まれている様子にシャトウィルドは何も出来ずにいる。
「それを放せ」
ゆっくりと緊張した声音で言う。
「出来ないの。体が勝手に。何が起きたの? わた、し、どうしちゃったの?」
泣き出しそうな声で不安げな表情を向けて来る。
「助けてシャル、たす、け──(て)」
「沈黙せよ」
女の言葉にソレルの声から音が消える。目頭には涙が浮かんできていて、口は音を出す事なく空気を求めるように動いているだけ。ソレルは恐怖の表情を貼り付けたまま次には周りの音が聞こえなくなった。さらに大きく動揺して金切り声をあげるが誰にも聞こえない。静寂の中、ソレルは狼狽えて音のない声をあげ続け、シャトウィルド達は何が起きているのか理解出来ず、近づきたくても近寄れず立ち尽くすのみ。
やがて空からビシレーが二台下りて来て、女は
痩けた頬に短くした淡い金の髪、紅い唇の色が印象に残る中年の女だった。知らない、今まで会った事もない、とシャトウィルドは女を凝視しながら思った。
そして気付けばソレルはビシレーの方へ歩み寄り、後ろに乗り込んだ。慌ててシャトウィルドはソレルを連れ戻そうと走り出す。それに気付いた女が手に持つものをシャトウィルドに向けると彼は見えない壁に阻まれる。奇怪な事に見えない壁を叩くがびくともしない。今度は護衛達が剣を振り、突き刺して先へ進もうとするがやはり何事もなく、ソレルを乗せたビシレーは空へ舞い上がった。王女を奪われ残された者達は憤り、大声を上げる。同時に女もビシレーに乗り込むと空へ。あとにはソレルが持っていた刃物が残されていた。
どうして簡単に連れ去られたのか、というより何故彼女は女に従っていたのか、残された男達は空を、ソレルを乗せたビシレーの行方を見つめる。ただ立ち尽くして。
ロリイが高く上がる水柱を目標にして港から走って来たのはビシレーが見えなくなった頃。僅かに浮いて滑るように進むと実際に走るより格段に速い。<ルーシ>の消耗も少ない移動手段でダルーナが普段から使う方法だ。
ロリイは再びやって来たクリーニ館を前に驚きが隠せない。観光名所の庭は水浸しのうえ荒れている。あんなに綺麗な庭が、とロリイは思いながら知った顔を見つけて駆け寄る。
「ワインダーさん」
呼ばれてシャトウィルドは引きつった様な顔を向ける。ロリイを認めると何か閃いたのか、慌てていった。
「お前、いや。ダルーナ、グリン・ダルン。あなたに協力を頼みたい。正式に」
ロリイは急に言われて何の事か分からず無言で見返した。シャトウィルドは続けてロリイの力を借りるべく今起こった事を話し始めた。
しかし、ロリイの返事は単純だった。順序を無視して依頼を受けるダルーナはいない。それがどんな緊急事態でも。
いつもと違いすっかり冷静さを失ったシャトウィルドにそんな事は通じない。ロリイの目的のものを自分の責任において引き渡すとまで言ったのだ。
あれはすぐにでも取り戻したい。一瞬の考慮の後、それでも手順は必要だとロリイは答えた。それを聞いたシャトウィルドは呆れかえる。
「お前、本当にダルーナか? ダルーナに与えられている多くの権限は何の為だ。一刻も早く事態を収める為だろうが。今目の前で、お前の目の前であいつが連れ去られても、同じ事言えるのか? 手順を踏め? 今すぐ追うのが正解だろ」
図星をつかれて何も返せないロリイは口を真一文字に結び、苦悩の表情を浮かべる。彼の言う事は正しいのだから。
「落ち着きなよ。君がそんなだと
近づきながら同意を求めるように周りを見渡して彼を落ち着かせようとするエギール。シャトウィルドの隣に並ぶと労わるように背中を摩り、初めて会うロリイへ安心するように微笑む。
「僕だって、目の前であの子が連れ去られるの二回目だから、すごく怒ってるし、自分が情けないし、悔しいよ。君以上にね。だからさ、ここはウチも情報出すからみんなで迎えに行こうよ」
本来なら奪い返しに行こう、というべきところエギールはあえて迎えに、と言った。挑発的な言葉より気持ちが抑えられる事を期待しての言い方だった。
品のよい物腰のパルナの若君と評判の彼の柔らかな口調はシャトウィルドを落ち着かせる事に成功したようで、背中に回した手の平から彼の憤りは治まってきていると感じられた。
エギールは先程パルナから追加情報を得ている。黒幕である女の正体は不明なままだが、アンダステでは珍しいビシレーという目立つものを辿ってどこへ行くのかある程度目星がついていた。
「僕のところに有力な情報が来たんだよ。だから中へ入って、座って、これからどうするか策を練ろう。あなたも、来てもらえますか」
エギールはロリイを振り向いて尋ねる。急に自分に振られて驚くロリイだがここで知らんふりして立ち去る事など彼には出来なかった。意を決して頷き、館へ向かう一行の後ろについた。
ロリイがついて来たのを良い流れと思ったエギールは彼に小さな情報を与える事にした。
「今頃、パルナから正式な依頼がダルーナ本部へいっているから」
シャトウィルドは落ち着きを取り戻したものの、ロリイに対して言い過ぎたと反省し、エギールに仕切りを任せていた。
「さて、皆さん。パルナからの報告によると彼らの行き先はパテロ-ゼルダかパテロ-ゼイラーである、という事です。ビシレーの目撃情報はその間で多くあり、ハルストからのビシレー運搬記録にミレイシャ・ナル-ゼイラーの名がありました」
ゼルダとゼイラーの名が出て動揺の波が広がる。二つの国は彼らの故郷ガリアの隣国だから。
「待ってくれ。まだあの空域は混乱しているだろう。すぐには行けない」
思わず出たシャトウィルドの言葉に部屋中が静まり返る。混乱空域だからあの乗り物が有利だったのだ、と誰も口にはしなかったが皆が思っていた。
「そうなんだよね。だから今うちの自立航行船がこっちに向かってる。それに乗って行けばいいよ」
エギールの発言にシャトウィルドも護衛達も小さな希望を灯したように表情を明るくした。自立航行の技術を備えた乗り物を持つ国、または個人や企業などアンダステには僅かしかいない。先を見越した援助にパルナ万歳と心の中で叫んだ者もいたかもしれない。
「まだ目的が分からないんだよね。何の為にソレルを連れて行ったのか」
独り言のように言ったエギールの言葉の答えを持つ者はいなかった。
静まり返る部屋の中、ずっと気配を消していたロリイがすっと立ち上がり、シャトウィルドの前へ。
「僕も行きます」
その言葉を聞いた全員がロリイに注目する。
「あなたの言った事は正しい───と思います。手順は必要だし、正式な依頼も必要です。けれど、目の前で起こった事なら・・・・自分の正義に従うのが正しいと思います。だから、僕の必要なものを返して下さい。条件みたいになってしまって申し訳ないですが」
最後には恐縮してしまったロリイだが、シャトウィルドの返事に顔を綻ばせた。
もともとソレルの到着が遅れればそうするつもりだった。自分の権限でソレルの寝室の扉を開けて荷物に紛れた彼の物を返そうと。
エギールはシャトウィルドの隣に来て、二人は揃て若いダルーナに頭を下げた。
ゆるりと緊張感が薄れていく雰囲気が漂い始めた。これ程強力な味方はいないだろう。四大ダルーナの一人だし真面目で誠実な人柄だと思えた。エギールはシャトウィルドに向かって唇の端を上げた。
「それじゃ、うちの船が来るまで誰が行くか決めておこうか」
エギールが通信装置に視線を落としながら言った。船がどのあたりを進んでいるのか確認の為だ。あとどの位時間があるのか考えながら。
さりげなく言った事だが、全員で行けると思っていたようで、戸惑うシャトウィルドと護衛達は二の句が告げずにいる。
それを見たエギールは呆れ顔で続けて言う。
「まさか全員で行けると思ってたの? いくらなんでも無理でしょ。君達は船を動かせないんだから乗れるのは五人くらいだよ」
「五人?」
「精鋭を選抜するか・・・」
「絶対行きたい」
などと驚きながらそれぞれ言いたい事を言い始めた。その様子に大袈裟なため息をついてエギールはもう一度通信装置を確認すると、船とは別の一点がヴァラキア空域へ向かっているのが確認出来た。しかも船より速いような。それは何だろうと考えていたらある事に気付く。その点は小刻みに動いている。まさか、あの人も出て来たのか? あれに乗って。それなら自分のする事は決まっている。
エギールは顔を上げてシャトウィルド達に向かって言い放つ。
「僕は乗らない事にしたから僕の分一人多く乗れるよ」
彼らは一瞬喜んだがそれは彼が同行しないとう事なのか? 理由を尋ねようとシャトウィルドが口を開きかけた瞬間、扉の方から知らない声が響いた。
「ならばあたしがその席を頂きましょう」
少ししゃがれたよく通る声だった。
シャトウィルドには聞き覚えがなく、誰だろうと不思議に思い声の方を振り向く。それと対照的にリグ-メディーテの護衛達は直立不動の姿勢をとり緊張の面持ちで新たな人物を迎えた。
どちらかというと小柄で瑠璃色の動きやすい、
瑠璃色。ガリア王家の色。この色を着る事が出来るのは王族と特別に下賜された者だけ。
妙な緊張感を覚えたがシャトウィルドはその人物を出迎えるように進み出た。
「王女付きのワインダーです」
シャトウィルドはそう言うと、相手は冷やかすような目つきで口角を僅かに上げ、作られた仮面のような顔をして
「ええ、存じておりますよ。ワインダーの若きご当主殿」
と、どこか不快な感じを与える口調で返してきた。
若輩ゆえ他家の家長たちからそう呼ばれる事はまだなく、一族の者以外で当主と呼ばれる事がないので、改めてそう呼ばれるとこそばゆい。居心地の悪さを感じた瞬間だった。
「キッシア・エル-メディーテ。どうぞエル-メディーテと呼んで下さい」
彼女はそう言って目の前の若者に
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