2 楽園は滅びた

 ピグマが震えている。 

 ピグマはクレミスを覆う見えない壁、大気、光、あらゆるもの。クレミスに暮らす者にとって常に側にあるもの。あって当たり前のもの。何でも作れるピグマといわれる。目に見えないピグマが何故震えているのか、それはキリキリ、ごうごうと音を立てているからだ。今まで聞いた事のない耳障りな音。

 クレウ達は恐怖する。何かが起こっている。何かが分からず不安になる。

 クレウとはクレミスで生まれ育った人々をいい、高身長、逆三角形の体型で手足が細長い。さらに性別がなく、イゾを持っているという事が最大の特徴だろう。彼らはクレミス中心にあるアワンより生まれる。命の管理人が存在し、クレウ達を誕生させている。イゾは目に見えないもので体内にある。それが何の為のものか、それがある事でどんな効果があるのかクレウ達は知らない。


 ここに一人、ピグマの振動に動じないクレウがいる。名をアリネストといい、ピグマが破壊されると知っている。ピグマを壊すと伝えた者はハードゥア。ハードゥアはピグマの向こう側には広い世界があると考えている。それを証明する為の破壊だとアリネストに言っていた。

 アリネストは自分の学堂の生徒を集めて準備をしていた。ハードゥアはピグマが壊れたら外へ出る。それを追って行く為の準備だ。

 外へ出たハードゥアを追ってみんなを導くのがアリネストの役目。そう頼まれている。年長のクレウを中心に集まった生徒は十三人。年少のクレウはあとから来るべきと年長の生徒は主張するがアリネストは了承しない。年少のクレウこそ新世界をいち早く目にし、地に足をつける者だと説いた。

 こうしてアリネストと十三人の生徒──ゾラが、ハードゥアとその弟子──ダルを追ってクレミスを出る事になる。


 天頂のピグマが四方へ大きくひび割れ、縦に真っすぐ割れ始める。ついにピグマが壊れ、見えない壁が崩れ落ちた時─────


 ハードゥアが真っ先に外へ向かって飛び出し、四人のダルがあとに続いた。

 それを見たアリネストは

 「見よ! 破壊者が外へ出てゆく。我々も追おう!」

 と叫んだ。

 年長のゾラ達はときの声をあげ、アリネストの周りを固めると同時に彼らはクレミスの外へ飛び出した。

 空間が歪んで幾重にも折り重なったような不思議なところを通り、降り立った所はハルスト。ハードゥアと弟子達は見当たらない。彼らの痕跡を追ってプヨプヨ、ぐにゃぐにゃの大地をさらに進んで辿り着いた所がアンダステ。

 はたしてハードゥアと弟子達は。やはり見つからない。

 予定と違う事にアリネストは嫌な予感を感じる。アリネストはよく探すようゾラ達に伝えるが、ハードゥアどころか弟子達も見つからない。

 結局アリネストはハードゥアとの約束を守れず、アンダステに残る事になった。








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