予定通りアルバイターの使い捨て

ちびまるフォイ

スケジュールの人形

「あの、ネットの記事見て来たんですけど

 予定通りアルバイトってここであってますか?」


「ええ、あっていますよ。ご希望の〇〇さんですねお待ちしてました」


「で、その予定通りアルバイトって……」


「難しいことではないです。

 こちらが指定した予定通りに行動してもらうだけです」


「それだけすればお金がもらえる?」


「そのとおりです。簡単でしょう?

 もちろん、予定に従った結果に発生するお金は全部お支払いします。

 

 あなたはただ予定通りに行動するだけでお金がもらえちゃうんです!」


「ひとつ聞いていいです?」

「なんでしょう」


「これって誰が得をするんです?」


「そうですねぇ、たとえばカフェなんかを想像してください。

 からっぽのカフェと、人が入っているカフェ。

 どちらが入りたくなりますか?」


「人がいる方……ですかね。

 からっぽだと、開店してるのか不安になりますし」


「でしょう。そういうことですよ。

 この世の中には"人がいるように見せたい"と思う人がいくらでもいるんです」


「なるほど」


「予定のスケジュールはスマホにお送りします。

 あと、この薬も飲んでおいてください」


「薬?」

「栄養剤みたいなものです」


スマホを登録して薬を飲んだ。

スマホには早速スケジュールが送られてきた。



10:00:パチンコ店でA12の台を打つ

12:00:かき氷専門店でブルーハワイを食べる

13:00:××公園で、BBさんと話をする

15:00:△△商店街で服を買う


「結構いっぱい予定あるんだな……」


スケジュールに従い、まずはパチンコ店へ向かった。

パチンコなんてやったこともない。


隣の人をチラチラみながら打ち方を学んでいく。

パチンコの技術なんてないのですぐに打ち尽くしてしまった。


「終わっちゃった。まあいいか。

 バイトで発生する出費はぜんぶバイト元が払ってくれるし」


移動にかかる交通費はもとい、

食事代や衣服の購入代、はてはパチンコ代まで肩代わりしてくれる。


予定通りに行動すれば、その途中経費はゼロで、お金だけがもらえる。


仕事を覚える必要もなく。

額に汗して働く必要もない。


こんなに美味しいバイトは他にないだろう。


「っと、次はかき氷を食べに行かなくっちゃ」


その日は対して暑くもないので

かき氷はあまり食べたくはなかった。


予定に逆らうことはバイト失敗を意味するので、

マンゴーやらメロンソースに後ろ髪引かれながらもブルーハワイを食べきった。


「えっと……次は公園で、BBって人と話さないと……!」


公園に向かい、面識のないBBさんと当たり障りのない会話をした。

いったいこんな行動で誰が得をするんだと疑問しかわかない。


「まあでも……話し相手欲しさにコンビニへいく人もいるって聞いたことあるし……そういうものなのかな」


その後も予定通りに着々とスケジュールをこなしていった。

すべての予定をちゃんと達成できたのでお金がふりこまれた。


金額を見て目をうたがった。


「す、すごい! ただ予定に従っただけなのにこんなに!?

 これ普通に仕事するよりもずっといいじゃん!」


最初は予定のない土日の消化手段としてはじめたバイトだったが、

金額に目がくらんでその翌日勤務先に辞表を叩きつけて、バイト一本にしぼった。



「さあ、今日も予定通りすごすぞーー!!」



バイトを始めてから1ヶ月もすると、

指定されたスケジュールどおりに従うことに慣れてしまった。


最初こそ「なんでこんなことする必要が?」などと疑問を感じていたが、

いまとなってはそんな疑問を持つことすらない。


人の金でスケジュールみっちりの密度の濃い1日を過ごせたうえ、

さらにお金までもらえちゃうんだから最高だ。


「うーーん。ここと、ここの予定……ちょっと空き時間多いなあ。

 そうだ! 別の予定を追加もらおう!」


最初に与えられたスケジュールが物足りなければ、

さらに自分で追い予定を入れてますます予定を埋めに埋め続けた。


ぎっちぎちで、動きずくめのスケジュールをこなすこと数日。



案の定、体を壊してしまった。



「げほげほっ……ああ、体だるい……」


目が覚めた段階で今日1日まともに動けないことを悟った。

けれど、スマホには予定されていた今日のスケジュールが届く。


数日前の元気な自分が調子に乗って詰め込んだスケジュールだった。


こんな体調でこなすにはあまりに無理がある。


「今日は無理だ……。バイトを休ませてもらおう。

 ……あ、でもどうやって休みにしてもらうんだっけ?」


いろいろ調べてもわからなくなり、

そのうち体のダルさに負けて眠ろうとしたときだった。



頭までかぶった布団を自分ではねのけ、ベッドから体が強引に引きずり出される。

他ならぬ自分の手によって。


「な、なんだ!? 体が勝手に!?」


体の自由が効かない。

まるで自分の体じゃないようだ。


体は当初の予定通り、市民プールへと向かわせた。


「うそだろ……まさか、これに入るつもりか……!?」


プールに入る前なのに体は寒気がしている。

しかし、体は脳の制止をふりきりプールへと飛び込んだ。


予定通り、2時間もの遊泳を捺せられた結果、体調はますます激悪化。


体はそんなこともお構いなしに次のスケジュールへと動く。


「つ、つぎは……高級レストランでフレンチ……!?」


予定通り、高層ビルの屋上にあるレストランへ向かう。

出された料理は厚みのあるステーキ肉だった。


およそ病人に出しちゃいけない料理ワースト1に輝くであろうラインナップ。


「ひい……今はもっと胃にやさしいもの……んぐぐっ!?」


いくら抵抗しても体は容赦なく肉を口に突っ込んだ。

口は自動で動き、食事を胃に放り込んでいく。


「た、助けて!! なんで体の自由がきかないんだ!」


必死に原因を突き止めようと記憶の箱がひっくり返された。

そして、思い当たるのはひとつしかなかった。


バイトを始めるときに飲んだ怪しげな薬。


これまでは自主的にバイトの予定に従って行動していたので気づかなかった。

きっとあの薬は予定に従わない場合、強制的に体を動かすようにできているのだろう。


この先も予定はびっしりと決まっている。


「い……いやだ……もう予定になんか従いたくない!」


必死に自動で動く体を抑えようとするが、

抵抗のかいもなく体は予定通り指定の電車にのって目的に向かう。


これだけ体調が悪いのにこれからサウナへ行かされる。


「もういやだ……予定なんかこりごりだ……」


うつむきながら電車に揺られているときだった。

隣の車両から悲鳴が聞こえた。


別の車両から刃物を持った男がこちらへ向かってくる。


「解放……これで解放される……!」


ぶつぶつなにか言っている。

体を動かそうにも体調不良で動けない。


刃物男は座席にひとり取り残された自分を見て、

やっと見つけた獲物だとばかりに微笑んだ。


「これで解放されるーー!!」


「うあああ! や、やめろぉぉーー!!」


刃物は急所に突き刺さり、

あれだけ予定通り行動させていた体を黙らせた。


「こ、こんなの……予定にないよ……」


床に広がる自分の血を見ながら、踏んだり蹴ったりだった自分の人生をただ思い出していた。



その後、電車で人を殺めた刃物男は逮捕された。



もちろん重罪となったわけだが、犯行動機は意味不明だった。



「もうスケジュールの奴隷になりたくなかっただけだ!!

 牢屋に入りさえすれば、もう予定に従わされることもない!! 僕は自由だ!!」



男は牢屋から出れなくなると、なぜか非常に喜んでいたという。

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