わたし、昼間は『中央情報局長官』になります。

齋藤 龍彦

序(女?)編

第1話【『29』だとこう決断してしまう】

 むふふ、うふふふふ————


「せっくす♪ せっくす♫ ららら〜♬」


 傍らで顔を歪めているケィちゃん。割と端正なのに台無しよ。それに少し紅い。しばらく温和しくしているけどぉ、そろそろかなぁ——


「妃殿下、もう少しお立場というものを、」

 キタキタ、

「はい。そこまでっ。」

 ふふっ、〝妃殿下〟って呼ばれるの、なんかイイよね。〝尊い感〟があって。わたしが〝妃殿下〟と呼ばれる以上〝わたしの嫁ぎ先〟は『王室』。このわたしが王室メンバーの一員になっている。ケィちゃんはまだなにか言いたそうだけど〝身分差〟がそれを邪魔してる。ごめんね〜。

「——コノことばの意味はこの世界ではケィちゃん、あなたしか知らない言わば〝隠語〟なんだからね、そこに反応しちゃうってコトはぁ……」

「おやめください! はしたないです」

「あら。はしたなくはないわ。結婚相手との性交渉は尊くて神聖。そしてこれは目的を遂げるため避けては通れぬ道。この行為は義務でさえあるわ」

「それはその通りです。でもどんな〝感じ〟になるか、〝ご経験〟をわたしにしてくださらなくてけっこうです」とケィちゃんはぴしゃり。ふふっ、少し怒っても〝下〟はもう湿原になってるよね♪


 わたしが〝ケィちゃん〟と呼ぶこのコ、本名は『ケィト・タロット』。だから強引に〝ケィちゃん〟と呼ぶことにした。そのお仕事はわたしのお世話係。と言っちゃうとわたしがペットかなにかっぽいか、でもまあいい。

 もちろん名前からしてふつうに日本人じゃないし、もちろんわたしが個人的に雇ったわけでもない。〝わたしの嫁ぎ先〟がこのわたしのために専属でつけてくれたコ。普通のヒトじゃこういうコは金銭的に雇えない。そう、もうわたしは普通ではなくなり、いまやケィちゃんが言ってくれたとおりの人、〝妃殿下〟だ。


 だけどもちのろんで日本中がわたしを祝福してくれるということは無い。なにせ『室』で『皇室』じゃないから。とは言ったけどもまだ続きがある。ここはヨーロッパでもなんでもなく、そうっ! いまわたしがいるのはかの〝異世界〟だ! いわゆる『異世界』という場所だ。そこのとある王国から選ばれ婚姻を申し込まれた。形の上では外国王室との婚姻になるけど、そう言えばいまのわたしの国籍ってどうなっているのかしら?

 でも〝王室メンバーの一員になっちゃった〟の方はオマケみたいなもので、重要なのは、それも努力も無しに結婚の方から転がりこんできたこと。

 わたし29歳なんだけどね。これラッキーこれギリギリセーフっ!


 しかしなんだよね、〝ラッキー〟だの〝セーフ〟だの言えば簡単に聞こえるけど、よくわたしも決断したと思うよ。お相手が王子さま、いえ王太子殿下ともなると『試しにつき合ってから決めましょう』などという道は最初から存在しない。

 しかし29歳とは恐ろしいもの。試しに三年つき合ってリリースされちゃったらたまったもんじゃない。そのときわたしが台所の刺身包丁を持ち出さない自信があるかというと、じぶんでも確証が持てない。だからこれでいいのだと、妙に肝が据わってしまった。これが29歳の業というもの。多少の紆余曲折、かくかくしかじかは経たけれど、かくしてわたしは誰にも相談せずに単独で決断してしまった。

「行きましょう」と。


 そうしてわたしの〝マイ夫〟と初対面を果たし、つつがなく『結婚式』という儀式を終えた。


 肝心要はここから。王室というところは当然〝跡継ぎ〟が必要なわけで、わたしが〝せっくす〟に溺れようと、それはと、周囲はそう見なしてくれる。それにわたしも29だから少し急がないとだし。


 せっくす、せっくす、せっくす、なんて素晴らしいのかしら! この満足感・幸福感・気持ちの良さ! 29まで処女だったのに。この変わりように自分でも驚いている。

 もうわたしは処女じゃないっ、だって結婚してるんだから。かなりギリギリだったけど20代のうちに目標は達成できた。棚ぼたなんだけど。でもばんざーいっ!

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