第81話 ルクゼック商会

 もう少しで冬が終わりそうだ。


 気温も少しずつ上昇しており、今は十度くらいの気温じゃないかしらね?


「魔道具を作る冬だったわね」


 紐を強化するもの。マッチを作るもの。松明大のマッチを作るもの。あと細々としたものを作り、バイバナル商会に渡したわ。


 まあ、永遠に動くものではないからね。五、六個ずつ作ったわ。


 かなりのお金を支払ってもらったけど、今のわたしたちに使う当てはない。なので、バイバナル商会に預かってもらうことにしたわ。バイバナル商会は王国に支店がいくつかあるからね。そこでもらうほうが安全だわ。


 今年は雪が多い冬だったけど、昼には解けることが多かったので、民宿の経営に支障が出ることもなかった。今も泊まりに来ている人は続いているわ。


「工房も出来てきたわね」


 別にここに造らなくてもいいんじゃない? って思いはあるけど、お金を出しているのはバイバナル商会。わたしが口を出すことじゃない。損にならないことを願っているわ。


「キャロ。服が小さくなった」


 それは服が小さくなったんじゃなくてティナが成長したのよ。


 わたしと一歳しか違わないのに背は十五センチくらい違っている。今年で十二歳になるのに百五十センチくらいはあるんじゃないかしら? まあ、毎日たくさん食べているしね。そりゃ育つか……。


「じゃあ、布を買いに行きましょうか」


 わたしはまだ大丈夫だけど、確実に成長している。大きくなる前に普段着を作っておきますか。


 民宿に食料を運んで来た馬車に乗せてもらい山を下り、実家に一泊(もちろん、手伝わされたけどね)。朝からバイバナル商会に向かった。


 バイバナル商会は基本、何でも屋だ。食料品や生活用品、豚や山羊までいろいろ扱っている。けど、布や服は少ない。隣のルクゼック商会が大手なんだってさ。


 バイバナル商会に大変お世話になっているからマルケルさんに話を通してもらった。


 ルクゼック商会も本店は王都にあり、店はたくさんの服が並んでいた。


 わたしは服や下着は自分で作っていたので表を見るだけだったけど、こんなにあるとは思わなかった。


 まあ、既製品なんてない時代だからすべてが手作りで、微妙にサイズが違う。そこはお店で直してくれるそうだ。


 民族衣裳的なものはない。ただ、大体が似たようなものが多いわね。色合いも少ない。染物の技術はないのかしら? てか、白色のものはないわね。黄ばんだものが多いわ……。


「これはマルケルさん。どうしました?」


 隣だけあって顔見知りになっているよね。


「はい。今日はこちらの子たちが布が欲しいと言うので連れて来ました。見せてもらってもよろしいですか?」


 と、わたしたちに目を向けた。


「この子たちですか。バイバナル商会が飛躍している要因は」


 飛躍? バイバナル商会、飛躍してるの? かなり大きい商会なのに?


「はい。この二人のお陰で繁盛しております」


「世の中には天才はいるのですね。我が商会もあやかりたいものです」


「それはこの二人が興味を持てばあやかれるかもしれませんね。バイバナル商会としても振り回されてばかりですから」


 わたしたち、振り回してたんだ。そんな慌てた姿見てないけど。


「そうみたいですね。いろんなところからウワサが回ってきますよ」


「情けないばかりです。もっと滞らずにやりたいのに、こうしてウワサが回ってしまうのですから」


「紐を強化する魔道具、あれはいいですね。糸にも応用できるので本店からどうにか手に入らないかと催促されてますよ」


「正直、あれが売れるとは思いませんでした。やはり本職の方でないと価値がわからないものですね」


 あれ、売れてるんだ。魔石がないから作れないでいるけど。


「確かにそうですね。あれにら他のところでも欲しがると思いますよ」


「魔石が手に入ればいいのですが、こればかりはなんとも……」 


「コルディーにはバッテリーという魔力を溜めるものがあるそうですよ」


 バッテリー? って、あのバッテリーのこと? ライターといい、やはりわたし以外にも転生している人がいるってことだ。ここまで元の世界の名前が偶然出て来るってことはないもの……。


「……バッテリーか……」


 ってことは魔力は溜められるってことだ。いったい何に溜めているのかしら? これまでの経験から木でも金属でも溜めようと思えば溜められてたけど。


「キャロ」


 あ、そうだった! 今日は布を買いに来たんだった! バッテリーのことはあとにしておきましょう。


「新品の布と羊毛糸、羊毛布、各種生地をください。あと、針と糸もお願いします」


「代金はバイバナル商会が持つので好きなだけ買っていいですよ」


 お、それなら遠慮なく買って行こうっと。


 店内を見て回っていたら針金が売っていた。この時代、針金なんてあったのね。


「この金属の細い棒、何に使うんですか?」


「手袋の甲に使ったり膝や肘の守りに使ったりします」


 ガード目的か。これならブラの針金に使えそうだわ。ティナ、Cくらいになたなっているからね。


「こんなものかしらね。マルケルさんお願いします」


 銀貨五枚になったけど、いい買い物が出来たのでオッケーだ。

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