第57話 ピザ

「お酒のことはティナに聞いてください。わたしは、山羊の小屋を作るんで」


 鉈を持って山に入った。


 本格的な小屋はさすがに作れないので、手頃な木を伐って来て簡単な小屋を作るとしましょう。あとはルルに結界を張ってもらえば狼が来ても問題ないわ。


 お昼まで手頃な木を伐ってティナに運んでもらった。


「凄いな。身体強化って」


 とても十歳の女の子に運べそうもない木を両肩に担ぐティナにローダルさんが驚いていた。


 まあ、無理もない。身体強化にもほどがあるんだからね。


「おれも手伝おうか?」


「大丈夫ですよ。夕方には完成させるので」


 完成図は頭の中に入ってある。ティナはそんなわたしの指示に応えてくれる。他の人が入るほうが手間だわ。


 見立てとおり、夕方には山羊の小屋が完成。とりあえず今日は落ち葉を敷いて山羊を小屋に入れたい。


「藁をもらってこないとね」


 安心して眠れる場所があったほうがいい乳を出してくれるでしょうからね。


「ローダルさん。明日、村まで連れてってください。藁を運びたいので」


 まだ帰る様子がないので藁運びをお願いした。


「ああ、構わないぞ。泊まらしてもらっている礼はするよ」


「じゃあ、今日の夜はとっておきのを出しますね」


 山の家には窯があり、そこでパンを焼いていたそうだ。この窯なら本当のピザを焼けるはずだわ。まあ、トマトがないので似た野菜で代用するんだけどね。


「ほー。それは楽しみだ」


「にゃ~」


 ってルル、いたんかぁーい! まあ、いいけどさ。


 手を洗い、小麦粉を練って平らにし、トマトの代用品、ルシカって酸味のある野菜だ。緑色だけど、誰もピザを知らないのだからケセラセラよ。ケセラセラがなんなのか知らないけど。おばあちゃんが言ってたから頭に残っているのよね。


 生地を寝かしている間にルシカを刻んでマー油と塩を少々入れて棒で潰す。あとは腸詰めを適当に切り、チーズを切る。


「ティナ。窯はどぉう?」


「いい感じに火が回っている」


「強めにお願いね」


 寝かせた生地を平らにしてルシカを塗り、腸詰めをばら撒いてチーズを乗せる。


「ヘラが必要だったわね」


 まあ、鉈があるからこれでいっか。


「ルル。お願い」


 しゃがんでこそっとお願いすると、理解したルルが鉈に結界を施してくれ、ヘラにしてくれた。察しがいい猫だよ。


 熱々の窯にピザを入れ、焼き上がるのを待った。


「いい匂いだ」


 待ってればいいのにローダルさんもルルも窯の前から動こうとしなかった。ちょっと邪魔なんですけど。


 二十分くらいでいい感じに焼けてきた。チーズがぷくぷく言ってるし、こんなものかしら?


 失敗したら次に活かせばいいと、窯からピザを取り出した。いい匂い。


「盆も欲しいわね」


 そのまま置くのには抵抗があるけど、結界が盆になっていると自分に言い聞かせ、家のテーブルまで運んだ。


 包丁で四等分に切り分け、お皿に乗せてあげた。


「はい、召し上がれ。熱いから気をつけてね」


 何てわたしの注意など耳に届いてないとばかりにアチアチ言いながらピザを食べる二人と一匹。これは一つじゃ足りないみたいね。


「もう一枚焼くからわたしの分も食べていいわよ」


 わたしはハンバーガーでも食べるとしましょう。今回はそこまで自信作ってわけじゃないしね。どうせなら自信作を食べるとしましょうか。


「何か足りないのよね~」


 前世でピザを食べた記憶はあるけど、小さい頃過ぎて味が思い出せない。でも、何か違うのよね~。トマトじゃないからダメなのかしら? 二人と一匹を見たら美味しく出来上がっているみたいだけどさ。


「お母ちゃんに作ってもらうか」


 わたしにお母ちゃん並みの料理センスはないっぽい。どこをどう変えていいんだか考えもつかないわ。


 同じように具を乗せ、同じように焼いてみる。やはり、何か違うな~って思いが出て仕方がなかった。


「こんなに美味いのに何が不満なんだ? これは革命的美味さだぞ」


 革命的って、大袈裟でしょ。いや、この時代の食を考えたら納得もいくセリフだけどさ。


「わたしもよくわからないんですよね。もっと美味しく出来るはずなんですけど……」


「これ以上美味くなるものなのか?」


「料理に到着点はありませんよ。どこまでも美味しいを求めるのが料理です」


 いやまあ、そこまで突き詰める気はないんだけど、もっと美味しくなるなら妥協はしたくないわ。


「キャロは拘り強すぎ」


「そうだな。だが、それもいいだろう。もっと美味いものが食えるなら」


「にゃ~」


 ルルさん。それじゃ、人の言葉がわかっていると勘づかれますよ。いいんですか?


「なあ。これ、他のヤツに教えても構わないか?」


「構いませんよ。好きに教えてもらっても」


 わたしが考案したものでもなければ元祖や初代をを名乗りたいわけでもない。広まるならご勝手に、だ。


「ただ、コンミンド発祥にはしてくださいね。人気になればコンミンドの名も広まるでしょうから」


 お嬢様の応援になるかわからないけど、少しでもお嬢様の力となれたら嬉しいわ。


「ああ。それは約束するよ」


 なら、あとはローダルさんにお任せ。わたしは納得出来るピザを目指すとしましょうかね。

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