第53話 冬が終わりて

 あっと言う間に冬が過ぎてしまった。


 やることが多いと時間ってこんなに早く過ぎるものなのね。病室では一日が永遠にも感じたのに、気が付いたら雪が解ける季節になっていたわ。


 思い返せばいろんなことをやったのに、場面場面しか思い出せない。わたし、本当に起きてた? 病室で夢でも見てたのかしら?


「キャロ。ぼうっとしてないで行くよ」


 バン! とティナに背中を叩かれて我を取り戻した。


「あ、うん、わかった」


 屋台組の馬車に乗ってお城に向かった。


 冬の間、お城には何度も行って料理を作ったりマリー様から勉強を見てもらった。お嬢様への手紙も何枚も書いたわ。ただ、あちらは忙しそうで二通しか届かなかったけどね。


 でも、元気にやっているそうで、わしたちからの手紙にはとても喜んでいてくれたわ。


 お城に着いたらもう馴染みとなった門番にお裾分け。身体検査も何もなくお城に入れてくれたわ。


「マリー様。これをお嬢様に渡してください。わたしが作ったポーチです。あと、これはマリー様に。エプロンの下に付けてください」


「これは?」


「わたしの固有魔法で作った魔法の収納袋です。樽四つくらいの容量があります」


「固有魔法? あなた、そんな魔法が使えたの?」


「はい。これは可能な限り内緒でお願いします。お嬢様に渡すポーチにはたくさん食べ物やわたしが考えた道具を入れてありますので」


 マリー様なら言っても大丈夫と、わたしの固有魔法が付与魔法であることを語った。


「そんな重要なことをわたしに言ったりしていいの?」


「マリー様は、お嬢様を大切にしておりますからね。お嬢様が不利になるようなことは致しません。短い間でしたが、マリー様がお嬢様をどう思っているかわかりました」


 さすがに心情まではわからないけど、お嬢様を大切に思っていることに間違いはない。お嬢様が不利になるようなこともしないわ。


「……そう。あなたの魔法のことは黙っているわ。約束します」


「ありがとうございます。何かわたしに出来ることがあったら声を掛けてください。十三歳になったら冒険者の修業として王都に向かいます。バイバナル商会の本店にご連絡ください。すぐに駆け付けますので」


 バイバナル商会の本店は王都にある。コンミンド伯爵様の御用聞き商会。手紙を出すことも簡単でしょうよ。


「ええ。何かあればあなたたちを頼ることにしましょう。ありがとう」


「いえいえ。お嬢様やマリー様には恩しかありません。これで少しでも返せたのなら幸いです」


 本当にたくさん教えてもらった。お嬢様のお友達係になれなければ自分の固有魔法にも気付けなかったし、世間のことを知るまで時間が掛かったでしょうよ。


「あなたたちのがんばったからよ。お嬢様に必ず届けます」


「はい。また会える日を楽しみにしております」


「ええ、これは少ないけど、持って行きなさい」


 と、銀貨を五枚も渡された。


「こ、こんなにですか!?」


 金貨一枚は十万円くらいの価値がある。それだけの価値があるから大きなお店でしか使えないものだ。


「持っておきなさい。あなたがくれたものはそれだけ価値のあるものなんですから。その固有魔法は隠しなさい。それか、別の魔法を使えることにしなさい。信じられる者にしかしゃべってはダメよ」


「はい。わかりました」


 わたしの固有魔法はそれだけのものだとマリー様も思ったのでしょう。その忠告はありがたく受けておくべきだわ。


 もうお城に来るのも少なくなるでしょうが、屋台は商売に来れる。そう悲観することもないと、歩いて家に帰った。


 冬の間も建物造りは続いていたので、今では立派な建物が建てられており、他の村から人がやって来るようになった。


「泊まるところも必要になりますね」


「そうですね。儲けた冒険者も来るようになりましたからね。でも、そうなると日帰り宿屋ではなくなりますね」


「じゃあ、泊まれるようになったら保養宿屋か娯楽宿屋に変えますか」


 スパリゾートって言ってもわかんないだろうしね。


「保養宿屋か娯楽宿屋ですか。それはいいですね。今度、ローダルさんと相談してみますよ」


 一応、ここの代表はお母ちゃんであり、わたしたちは手伝いとしている。お金ももらってない。故に、最終決断はお母ちゃん、マイゼンさん、ローダルさんで決めてもらうようにしているのだ。


「わたしたちは冒険者の修業をしたりしますね。十三歳になったら王都を目指したいので」


「ええ。人も育ってきたので冒険者修業に力を入れてください」


 そうなると修業する拠点が欲しいわね。どこにしようかしら?


「ボクが住んでたところはどう? 魔物は出るけど、ボクたちなら問題ないと思う。家は朽ちていると思うけど」


 なるほど。ティナが住んでいたところか。そう遠くもないし、いいかもしれないわね。


「じゃあ、まずはどうなっているか見に行こうか。そうすれば必要なものもわかるしね」


 もしかしたら魔物に壊されているかもしれない。住むかどうかはそれから決めるとしましょうか。


「わかった。水と薪はあると思うけど、今の季節だと食料は持って行ったほうがいいかも」


「となると、万が一を考えて五日分の食料を持って行きましょうか」


 わたしたちの初冒険。いや、ティナにしたら帰郷だけど、まあ、初めての冒険として、夜遅くまで計画を立てるのであった。

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