第40話 紅茶(味はコーヒー)

 お嬢様が朝食から戻って来たら欲張り猫を抱いた。


「この子はルルよ」


「にゃにゃー」


 よろしくとばかりに鳴くニャンコ。この子、やけに人間臭くない? ファンタジーな世界の猫は知能が高いの?


 抱えていたルルを床に下ろすと、窓際にあるソファーに向かい、丸まって眠ってしった。ほんと、自由よね。


「おはようございます」


 と、ナタリア婦人が入って来た。


 家庭教師のナタリア婦人もここに住み、礼儀作法も教えているようで、伯爵一家の食卓も一緒にするそうだ。


 今日は文字の練習なようで、わら半紙みたいな紙に羽根ペンで見本を見ながら書いていく。


 ……書き難いわね……。


 テーブルは高級なものなんでしょうけど、長年使っているから凹凸が出来ている。


「どうしました、キャロル?」


「あ、ナタリア婦人。薄いガラスってありますか?」


 この時代、ガラスが普通にあり、至るところに使われている。完全に透明なガラスが作れるとか技術がアンバランスよね。


「ガラス? どうするの?」


「紙の下に敷こうかと。それなら書きやすいと思いました」


 プラスチックがないならガラスを下敷きにするとしましょう。あれば、だけどさ。


「それ、いいわね。わたしも書き難かったのよね。ナタリア婦人、どうかしら?」


「わかりました。用意してみましょう」


 そう言うと席を立ち、部屋を出て行った。なかなかフットワークの軽い家庭教師だこと。


 しばらくして側仕えの方々がガラス板を四枚を持って来てテーブルに置いた。


 わら半紙を乗せ、すらすらと書いてみる。うん。いいじゃない。


「とっても書きやすいわ」


 お嬢様にも好評のようだ。


「こんな簡単なことに気付かないなんて」


 ナタリア婦人も書きやすくなったことに驚き、今まで気付かなかったことにショックを受けていた。


 それ以上、余計なことは言わず、文字の書き取りを続けた。


 十時くらいになり、またお茶の時間となり、砂糖と羊乳が用意されて出て来た。


 コーヒーや紅茶なんて淹れたときなんてないけど、まったく知識がないわけじゃないし、側仕えの方が淹れてくれるので、ちょっと黒めの砂糖を二杯と羊乳をカップ半分入れた。


 まずはわたしが試飲。側仕えの方にも飲んでもらい、美味しいとの評価を得た。


 ナタリア婦人にも飲んでもらい、合格が出たらお嬢様に出した。


「これなら何杯でも飲めるわ」


 何杯も飲むものではないけど、あんな苦いものを飲まされていたら劇的に変わった紅茶、ミルクティー(味はカフェオレだけど)ならちょくちょく飲みたいわね。


「お茶菓子も欲しいですね」


 お茶菓子文化がないのか、ただ紅茶を飲むだけだった。


「お菓子? キャロルはお菓子も作れるの?」


「簡単なものでしたら」


 前世でも作ったことはないけど、クッキーなら見よう見真似で作れるはず。そこそこのものは出来るはずだわ。


「じゃあ、作ってもらおうかな。キャロルの作るものは美味しいからね」


「畏まりました。ナタリア婦人。時間を決めてください」


 わたしたちに拒否権はない。なので、上位者であるお嬢様のパスを決定権のあるナタリア婦人に回した。


「……わかりました。まずは厨房と相談して、許可が出たら時間を決めます」


「畏まりました」


 伯爵家の厨房なら見たこともない調味料を見ることが出来る。チャンスと思って料理人さんたちと仲良くなっておこうっと。


 書き取り練習が終われば座学となった。


 今日は領内の地理のようで、地図を見ながら各村の位置や特徴などを語ってくれた。


 そう細かくではないけど、コンミンド伯爵家はそこそこ豊かな領地であることがわかった。


 七つの村が集まる領地だから小規模かと思ったけど、気候と川が多くあるそうで、他が日照りで飢饉に陥ったときでもコンミンド伯爵領だけはそこまで危機に陥ることはなかったそうだ。


 そのときのにかなりの財を稼げたようで、三つの村しかなかったのに、財を使って七つまで広めたんだってさ。


 昔の伯爵様はやり手だったようね。それから農業に力を入れてきてたくさんいる伯爵の中でも上位には入っているんだってさ。


 それなら王都にいたほうがいいんじゃない? とか思ったら、学園に入るまでは領地で過ごすのが一般的なんだとか。いろいろあるもなのね。


 お昼になり座学は終わり。マリー様が入って来てお嬢様を食堂に連れて行った。


「午後は踊りの練習を行います。いずれあなたたちにも覚えてもらうのでお嬢様の動きをよく見ておきなさい」


 踊り? ダンスってこと?


「ティナは、背があるから男役を覚えてもらうけど、女役の踊りも覚えてもらうわ」


「「畏まりました」」


 これも承諾するしかないので、素直に答えておいた。


 側使いの方と食堂に向かい、料理を配ってもらったらパンに野菜スープ、そして、ソーセージが二つプラスされていた。


「料理がショボすぎる」 


「そう言わないの。夜までがんばって」


 と言いながらもわたしも飽きてしまっている、ダメなほうに人間らしくなっているわ……。


「厨房に入れるようになったらちょっとずつメニューを増やして行くから今はがまんよ」


 わたしもこれが毎日続くのは辛すぎる。美味しいものを食べてこそ人生だわ。


「わかった」


 側使いの方の後に続いて食堂に向かった。

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