第29話 商売

 芋餅が大人気だった。


 いつものようにお城に向かい、昨日の兵士さんがいたので芋餅を出そうとしたら他の兵士さんも買いたいと言ってきた。


 まあ、芋餅はたくさんある。好きなだけ買っちゃってくださいな! と、朝に売ったら昼にまた売ってくれと兵士さんがやって来た。


 まだまだ芋餅はあるけど、鞄のことは秘密。でも、このウェーブに乗らないのはもったいないわ。なくなる前に鞄をティナに渡し、ゴニョゴニョと作戦を伝えた。


「わかった」


 ガッテン! とばかりに走って行った。


「知り合いが屋台をやっているのですぐ新しいのを持って来ますね!」


 そう言って出した分の芋餅を焚き火で温め直した。


 三十分くらいしてティナが帰還。兵士、どんだけいんねん! ってくらい集まって来ているのを捌いてたら草むしりの時間を過ぎていた。


「どうしよう。草むしりできないよ」


 兵士が途切れたら一般の人も集まり出して来た。なんでよ!?


「今日はいいから芋餅が尽きるまで売れ。草むしりはいつでも出来るからな」


 案外緩いようで草むしりは延期ってことにしてくれた。


 まあ、芋餅が無限にあるわけでもなし。一時間くらいで完売した。


「すみません。明日も開きますんで、今日はこれで終わりです」


 いや、こんだけある不思議を誰も突っ込まないんかい! とは思うけど、この盛り上がった状況では突っ込むもないか。落ち着いて突っ込まれる前に退散することにした。


「この売上、領主様にいくらか払ったほうがいいんですかね?」


 ショバ代とかメカジメ料とか。なんかそう言うの、払う必要があるんじゃないの?


「そうだな。まあ、ここで商売するには取引札が必要なんだが、お前さんたちは冒険者見習い前。ここに出入りするのは許されている。商売してダメって決まりもない。構わんだろう」


 取引札?


「あ、これ、バイバナル商会の取引札です」


「ど、どうしたんだ、それ?」


「ローダルって行商人さんにもらいました」


「ローダル? あ、ああ、そうか。お嬢様の勉強相手が来るとは聞いていたかま、お前さんか」


「はい。お城がどんなところか見に来るついでに冒険者に仮登録しようと思ったんです」


「なるほど。ローダルさんが選んだだけはあるか」


 ローダルさん? 兵士さんより上の立場なの、ローダルさんって。言葉に敬意を感じるわ。あの人、本当に何者なの?


「まあ、明日も頼むわ。他の屋台は飽きたしな、美味いものが食えるなら大歓迎だ」


 兵士さんがそう言うなら明日も稼がせてもらうとしましょうか。これが知られても伯爵様が怒ることはないでしょうよ。冒険者の仮登録にお城の仕事をさせようって人だしね。


 明日の用意のために今日は終わり。明日ためにも用意しなくちゃならないわ。


「ティナ。押し車を買うわ。荷物を載せるヤツ」


「儲けたお金で買える?」


「そこは交渉次第ね。こっちにはバイバナル商会の取引札があるんだからね」


 この取引札がどこまで効力がありかはわからないけど、ローダルさんの謎の力もある。安い押し車(リヤカー)は買えるはずだわ。


「とりあえずバイバナル商会に行ってみましょう。ダメなときは別の方法を考えるわ」


 一輪車くらいならわたしの腕でも作れるはずだわ。何なら橇でもいいわ。わたしの固有魔法が付与魔法なら摩擦係数を減らせることだって出来るわ。

 

 お城からバイバナル商会は近いのですぐに到着。商会の人らしきおじさんぬ取引札を見せて声を掛けた。


「いらっしゃいませ。どんなご用でしょうか?」


 さすが一流商会。相手が子供でも横柄になったりしないか。バイバナル商会の凄さがよくわかるわね……。


「安くていいので押し車を売っていただけませんか?」


 いくらか知らないけど、安いものなら買えるでしょう。買えなくても一輪車のタイヤくらいは買うるはずだわ。


「お金は銅貨ばかりで申し訳ないのですが」


 数えてないからわからないけど、八十枚くらいはあるはずだわ。


「構いませんよ。銅貨はよく使うものなので、何枚あろうと迷惑になることはありません」


 一般庶民は一回の買い物で銀貨なんて使うことないってことか。ジャラジャラさせての買い物って大変よね。


「よかった。これで買えるのありますか?」


「ありますよ。よく売れるものであり、よく売られるものですから。こちらです」


 商会の中ではなく、倉庫が多く立ち並ぶ場所に案内された。


 そこには押し車がたくさん並べられており、まさにピンキリだった。


「わたしたち二人で押せるものが欲しいんですけど、ありますかね?」


 まだ九歳と十歳。一人で押すのは小さくなっちゃう。二人で一緒に押せるサイズのがいいでしょう。


「それならあれですね。あれを出してください」


 ここを管理してるっぽいおじさんに言うと、並ぶ真ん中のを出してくれた。


 具合を確かめると軋みもなくキズも少なかった。うん。いいわね。


「これ、いくらですか?」


「銅貨でしたら五十枚です」


「安くないですか?」


 銅貨一枚百円だとして五千円は安すぎるでしょう。それとも相場がそのくらあなの?


「本来は銀貨二枚ですが、キャロル様が何かを買いに来たときは安く売って欲しいとローダル様にお願いされておりました」


 またローダルさんか。あの人、どこぞの王子様とかなの?

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