第24話 服屋

 想像してたより古着屋が大きかった。


 いや、棒コンビニくらいの広さしかないお店だけど、この時代を考えればかなり大きいほうでしょうよ。そもそも店を構えていること自体凄いことだわ。他は広場で商売しているんだからね。


「こんにちは~。服を見せてもらっていいですか~」


 軽い感じで店に入り、店員さんらしきお姉さんに軽く声をかけた。


 わたしたちのような子供が来てびっくりしたのか、数秒間、わあしたちを左右交互に見ていた。


「あ、これってここでも使えますか?」


 ローダルさんからもらった取引札をお姉さんに見せた。ちなみにどう使えるかは知りません。


「バイバナル商会の札じゃない。どうしたの?」


「ローダルさんって行商人からいただきました」


 隠すよう言われてないので素直に教えた。


「あ、ああ、あの人かい。それならいいよ。見ていきな」


 まだ若いのに結構顔が知られているんだ。ほんと、あの人って何者なのかしらね?


「ありがとうございます。気に入ったものがあったら買わせてもらいますね」


「随分と丁寧な子だね。商人の娘なのかい?」


「いえ、農民の娘ですよ。家の手伝いはあまりやってませんけどね」


 さすがに秋の収穫は手伝わなくちゃならないけど、それ以外は好き勝手させてもらっているわ。前世の記憶が蘇る前のキャロルも秋以外は好きにやっていろ的な感じだったし。


「そ、そうなの? ま、まあ、好きに見ていいよ」


「ありがとうございます。針や糸もありますか?」


「ああ、あるよ。買うかい?」


「はい、お願いします。自分でも服を直してみたいので」


 わたしの器用さなら繕い物もできると思う。成長する前に下着類を作っておきたいわ。今は薄汚れたブリーフみたいなパンツなものなんだもの。可愛くないわ。


「抜も売ってますか?」


「抜はマーリック商会で買うといいよ。あっちのほうが品数豊富だからね」


 マーリック商会か。そっちは今度ね。


 子供用服を見せてもらうと、結構な量があった。なんで?


「十五年くらい前に女ばかり生まれたときがあってね、足りないってんで他から取り寄せたものの、次は男ばかり生まれる年が二、三年続いたんだよ。そのせいで着れなくなった女服が二年前くらいから持ち込まれてんだよ」


 不思議なこともあるものね。まあ、わたしたちにはありがたいことだけどさ。


 選び放題の中から質のよさそうなものと普段着る用のを三着、わたしとティナのを選んだ。


「本当に金を持っていたんだね」


 まあ、この年齢でこの見た目だ。買うと言ったところでなかなか信じてもらえないでしょうよ。


「はい。いくらですか?」


「あ、うん、そうだね。バイバナル商会の取引札を持っているし、全部で銀貨二枚と銅貨十五枚でいいよ。針と糸はオマケだ。また買いにきておくれ」


 安くなったのかわからないけど、価格がわからないのだから値引き交渉もできない。ぼったくれてたら勉強代ってことにしておきましょう。


 レジ袋なんてないので、服は背負い籠に入れ、針と糸は鞄に仕舞った。


「ありがとうございました」


「礼を言うのはこちらのほうなのに変わった子だよ」


 こちらの世界ではいいものを買えたらお礼とか言ったりしないんだ。なんか殺伐としているわね。


 服屋を出たら今日はまっすぐ家に買えるとする。裾を合わせたり改造したりしたいからね。


 家に帰ると、なんだかおばちゃんたちが増えていた。


「ただいま~。凄い賑わいだね」


 家の中にもおばちゃんたちがいて、しゃべっているのか料理をしているのかわからない状況だった。これじゃ服を直している暇も場所もないわね。


「なんだかうちが集会所みたいになっちゃったよ」


 集会所って言っても広場に集まるところを言っており、お茶を飲んだり食べたりする場所じゃない。もううちが集会所と言っても過言じゃないわね。


「もうお店を開いたらいいんじゃない? 場所代をもらって、料理とお風呂を提供するとかね。暇なおばちゃんを雇えば小遣い稼ぎにもなるんじゃない」


 スーパー銭湯みたいな感じにすれば儲けれるんじゃない?


「商売かい? わたしは金勘定は苦手だよ」


「それはわたしがやるよ。そう大きな勘定じゃなければできるようになったからね。忙しくなったら勘定できる人を雇えばいいよ。なんならあんちゃんを呼び戻せばいいんじゃない? 行商で勘定は覚えるんだからさ」


 行商人の弟子になったのは修業の一つで、行商人になりたいってわけじゃないって言ってた。その先は知らないけど、農業を継ぐわけじゃないんだからあんちゃんに経営をやらせたらいいわ。


「しばらくは場所代で銅貨二枚でやってみたら? お風呂を焚くにも薪代はかかるんだからさ」


 これから秋の収穫が始まるけど、この分だと汗を流しに来る流れだと思う。要望が高まってからやるより今からやったほうが混乱がないと思うわ。


「いいじゃないか。ここが集会所になってくれたらあたしらも嬉しいからね」


「そうそう。銅貨二枚くらいなら毎日入り浸ることもないだろうからね」


 お金を取ることに反対する者はいなかった。


「自分たちの家で作ったものを売るのもいいかもよ。市場まで行くのも大変だし、それこそ小遣い稼ぎになるよ」


 そうすればわたしも市場まで行かなくて助かるわ。ってまあ、物はあちらのほうが揃っているから行くんだけどね。


「うーん。じゃあ、ガロスと相談してみるよ」


 そうだね。お父ちゃんにも関係あることだしね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る