第6話 魔法使い

「どうだい、売れたかい?」


 完全におしゃべりに来たとしか思えないお母ちゃん。三時間も話すとかどんだけ話題を持ってんのよ? 待ちくたびれよ!


「うん。武器を持った人たちが全部買ってくれた。あと、全部買うからって一束オマケにした」


「ああ、それは冒険者たちだね。またウールが大量に出たんだね」


 ウールとは飛べない鳥で、たまに大量発生するんだってさ。キャロルの記憶にはないけど。


「市場にも流れてくるかな?」


「んー。どうだろう? ウールは人気だから王都に流れるかもしれないね」


「王都?」


「この国の中心だよ。ここから歩いて五日くらいかかるって話だ」


 五日か。一日三十キロ歩けるとして、五日なら百五十キロってところね。それでも王都に流れるってことは高級食材なのね、ウールって。


「あと、冒険者ギルドって何?」


「うーん。何でも屋って感じかね? 魔物と戦ったりする冒険者もいるけど、村でやっている冒険者は狩りをしたり薬草採取したりだね。縄を買いに来たのも駆け出しだろうね」


「魔法使いのおねえさんも低ランクって言ってた」


「最近は魔法使いが人気だね~」


「人気でなれるものなの?」


 なりたいと思ったらなれるものなの、魔法使いって?


「少し前に魔力がわかる魔道具が出来たそうで、冒険者になったもんが調べるようになったって聞いたよ」


 どうやらいい時代に生まれたようね、わたし。


「ねぇ、お母ちゃん。わたしも冒険者になれる?」


「そうだね。ちょっと前までならそれもよかったけど、今のキャロなら結婚したほうがいいかもね」


 結婚? え? わたし十歳だよ? 早くない?


「まあ、結婚って言っても十五になったらだよ。成人前の結婚は法で罰せられるからね」


 ホッ。ちゃんと法が守られているところでよかった。異世界、やるじゃん。


「働く場所ってないの?」


「んー。ないこともないだろうけど、うちにそんな伝手はないからね。結婚するのが一番早いと思うよ。あたしも十五で結婚したしね」


 え? ってことはお母ちゃん、三十歳? いや、妊娠期間を考えたら三十一、二歳か。申し訳ないけど、四十過ぎているのかと思ってた。外国人顔だから老けて見えるのか……?


「冒険者は何歳からなれるの?」


「……確か、十二歳だったっけ? どうしても知りたいならマグスに訊きな。冒険者から依頼されるときがあるみたいだからね」


 あんちゃんか。わたし(キャロル)、あんちゃんが荷馬業をやっているってことしか知らないや。


「それはともかく、大銅貨二枚なら肉は買えそうだね」


「買えるの?」


 銅貨一枚百円として大銅貨一枚は……二千円か? わたし、前世で買い物したから肉がいくらか知らないや。二千円だとどのくらい買えるものなの?


「ああ。大銅貨一枚なら結構買えるよ」


 店仕舞いして露店区(わたし命名)に向かうと、肉が吊るしてある露店がいくつかあった。衛生的に大丈夫なの?


「豚?」


 豚の記憶はわたし(キャロル)の中にあった。近所でも豚を飼っているのを見たこともあるわ。


「四プロムもらえるかい?」


 プロム? ここの単位? 


「あいよ。大銅貨一枚と銅貨二枚ね」


 露店のおじちゃんは、吊るした肉を包丁で切り落とした。大きさはわたしの両手くらい。それが四つで四プロムか。一枚三百グラムって感じかな? 某ハンバーグチェーン店の比較だから合っているかはわからないけど。


「はい、四プロムとお釣りね」


 大きな葉に包まれて渡された。紙はないのかな?


「ほら。銅貨二枚は小遣いだよ」


「小遣い?」


「あ、小遣いを知らないか。まあ、がんばったお礼だよ。せっかくだから金の使い方を学びな」


「銅貨二枚で何が買えるの?」


「それを学ぶんだよ。また縄を編んで売りに来たときに学びな」


 スパルタなのか優しいのかわからない教育をするな~。まあ、学んでいいのならありがたく学ばせてもらうとしましょう。


 肉を買って買えると、珍しいことにあんちゃんが帰っていた。いつもは暗くなってから帰ってくるのに。肉を察知したのかな?


「明日から王都に出ることになったんだよ」


「あーあれかい? ウールを運ぶのかい?」


「ああ、そうだよ。よく知ってるね」


「今日、市場に行ったんだよ。キャロが編んだ縄がすべて売れたからね」


 市場でのことをあんちゃんに語ると、ウールが大量に現れた話を聞かせてくれ、お土産に生きたウールを一匹もらってきたとのこと。


「これがウールなんだ」


 鶏くらいのサイズで、茶色い毛を生やしたヤンバ……なんだっけ? まあ、そんな感じの鳥だった。


「今日は豚肉を買ったからウールはまた今度にしようか。メスなら卵を産むかもしれないしね」


「卵、産むの?」


「メスならね」


 誰もウールの雌雄がわからないので、とりあえず飼うことになり、わたしが面倒見ることになった。


「逃げない?」


「こいつらは単独では大人しいし、臆病だから逃げたりしないよ」


「増えると厄介なの?」


「まあ、厄介だな。こいつらは増えるときはとんでもない勢いで増えて、農作物を食い尽くすんだよ。それを狙って狼やゴブリンが集まってくる。それで村が滅んだって話はよく聞くよ」


 ゴ、ゴブリン、いるんだ。襲われちゃう系なの?


「ゴブリン、襲って来る?」


「うーん。ゴブリンは冒険者の練習相手にされるからな、山の奥にでも入らないと見れないって話だ。滅多なことじゃ村には出ないよ」


 何かフラグを立てたっぽいけど、わたしにはよく切れる鉈がある。いつ現れてもいいよう練習しておこう。あ、目潰しも作っておこうっと。

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