第4話 ミロの実
「……あんたは手加減を知らないのかい……」
納屋の後ろの雑木を根絶やしにしたわたしを呆れた顔で見るお母ちゃん。ナハハ……。
ま、まあ、釜戸用の小枝が出来たし、物が置けるようになったのでお咎めはなし。鉈を取り上げられることもなかった。
「しかし、鉈って切れ味いいものなのね。わたしの太ももくらいある木を簡単に一刀両断しちゃったわ」
切れ味よすぎて下手に扱えないわね。周りをよく見て振らないと。
ボロ布をお母ちゃんからもらい、よく拭いてから鞘に戻した。
「キャロ。小枝を手頃な束にして薪小屋に運んでおきな」
「はーい」
縄はたくさんあるので切り落とした小枝をすべて纏め、薪小屋に運んだ。
「冬は寒いんだね」
半分くらいなくなった薪を見てたら冬の記憶が蘇った。
ずっと病院生活だったからわたしは冬の寒さを知らない。けど、凍えるほど寒いってのはキャロルの記憶でわかった。
「そりゃ、強くなるわね」
あの冬を乗り越えているんだから体も強くなるってものだ。前世のわたしなら一日も堪えられなかったでしょうよ。
「お母ちゃん、片付けたよ。他にやることある?」
「怠けるのも面倒だけど、働き者ってのも面倒だね。なら、竹を切っておくれ」
竹、この世界にもあったのね。あ、作業部屋に竹が積み重ねてあったわ。たまに切るのを手伝わされていたっけ。
「お母ちゃん。わたしも使っていい? 籠編んでみたい」
「またバカみたいに作るんじゃないよ」
「わかった」
まずは竹を切ることをマスターしましょうかね。
お父ちゃんやあんちゃんが帰ってくるまで竹を切り、またお母ちゃんに切りすぎと怒られたけど、使った分はわたしが切ってくることで許してもらったわ。
夕食を食べたロウソクがもったいないのですぐに就寝だ。
キャロルは寝つくのが早いので、夜中に廁に行くこともない。目覚めたときは朝だった。
わたしに任された仕事は水汲み。井戸から木のバケツで台所の樽に水をいっぱいにする。五往復もすれば終わる仕事だ。
「こんなんでいいの?」
なんかこう、漫画や小説では寝る間もないくらい忙しいイメージがあったんだけど、ここでの暮らしは拍子抜けするくらいのんびりしている。
食べ物はそうバラエティーはないものの三食は食べられ、朝も意外とのんびりだ。時計がないからわからないけど、お父ちゃんもお母ちゃんも大分太陽が昇ってからだし、あんちゃんも八時くらいに家を出ていた。
ハードモードな異世界ライフは嫌だけど、さすがにこれはスローライフすぎる。もうちょっと刺激が欲しいものだわ。
「どこかに鶏とかいないかしら?」
異世界転生の定番、マヨネーズを作ってみたいわ。あ、酢とかあるのかしら?
「って、酢、あるんだ。キャベツに使うのかな?」
キャベツを酢で漬けたものは漫画で読んだ気がするな。
「砂糖や味噌はなしか」
主な調味料は塩で、香辛料みたいなもので味をつける感じかな?
「もう起きてたのかい。早起きになったもんだね」
台所で佇んでいたらお母ちゃんが起きてきた。
「おはよう。何にか手伝うことある? 水汲みは終わったよ」
「忙しくないんだから大人しくしてな」
と、台所から追い出されてしまった。
「仕方がない。今の周りを探索するか」
今日の朝食も買い置きしている堅いパンに茹で芋。塩野菜スープだ。十分もしないで完成されるわ。
「さすがに飽きてきたな~」
一日二日は味や食感に感動したけど、人間は慣れる生き物。もっと違うものを食べたくて仕方がないわ。
「人間って贅沢よね」
まあ、贅沢が人を成長させるもの。こうして健康な体に生まれ変わったのなら美味しいものを求めるのもいいかもね。ちょっとずつ美味しいものを探していくとしましょうか。
家の周りを歩き回り、キャロルの記憶を探りながら食べられるものがないかを探した。
「……何もないわね……」
季節的に野に生るものはない。あるのはミロの実か……。
「油は取れるみたいだけど、質が悪くて売り物にならないか」
昔、油を取るために植えられたみたいだけど、花の種から良質の油が取れるようになって捨て置かれてしまったものだ。
「たくさんあるのに」
実は今の時期と冬の前に二度生る優れものなのに残念よね……。
「いや、待てよ。油が取れるなら石鹸が作れるんじゃない?」
灰汁と油を混ぜて固めればいいんだよね? 布と灰汁を煮る鍋があれば行けるんじゃね?
「お母ちゃん。ミロの実から油を取る方法って知っている?」
前にお母ちゃんが子供の頃に手伝わされたって言ってた記憶がある。キャロルは油取りしなくなってよかったって喜んでいたわ。
「また変なこと訊いてくるね。ミロの実の油なんてどうすんだい? 油なんて今は安く買えるんだよ」
油って高価なイメージがあったけど、ここではそうじゃないんだ。
「ちょっといい考えが思いついたの。教えて!」
「まあ、騒がれるのも面倒だしね。納屋に昔使っていた道具があるよ」
って言うので納屋に行ってみると、それっぽいものが埃を被っていた。
棚から下ろし、具合を見たら壊れているところはなかった。
よし! 石鹸が作れるわ!
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