第27話 天才と誕生日会

 「林田さん、だいぶ参っちゃってて、ご飯も食べないし、ほとんどお話もできないの。旦那さんが来られたら少しはマシになると思うんだけど」


 僕は正直、虐待をするような人を心から軽べつしている。テレビのニュースでしか見たことなかったけど、いじめと同じように現実に存在するんだとがっかりした。しかし、虐待にも原因ぐらいはあるだろうと思った。また考えることが増えてしまった。林田のお母さんはなぜ自分の子供を虐待していたのか。


 僕はもう一つの用件を思い出したように母さんに伝えた。母さんはかなり迷ってOKしてくれた。迷うのも仕方ないと思う。こんな時に須藤の誕生日会なんて。

須藤の下の名前は夏に美しいと書いて「夏美」という。知ってはいたけど、まさか今日が誕生日だとは。知らなかったとはいえ、こんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思う。だからせめて、今日の昼間、小さくても誕生日会みたいなことができないかと母さんにお願いした。林田のお母さんのことは病院に任せて、帰りにお昼ご飯とケーキを買ってきてくれることになった。須藤には木村から言っておいてくれるようなので、僕は健二郎にもメールをして部屋を片付けておこう。


「ミク、須藤の誕生日会するから片付け手伝って」

ミクは一瞬、すごく驚いた顔をしたが、

「うん」と頷いてテーブルをパパッと片付け始めてくれた。確かに、こんな時に良くないのかもしれないけど、どうせお昼ご飯は食べるんだし、そんなに驚くことだろうか。しかし、ミクは手際がいい。あの母親のことだ、もしかしたら、家でも家事をやらされているのかもしれない。誕生日会とか開いてもらえるんだろうか?もし、近ければ一緒に祝ってあげられる。

「ミクの誕生日は?何月?」

「し、四月」

「何日?」

「二日」


「へー!四月だったら学年でほぼ一番年上じゃん!いいなー」

とだけ言っておいた。

ミクは僕と二人ならしゃべってくれるんだと安心した。


そうこうしていると、母さんが大荷物をぶら下げて帰ってきた。健二郎が同じタイミングで後ろについてきている。

「母さん、こんなに?すごいじゃん」

「あんたのお年玉から引いとくからね」


ひどい、ひとでなしだ。うちの兄弟は誕生日が近いから、まとめて祝われるというのにその時よりも豪華に見えるのは気のせいだろうか。きっと母さんは見栄を張っている。やっぱり大人は汚い。


「健二郎、須藤は?」

「一回家に帰ってから来るって」

じゃあいつ戻ってきてもおかしくないな。木村は間に合うだろうか。木村のことだからうまくやるだろう。


近頃は夏だというのに、涼しくて助かる。

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