第25話 天才と脱走
ミクが目を話した隙に脱走してしまった。
僕の家はマンションの一階で、小さいベランダがついている。ベランダにさえ出てしまえば、フェンスをよじ登れば、フェンスと生垣の間に生垣手入れ用の細い道がある。生垣はかなり高くて登れないが、そこを通れば簡単に出れてしまう。僕が小学校の頃家の鍵を忘れた時と逆の順路だ。だから幸いなことに、ルートは熟知している。我ながら、ゆるゆるなセキュリティの家だと思うが、今はそんなことを考えている場合ではない。
「木村!僕の携帯にかけて!」
「え、はい!」
僕はそう言ってベランダと反対の正面玄関から飛び出した。
細い道の先はマンション住人用の駐輪場につながっている。そこまでは地面がガタガタだから裸足ではスピードが落ちる。僕は駐輪場の前で逃亡犯を確保した。
「木村、大丈夫。捕まえた」
僕は木村を安心させて携帯の通話を切った。
ミクは観念したようで、おとなしく連れ戻された。それ以来、ごめんなさいとばかり呟いて、膝を抱えてソファーに座り、何も話さなくなってしまった。
時計は午前十一時を過ぎていた。外はお盆だというのに、台風の影響か、なまぬるい風が吹き始めている。
僕はこの後、健二郎の家に行って、チェンジリングについての調査をしようと思っていたが、少なくとも母さんが帰ってくるまではミクから目が離せなくなってしまった。
健二郎には、「逃亡犯監視中」とだけメールした。
木村と須藤に任せても良いのだが、何かあった時に二人に責任を押し付けたくないと思い三人を残してどこかに行くわけにはいかないと思った。
「須藤、もし時間あったら健二郎のところ行ってくれないか?」
「へ?うち?」
「うん、健二郎が喜ぶ」
「え?それって、え!?まじ!?」
マジかどうか僕にはわからないが、木村よりはバスケ部のマネージャーである須藤が行った方が健二郎はやりやすいだろうと思った。他意はない。
健二郎に「代打、須藤。何かわかったら教えて」とだけメールした。
すぐに返信が来て「なんでそうなるんだよ!」と言われたが。僕はいや、別にそういうこともあるだろうと思って、その後返信しなかった。
そのやりとりを聞いていた木村が僕の横で、「ハッシーってそういうとこあるよね」と呟いた。
どういうところかは考えないようにした。
その後、ミクに何度か話しかけたが、顔を伏せ気味に目だけ僕の方をじっと睨んで黙っていた。どうやら嫌われてしまったようだ。しかし、この時が今までの人生で一番、林田と目が合っている時間だった。
二〇分ぐらい経って、健二郎の家から電話がかかってきた。
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