第3話 出陣 視点副騎士団長

翌朝

朝霧が晴れると空は快晴だった。


昨日、自分が本陣を訪れた時には既に前祝とやらの酒宴が始まっていて、作戦らしい作戦は何も決まっていない。


朝一で各将に本陣への参陣が求められたが、閣下は自軍に残り独自に兵を動かすと宣言し、かわりに自分が本陣へと馬を走らせている。


昨夜閣下と話したが、今回の合戦は危ういかもしれない。


本陣に付くと総大将の聖神騎士団長が敵本陣を魔術で拡大させて見ていた。

相手魔王はこちらの総大将よりも幼い少女。


黒い革鎧に兜はつけず、簡易王冠を、ちょこんと頭に載せ輿の上に胡座をかいて座っている。


が、こちらに気が付いたか、突然立ち上がり中指を突き立て、その中指でアカンベェをして見せた。


幼い少女らしく可愛らしい挑発だったが、総大将を始め諸国国王のプライドを酷く刺激したようだ。


「傭兵隊は戦場から離れつつあるゴブリン部隊を追撃なさい!」

戦場から離脱してゆくゴブリンなど捨て置けば良いものをワザワザ追撃を出した。


傭兵隊長は憮然とした顔で出てゆく。


「傭兵にはゴブリン討伐ぐらいの武勲が順当ですな」

誰かが、そう呟き笑い声が上がった。


「諸将の皆様は前進して、あの生意気な小娘の首をお取り下さい。」


「1番手柄の方には、わたくしが特別な祝福をして差し上げますわ。」

総大将が妖艶に微笑む。


大司教の愛人と噂される聖神派諸国一の美女。

少女のあどけなさと娼婦の妖艶さを合わせ持つ不思議な女。


その激励が効いたかは知らないが諸王や教団兵長が我先にと本陣を出てゆく。


「北方騎士副団長殿はゆっくりですのね。」

結局最後になってしまった自分に皮肉を込めて総大将が声をかけてきた。


「早い男は嫌われますからね。」

微妙な返しに総大将は声を出して笑う。

下品な女だ。

だが合戦前の戦場には、これらの輩が、ごまんといる。

単に高級か、そうでないかの違いだけだ。


「奮戦を期待していますよ。」

総大将の激励に一礼をして自分も本陣を離れた。


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