#41 探索者として認定された

 コメント欄などでいただいたアドバイスや、サイトの内容を参考に、役所に提出する資料を作成。この資料で審査に合格すれば、国が定めた基準を満たしたダンジョン探索者として登録され、危険度の高い攻略済みダンジョンに挑むことが出来るようになる。


 未攻略ダンジョンに挑むための免許取得まで道のりは長いが、地道に実績を重ねて行く以外に道はない。まずはこの審査に合格して、免許取得への足がかりを作りたいところである。


 一通り揃えた資料を役所に提出してからしばし。俺達は家で待機し、結果の連絡が来るのを待っていた。その間、ダンジョン配信は出来ていない。ダンジョンの復活と言う異例の出来事が起こったことにより、攻略済みダンジョンであっても、許可なく侵入することが禁止されたのだ。これが一時的なもので終わるのか、恒久的なものになるのかはわからないが、危険が及ぶ可能性があるのだから、措置としては順当だろう。


 幸い、視聴者が増えたことで、収入も安定してきているし、生活費を丸ごと賄えないまでも、実家からの仕送りも含めて多少の余裕も出てきた。あまりダンジョン配信の期間を空けて勢いをそがれたくはないが、こればかりはどうしようもないので、4人揃って、ひたすらにその時を待つ。


 そしてついに、審査結果と思われる郵便物が役所名義で届いた。4人でテーブルを囲み、頷き合ってから開封。結果は――。


「……合格だ」


 書面に記載された、「あなたをダンジョン探索者として認めます」の文字。これで俺は、正式にダンジョン探索者として登録され、許可さえ貰えばダンジョンに立ち入ることが出来るようになる。怪異化の辺りを行政がどう捉えたかはわからないものの、ともあれ合格は合格だ。


「何よ。あれだけ成果を上げたんだから、もっと早く合格通知を寄こしてもいいんじゃない?」

「ぽぽぽぽぽ(これでダンジョン配信を再開出来ますね)」

「やれやれ。随分と待たされたからの。すっかり運動不足になってしまったわい」


 3人とも反応はそれぞれだが、この結果を喜んでいる様子。いつの間にか一緒にいるのが当たり前になってしまったが、これはこれでにぎやかでいい。あとはまた準備を整えて、ダンジョン配信に挑むだけである。


 探索者になって最初のダンジョン配信は、攻略済みダンジョンの再調査。行政が委託先を探していたところを、上手く契約に漕ぎ着けたのである。元々の危険度はそう高くないダンジョンではあったものの、以前のようにダンジョンが復活している可能性がある以上、再調査は必要だ。


 そういう訳で、今回も俺がメインアタッカーとして、前衛を務め、後衛に花子さん、澄香さん、芳恵さんと言う布陣で挑む。後衛3人には、以前と同様ウェアラブルカメラを装着。上手いこと分散して、俺の姿を常に映せるよう勤めてもらう。


「久しぶりね、この感覚。胸が熱くなるわ」

「ぽぽぽぽ。ぽぽぽぽぽ(あんまり先行し過ぎないようにね。前みたいなことになると大変だから)」

「花子は興奮するとすぐに周りが見えなくなる性質たちじゃからの。気ぃつけぇよ」

「……わかってるって。私だって、あいつがあんな風になっちゃうのは本意じゃないし」


 後ろで女性陣が何やらこそこそと話しをしているようだが、久しぶりになってしまったダンジョン配信をぐだぐだな展開にはしたくない。俺は振り返って、3人に声をかけ、注意を促す。


「そろそろ配信開始の時間だし、お喋りはそこまで。みんなカメラの調子とか大丈夫か確認してね」


 俺の声かけに真っ先に反応したのは花子さんだ。腰に手を当てて、いかにも自信たっぷりに答えて見せる。


「そんなの言われるまでもないわ。カメラの画像良好。マイクの音も拾ってるから音声もばっちり。後は配信開始してから視聴者の反応見ながら音量調整すれば完璧よ」

「それは何より。澄香さんと芳恵さんの方も大丈夫そう?」

「ぽぽぽぽ、ぽぽぽ(一応確認しておくけど、問題ないと思うよ)」

「儂ゃ機械の類は苦手だからの、花子に任せとるわ」


 元々機械に強い澄香さんは問題ないだろうし、花子さんが確認してくれるなら、芳恵さんの方も大丈夫なはず。そんなこんなでTwuitterトゥイッターで告知した時間になったので、配信を開始。もちろん出だしの文句は決まっている。


「どうも、こんにちはこんばんは。TAKAです。今回も始まりました『トイレの花子さんと行くダンジョン配信珍道中』。最早レギュラーとなりつつある八尺様、ターボばあちゃんもお迎えして、豪華メンバーでお贈りして行きま~す」


 そうして、俺達のダンジョン配信が始まった。花子さんとの出会いがきっかけで始めたダンジョン配信。気付けば複数の怪異に囲まれた、とんでもライフとなっていた訳だが、俺はこれからも彼女達とダンジョン配信を続けるだろう。


 全ては世の怪異達を救うため。などと大げさに叫ぶようなことではないが、せめて手の届く範囲にいる怪異くらいは、このチャンネルを使って救ってみせる。そんな使命感を胸に秘めて、俺は彼女達とともに、次なるダンジョンへと踏み込むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る