#37 新たなダンジョンボス

 「迷いの岩屋」と呼ばれていたこのダンジョン。しかし、今は登録されている情報とはまったく異なる状態になっていた。情報にないモンスターの強さや、新たなモンスターの出現。当初想定していた実績作りとはかけ離れてしまったが、何が起こっているのかわからなければ、報告のしようもない。とにかく今は奥に進み、状況の把握を行うのが先決だ。解決まで持って行ければ実績にもなるので、今出来る最善を尽くすのがいいだろう。


 そういう訳で、第4階層を制圧した俺達は、更にしたの階層を目指した。第5階層。情報によれば、この階層にいるモンスターは、ゴブリンファイターと名付けられた、棍棒を持ったゴブリン。モンスターとは言え、能力は人間の子どもと同程度で、危険度はそれほど高くない。許可なく立ち入れるダンジョンらしい危険度と言えるが、実際にそこにいたのは金棒らしきものを持ったゴブリンだった。


 ゴブリンに金属を加工する技術があるのかは不明であるものの、棍棒に比べて金棒の方が攻撃力が高いのは事実。見た目も何だか凶悪で、ネットで見た画像に比べて強そうに見える。やはり事前情報と違うモンスターだ。


「とりあえず全滅させてから次の階層に行こう。帰りは何があるかわからないし」


 帰りは当然消耗しているし、もし本当にダンジョンボスが新たに生まれていたとしたら、こちらも五体満足とは限らない。仮にダンジョンボスがいたとして、どの程度の強さなのかもわからないのだから、油断は禁物である。


 幸いと言うべきか、この階層にホブゴブリンはおらず、比較的に楽に攻略出来た。あくまで可能性だが、多くの戦力が第4階層に侵攻していて、こちらが手薄になっていたのかも知れない。このまま順調に第9階層に辿り着けるといいのだが。


 第6、第7と進み、第8階層。流石にここまで来ると、モンスターの強さもかなり上がっている。目の届く範囲に、ホブゴブリンが5体。流石に金剛樹こんごうじゅの棍棒を持っている個体はいないが、それでもあの巨体だ。そう易々と通してはくれないだろう。


 俺は芳恵さんに指示を出して、気付かれない速さでホブゴブリンの向こうに移動してもらい、画角を確保。カメラに移るギリギリの速さを使って、単身ホブゴブリンの集団に突っ込み、1体ずつ確実に強化バールで仕留めて行く。相手が武器を持っていないぶん、近づきやすいと言うこともあっただろうが、やはり怪異化の能力は破格だ。


 八尺様由来のパワーと頑強さに加え、ターボばあちゃん由来のスピードと感覚速度の上昇。ついでにトイレの花子さん由来の念動力でトイレ用洗剤を操れば、目くらましにも使えると来ている。ここまで来る間にだいぶ能力のコントロールも安定して来た。このままの難易度であれば、そう長くかからずに、このダンジョンを制覇出来るだろう。


 そして、いよいよこのダンジョンの最奥である第9階層。そこは天井が高く、広い空間になっていて、いかにもボス部屋と言った風格があった。その中央には、すらりとした体型のモンスターが1体。顔はゴブリンに近いが、これまでにこのダンジョンで見てきたどの種類とも違う。


 それでも、俺にはその風貌に見覚えがあった。ゴブリンの中でも希少とされる、魔法を使うゴブリン。通称ゴブリンメイジ。いかにもファンタジー世界の存在といったその能力から、テレビ番組で取り上げられていたのだ。


「あいつが新しいダンジョンボスか?」


 元々このダンジョンのボスだったのは、ゴブリンシャーマンをリーダーとするゴブリンの集団。通常のゴブリンを倒してもゴブリンシャーマンが復活させてしまうと言う、長時間に渡る消耗戦だったらしい。


 とにかく、このダンジョンにゴブリンメイジはいないはず。だとすれば、ゴブリンメイジが新しいダンジョンボスだと考えるのが妥当だろう。


 このゴブリンメイジ。使う魔法は未知数だが、この場には魔法を実際に目にしたメンバーはいない以上、これまで以上に注意を厳重にするべきだ。使う魔法によっては撤退も視野に入れつつ、俺は3人に声をかけ、情報を共有する。


「そういう訳で、突発的なボス戦だけど、みんな注意して行こう」

「まさか魔法を目にする機会が来るとは思わなかったけど、いいわ。やってやろうじゃない」

「ぽぽぽぽ、ぽぽぽ?(危なそうだったら声をかけるから、ちゃんと生きて帰ろうね?)」

「そうじゃな。こんなしみったれたところでおっぬなんざ、若者わかもんのすることじゃない」


 心配されるのも無理はないかも知れないが、少なくとも、俺にはみんなの能力が備わっている。無様な姿を視聴者に晒す訳にも行かないし、とにかく全力で挑むだけだ。


「それじゃあ、いっちょやってやりますか!」


 俺は3人とともに、物陰から一気にゴブリンメイジに強襲をかけた。

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