#31 豪華メンバーでダンジョン配信を開始した

 いくら配信動画がバズったとは言え、それはあくまで他者の支援の賜物。その上に胡坐をかいていれば、この注目もすぐに下火になることは目に見えている。


 とすれば、出来るだけ早いうちに次の配信を行い、集まった人達を固定視聴者にすることが先決。そして、バズった後に配信を行うのなら、これまでにない規模の配信にしたいところだ。


 そういう訳で、召集したのは、これまでに出会った怪異のフルメンバー。花子さん、八尺様、ターボばあちゃんの三人である。今回の配信の目的は、より難易度の高いダンジョンに潜るための準備と言ったところか。


 流石にいきなりダンジョン探索免許を取得することは出来ないので、今はその前段階。立ち入るのに行政の許可が必要なダンジョンに挑めるようにするための、実績集めである。


「話には聞いてたけど、実際にやるとなると、やっぱりめんどくさいわね」

「まぁ、花子さん達が全員人間だったら、もう許可も取れたんだろうけどね」


 俺達がもぐって来たダンジョンの数と、モンスターの討伐実績。それが一定以上示せれば、行政から許可が下りる訳だが、問題は花子さん達が人間ではないという点。いくら実績を挙げているとは言え、戸籍がないどころか人間ですらない者に対する対応マニュアルは、行政には存在しないのだ。


 つまり、花子さん達がいくら活躍したところで、この先行政を通したやり取りの役には立たない。となれば、メンバーで唯一の人間である俺が、実績をまとめて獲得することで、行政との話をつけるしかない訳である。


 幸い。俺には怪異化という特殊能力があるし、怪異である三人が傍にいてくれれば、その能力を増幅して扱うことが可能。カメラ係を他のメンバーに任せ、俺が最前線で戦うことで、この先の活路を開くことが出来る。そう思うと心が躍るし、何より俺のチャンネルがもっと有名になれば、花子さん達の宣伝もしやすくなるのだから、これはもうやるしかない。


 と言うことで、やって来たのは行政の許可が必要ない中で最も危険度が高いダンジョン。通常は存在する地区名とナンバーで管理されているダンジョンだが、高ランクのダンジョンともなると「二つ名」のようなものが付くことがある。その一つが、今まさに目の前にある、通称「迷いの岩屋いわや」。地価に伸びる洞窟型のダンジョンで、階層は全部で九つ。浅いところはまだ安全だが、奥に進むにつれて危険度が上がる、これまでに入ったことのないタイプのダンジョンだ。


「ともあれ、ここを無事に探索出来れば、次はもっと格上のダンジョンに挑戦出来るってことかい。普段の散歩コースとは違うが、まぁいいじゃろ」

「……ぽ、ぽぽぽぽ!(……き、気をつけて行きましょう!)」


 今回のカメラ係は、花子さん、八尺様、芳恵さんの三人。先日のキラービーのハチミツで得た収入で、それぞれにウェアラブルカメラを装着してもらっている。少し手痛い出費ではあったものの、この先のダンジョン攻略のことを考えれば、両手が開いていることは最重要。加えて、三人がそれぞれの視点から撮影することによって、より臨場感のある配信が出来るのではないかと考えた訳だ。


 もちろん、そのままだと三つの視点が混在してしまうので、それぞれのカメラは手元の操作で優先権が切り替わるように設定している。この設定には骨が折れたが、いずれは俺の分も加えて、より多角的に撮影出来るようにする予定だ。問題は、花子さん達三人が、このシステムを使いこなせるかどうかだが。


「よし、それじゃあ行こう!」


 俺を先頭に、ダンジョンの奥へと歩みを進める。これまでとは段違いの緊張感。この時点で、同時接続者数は3万と言ったところ。八尺様さまはもちろん、先日のインフルエンザーの女性の声かけも、この現状に繋がっているのだろう。この期待を裏切るような配信には出来ない。俺は改めて気合を入れ直し、武器であるバールの強く握った。

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