#23 高速移動にも対応可能!

 そういう訳で、始まってしまった勝負。


 ルールは単純。このダンジョンに生息しているキラービーの巣からハチミツを手に入れて、ダンジョン最深部に先にたどり着いた方が勝ち。全て相手方が出した条件だが、花子さんが全て了承してしまったので、そのまま採用となってしまった。


「向こうの出した条件全部飲んじゃうのはどうかと思おうよ?」

「いいじゃない。どうせ負けないんだし」

「その自信はどこから――」

「こっちが今日誰とコラボしてるのか、忘れたの?」


 言われて、今日出会ったばかりの芳恵さんに顔を向ける。


 確かに、こちらには花子さんに加えて、ターボばあちゃんという戦力がおり、かつ、俺はその双方の能力を使うことが出来るのだ。カメラをどうするかという問題はあるものの、戦力としては三人と言っていい。


 対して、向こうの戦力は、女性の方の戦闘力にも寄るが、実質二人。その時点でアドバンテージはある。こちらの同行者が怪異であるということを知らなかったというのが、この差を生んだ一番の要因と言えよう。


 しかし問題なのは、キラービーの巣からしか取れないキラービーのハチミツを入手しなければならないと言うこと。実はこれがなかなかの重労働。


 キラービーはビーと名が付いている通り、ミツバチのような生態のモンスターなのだが、非常に繊細で、ちょっとした刺激にもすぐ反応してしまう性質がある。一度興奮状態になると非常に攻撃的になり、ほぼ手が付けられなくなるのが厄介なところ。とにかく物量がすごいので、少人数のパーティーでどうにかなる相手ではない。それは先方もわかっているはずだが、どうしてこんな高難易度の条件を取り入れたのだろうか。


『これ、あれじゃね? いわゆるチャンネル潰しの類』

『相手の名前聞いておけば……』

『はめられたか?』

『負けるなTAKA氏!』

『俺達は応援してるぞ!』


 チャンネル潰し。聞いたことはある。ダンジョン配信が流行はやって以降、ともに名前を聞くようになった、いわゆる迷惑系YuiTuberユイチューバーだ。


 他者のダンジョン配信に割って入り、迷惑行為を仕掛け、チャンネルを潰しにかかってくる厄介者。もしそれが本当なら、キラービーのハチミツも事前に入手していて、自分達は最短距離でダンジョンの最奥を目指すだけという可能性もある。


 ともあれ、面倒な相手に目を付けられたというのは事実。賭けの対象が俺のチャンネルの抹消だけならともかく、それはすなわち花子さん達にとっては死活問題なので、負ける訳には行かない。相手の正体が何であれ、ここは全力で勝ちに行くしかないのだ。


「芳恵さん、一応確認なんですけど。芳恵さんの高速化には、カメラの撮影機能も含まれますか?」

「ふむ。儂が持っていれば効果は出るとは思うがの。儂はその手の機械類はとんと扱えんぞ?」

「大丈夫です。能力の対象になるのなら、持っていてもらうだけで充分なので」


 俺はスマホを芳恵さんに手渡し、軽く画面とカメラの関係性を説明する。


「なるほど? このちっこい四角の中にお前さんが映るようにすればいいんじゃな?」

「はい。お願い出来ますか?」

「それくらいなら、このババアにも出来そうじゃ。よいじゃろ。引き受けよう」


 俺の気迫は芳恵さんにも伝わっているようで、彼女は快くカメラ係を引き受けてくれた。彼女の能力があれば、俺が怪異化で高速異動を使っても、カメラにはその姿が鮮明に映るはず。芳恵さんと俺が一緒にいるから成立する、奇跡のコンビネーションだ。


「花子さんは俺に掴まってて」


 そう言って、俺は花子さんを抱え上げる。突然のことに最初は慌てふためく花子さんだったが、俺の表情を見て、事の重大さを感じ取ってくれたらしい。素直に俺の首に手を回して、グッと抱きついて来た。


「とりあえず、キラービーの巣を探そう。芳恵さんの高速化を使えば、そう時間はかからないだろうし――」

「あのやたらでっかい蜂の住処なら知っておるぞい?」

「本当ですか!?」

「儂が先導してやろう。付いて来い」

「わかりました。あ、カメラは正面向きでお願いします」


 そういう訳で、俺と芳恵さんはダンジョン内を疾走する。その姿は端から見たら目にも止まらぬスピードだっただろう。怪異化という謎の現象が、こうして俺の意に沿った形で役立つのなら万々歳だ。出来れば怪異化に対するもっと専門的な知識が欲しいところではあるものの、それが説明出来る人間に当てがある訳でもない。


 とりあえず、今はチャンネル存続のために全力を尽くすのが先決。相手の正体が何であれ、こんなところでつまづいている場合ではないのだから。

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