#21 ターボばあちゃんとコラボしてみたけど、ばあちゃん動き速過ぎてカメラに映らない!?

 ともあれ、ここで出会ったのも何かの縁。命の恩人を利用するような形になってしまうのは心苦しいが、これも花子さんを盛り立てるため。俺は思い切って、ターボばあちゃんにこう切り出した。


「あの、よかったら、俺達のダンジョン配信にコラボ相手として参加してくれませんか?」

「ダンジョン配信? 最近やたらとカメラ構えながらダンジョンに入って来る若者が多いが、それのことかね?」

「そうです。こうやってダンジョン攻略の様子を、リアルタイムでネット上で公開するんですよ」

「……誰しも若い時は後先考えずに行動しがちなもんじゃが、こんなババアからしたら、それでんでたら世話ないと思うがね?」


 それを言われると返す言葉もない。事実。ターボばあちゃんがいなければ、俺はホーンラビットに致命傷を与えられていたのだから。


「まぁ、コラボだのネットだのはよくわからんが、お気に入りの散歩道で人死にが出るのは気分が悪い。ここを出るまでなら、付き合ってやらんでもないよ」


 ターボばあちゃんの思わぬ返答に、俺と花子さんは顔を見合わせる。


「言っとくけどね、花子が一緒にいるから特別ってだけだ。誰にでも付き合う訳じゃないからね」

「はい、それはもう重々に承知してます! ありがとうございます……、ええと何とお呼びすれば?」


 花子さんと違って、ターボばあちゃんと言うのは通称であって名前ではない。今までは考えたこともなかったが、本名などはあるのだろうか。


「怪異に名前を尋ねるなんて、変ってるね~、お前さん。わしゃ、絹川きぬかわ芳恵よしえだよ」


 思っていたよりも普通の名前だ。先ほどの素早い動きを見ていなければ、とても怪異だとは思わなかっただろう。


「それじゃあ、芳恵さん。よろしくお願いします」


 俺が手を差し出すと、ターボばあちゃんこと芳恵さんは、渋々ながら握り返してくれた。すると、繋いだ手を伝わって、芳恵さんの方から何かが流れ込んで来る。もしかして、これが怪異化の要因となる、怪異の能力なのだろうか。


「ちなみに、芳恵さんの怪異としての能力って何なんですか?」

「何だい、藪から棒に」


 怪訝な顔になるのも無理はない。彼女は俺の能力を知らないのだ。


 俺は先日、八尺様と出会った時に起こった怪異化について、わかっている限りのことを説明する。もちろん花子さんから聞いた情報や、憶測も混じってはいるが、俺の説明に納得したのか、芳恵さん首を縦に振った。


「そういうことなら、情報は共有して置いた方がいいね。まぁ、儂の能力は、言うまでもないだろうが高速化だ。自分の動きを何倍にも速めることが出来る。流石にほかの怪異と能力が混ざったことはないからね。お前さんの怪異化とやらが、どういう風になるかまではわからないよ?」


 高速化。つまり、地の動きが速いのではなく、怪異としての能力で、地のスピードを底上げしていると言うことか。そういうことならば、花子さんの能力とも相性はよさそうだ。俺自身が速く動けるようになるのはもちろん、花子さんの能力で操ったトイレ用具も、高速移動させることが可能かも知れない。こうして考えると、怪異化という俺の能力は、結構チート級の能力だったりするのかも。


「速さはどのくらい調節出来るんでしょう?」

「言っとくけど、そんなに細かく調整は出来ないよ。そうさな、大体三段階くらいかの」


 イメージとしては弱、中、強、くらいの感覚か。それでも、全く調整出来ない訳でなくてよかった。0か100かでは、あまりに使い勝手が悪過ぎる。


「なるほど。あ、一応、カメラ映りを確認したいので、ちょっと走ってもらってみていいですか?」

「……まぁ、いいじゃろう」


 言うなり、芳恵さんの姿が、その場から消えた。慌てて周囲を確認してみると、20メートルくらい離れたところに、芳恵さんの姿を見つける。この一瞬でこの距離を移動したのか。これは、配信との相性が悪いかも知れない。


『消えたんだが?』

『どうやってコラボするんだよw』

『あまりにも速いすり足! 俺でなきゃ見逃しちゃうね!』

『TAKA氏も一緒に高速移動すればワンチャン……』

『それだと花子さんが映らんのでは?』


 コメント欄もご覧の具合。八尺様の時は花子さんが浮くことで何とかなったが、今回はどうすれば上手く配信出来るだろう。


 そんなことを考えている間に、何者かが接近していたことに、俺は気付いていなかった。

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