#10 ダンジョン探しも楽じゃない

 最初のダンジョン攻略から数日。ようやく自由な時間が出来た俺は、次のダンジョン配信に向けた準備を行っていた。何故か当然のように俺の家に居つくようになってしまった花子さんは、俺のスマホを勝手にいじって、片っ端からダンジョン配信をチェックしている。初めて触った時はまだたどたどしかったが、今では現役女子高生も驚きの扱いっぷりだ。


「ねぇ、孝志~。次に行くダンジョン決まった~?」

「今探してるところだよ。うちから出来るだけ近くて、前のダンジョンより少し難易度の高そうなところってなると、なかなか絞り切れなくてね」


 一口にダンジョンと言っても、その形態は様々。洞窟や迷路状のものは、道が限られている分、比較的攻略が楽な方だが、中には延々と続く平原だったり、果てがあるかもわからない砂漠だったりするケースもあるらしい。そういったオープンワールドゲームみたいなダンジョンは攻略に時間がかかるので、配信者の間では倦厭されがちだ。俺だって、無限に時間がある訳ではないので、手を出そうとは思わない。


「じゃあ、ここなんてどう?」


 花子さんは、そう言ってスマホの画面を見せて来た。どうやらInustagramイヌスタグラムに貼られた画像のようだ。


 そこに写っているのは、どこかのダンジョンと思われる画像。中央に写っているのは女性のようだが、背景と比べて随分背が高いような。


「知り合いの八尺様ちゃん。インフルエンサーやってるんだけど、最近はここでよく撮影してるんだってさ」

「八尺様……ちゃん?」


 八尺様。ネットが普及し、誰もが匿名で自由に発言出来るようになった時代に生まれた都市伝説だ。古くから各地方に伝わる大女の妖怪と同一視されることもあるが、真偽は不明。近畿地方の和歌山にある「八尺鏡野」、東北地方の青森にある「八尺堂」と結び付けられるケースもあるものの、「封印に使用されていた地蔵が何者かに壊され、自由に移動出来るようになった」という記述もあり、出没場所に事欠かなくなってしまったと言う。


 それを念頭に、改めて画像に目を落とした。


 確かに、映っている女性は白いワンピース姿。つばの広い帽子を被っており、身長はかなり高く見える。前髪が長いが、顔ははっきり写っており、これがなかなかの美人さんだ。モデル顔とでも言おうか。鼻筋がしゅっとしていて、花子さんとはまた違ったタイプの美形である。


「……これが八尺様?」

「逆に聞くけど、あんたはどんなのを想像してた訳?」

「ああ、いや。そう聞かれると……」


 八尺様という存在については知っていても、高身長であることと、服装意外は、詳しい外見を想像出来ない。


「……やっぱりね」


 花子さん曰く。怪異というのは、人に認識されることで初めて形を得る。しかし、その認識に不具合――足りない情報があると、怪異はその分、人の形から崩れてしまうのだとか。怪異の姿が化物のように映るのは、そう言った理由があるのだと、花子さんは説明してくれた。


「でも、これでわかったでしょ? これが八尺様ちゃんの今の姿。インフルエンサーとして実際に活躍することで、人間達の八尺様という怪異への解像度が上がって、こういう顔に見えるようになったって訳よ」


 怪異というのも、実際に触れてみると奥が深いものである。それにしても怪異がインフルエンサーとは、随分突飛とっぴな世の中になったものだ。


「えっと、その八尺様がいるのって、どこのダンジョン?」

「このタグになってるのがダンジョンの名前なんじゃない?」


 花子さんが指差す先の文字をネット検索したところ、そこがうちから電車で数駅くらいの場所にあるダンジョンであることがわかる。公開されている情報によれば、難易度も、そう高くない。こちらも攻略済みダンジョンなので、次に向かう先としては、条件は充分に揃っていると言えた。


「よさそうだね。前のところよりもちょっとモンスターは強いみたいだけど、花子さんのあの戦いっぷりなら、たぶん行けると思う」

「……あんたは戦わない訳?」

「俺は撮影しなきゃだし、そもそも、戦力としては不合格だと思うよ?」

「……気付いてないんだ。まぁ、あたしもあんな状態だったし無理もないかな」


 意味深な発言。しかし、俺には何のことだかさっぱりだ。


「気付いてないって、何に?」

「別に、何でもな~い」


 肝心な部分をはぐらかされてしまい、この後随分悩むこととなった訳だが、何度聞いても花子さんは答えてはくれず。そのまま次のダンジョン配信当日を迎えるのだった。

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